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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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音の中の声

ガタガタ。

かんかん。

マンションの建設工事の音が主役になっている通学路。

「おはようございます」

ヘルメットをかぶった警備員さんは日に焼けた顔に皺を作って、通り抜ける一人一人に毎日声を掛けている。


雨の日はレインコートを着て、陽射しが強い日も、木枯らしが吹きすさぶ日も。

たぶん、お父さんよりも年上な感じ。

白髪が混じっているから。


でも、挨拶を返す人はいない。

私は、声に出す勇気がなくて、いつもこころの中で「おはようございます」って返事をしていた。


そんなある日。

小学生の男の子達が、

「おじさん、おはよう」

って声をあげた。


警備員さんは、いっそうの皺を目尻に作って、

「いってらっしゃい」

って返してた。


その日から――

少しずつ警備員さんの挨拶に応える人が増えてきた。

サラリーマンの人。

犬の散歩をしている人。


そして――

「おはようございます」

私が警備員さんよりも先に声を出した。

「あ、おはようございます」

嬉しそうにほほ笑む警備員さんは、

「髪切ったんですね、とても似合ってます。いってらっしゃい」

敬礼してくれた。


私が髪を切ったのはほんの数センチ。

でも気付いている。

私は嬉しくて振り返った。

小学生たちに囲まれ笑っている警備員さん。


でも――

見上げてみれば、マンションはもう少しで完成してしまう。


数日後、私は手作りのクッキーを通学途中に警備員さんに渡した。

「いや、頂くわけには……」

って、中学生の私の恐縮していたけど。

「警備員さんのおかげで、毎日安心して学校に行くことが出来きてます。それに――おはようの挨拶。とてもこころがあたたかくなりました。街の人もそう思ってると思うんです」

警備員さんは、

「じゃあ、頂きますね、ありがとう」

私なんかに深々と頭を下げて、受け取ってくれた。


それから半月後、マンションは完成して。

朝の光景はなくなってしまった。


あんだけうるさかった工事の音がちょっと懐かしくなった。

拙文、お読み下さりありがとうございます。

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