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エッセイ・短編たちのおもちゃ箱  作者: ぽんこつ


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18/53

見せたかったもの


おばあちゃんに見せたかった。

私の花嫁姿。


式場の扉が開いた瞬間、心のどこかがそっと沈んだ。

そこにいないはずの人を、無意識に探してしまったからだ。

カメラのフラッシュや祝福の拍手が、ほんの一瞬、遠い音になった。


おばあちゃんは、私が高校の卒業式で着た袴姿を見て、

「やっぱり女の子は着物がいちばんかわいいねぇ」と笑った。

その笑顔のしわの一本一本まで、今も覚えている。

だから、白無垢もドレスも、いつかは見せたかった。


結婚式の前日、母が小さな桐箱を渡してきた。

中には、金色のかんざし。

「おばあちゃんが、あんたが嫁ぐときにって、残してたんよ」

それを見た瞬間、「あ、やばい」と思った。


挿絵(By みてみん)


式の朝、かんざしを髪に挿してもらう。

美容師さんが「すごく素敵ですね」と言った。

私は、思わず「これ、おばあちゃんのなんです」とこぼしてしまう。

言った途端、喉がつまって、

「……ほんとは今日、おばあちゃんにも見てもらいたかったんです」

と続けたら、美容師さんがうっすら涙ぐんでいて。

それを見たら、込み上げそうになって、唇をかみしめた。


式が終わって、控室で靴を脱いで、ふぅと息をついた。

そのときだった──

部屋の隅に置いてあったおばあちゃんの写真が、

カタン――

と前に倒れた。

風なんてないのに。


「あ…」と思わず声が出た。

旦那が笑いながら「ほら、喜んでるんだよ」と言う。

私が「なんで分かるの?」と聞くと、

「さっき、おばあちゃんの写真に向かってピースしてたじゃん」

──見られていた。

しかも私は無意識にやってたらしい。

右手はピース、左手もピース。どっちも全力。

完全にアイドルの握手会みたいなテンションだったらしい。恥ずかしい。


私は倒れた写真を手にとった。

眼鏡の奥の、やさしい瞳が私を見つめている。

髪には、かんざしを刺して。

着物をまとったおばあちゃん。


たぶんおばあちゃんは、背筋をピンとさせて、

「まあ、あんたらしいわ」と呆れ笑いしながら──

私の全力ピースごと、まるごと受け止めてくれたんだ。

それとも、もしかしたら、ずっこけたのかな。


写真を直しながら、頬にピースを当てて、おばあちゃんに向けて見せた。

「似合うでしょ?」

きっと今ごろ、天国で親戚中に「うちの孫は結婚式でも全力ピースよ」と自慢しているに違いない。

間違いないよね。

……ね、おばあちゃん。

拙文読んで下さりありがとうございます。

*画像は作者がAIで作成したものです。無断転載はしないでね!

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