08.犯人扱い
レコルトの言葉に、シアンは首をかしげる。
「様子を見るって……ぴーちゃんの? ぼくはいいけど、どうしてだよ」
「もしもぴーちゃんが本当に星砂鳥だとしたら、すごいことじゃないか。たまごから孵ったばかりのひなだぞ。俺達が見られるのは、動物園みたいに囲われた場所にいる星砂鳥くらいだけど、今は手で触れられる。こんなことって、まずありえないんだから」
レコルトの目が、いつもと違って輝いている。
「もーう、レコルトってば。動物が関わると、性格変わっちゃうんだから。星砂鳥は個人で勝手に飼育するのは禁止されてるってこと、レコルトだって知ってるでしょ。わかっていて隠したりすれば、警察だって絡んでくることにもなるんだから」
「だけど、それは星砂鳥だってわかってた場合だろ。ぼくはぴーちゃんがそうだって断定はしてないし、するつもりもない。知らなかったんですって言えば」
「……レコルト、最初の時とイメージが……」
シアンと同じく、初対面ではのんびりした雰囲気があったのだが、実はそうでもないらしい。
「自分が好きなものだと、気迫が違うのよね。本当に何かあったら、どうするの」
「その時は、迷わずセンターに連絡するさ。別に俺は、一生ぴーちゃんを手元に置いてくれって言うつもりじゃないんだ。この星の人間なら星砂鳥は知ってるし、大きくなった姿を見られれば、言い訳もできなくなる。だから、小さい間だけだよ。ぴーちゃんだって、なついてくれてるしさ」
「星砂鳥は、誰にでもなつくらしいじゃない」
「だけど、親に間違われることなんて、まずありえない状態だろ」
「まぁ、ぼくはいいけど。警察沙汰だけは勘弁してくれよ」
「警察の方は大丈夫だと思うけど。でも、レコルト、本当にぴーちゃんが小さい時だけでしょうね?」
「本当だよ。それは約束する。ある程度まで育てれば、センターに返した後でも会いに行けるかも知れない。育ての親のシアンなら、向こうもあからさまに拒否はしないだろうから」
「レコルトって、割と抜け目なかったんだなぁ。だけど、小さい間って……」
話をしている間に、シアンの家へ着いた。三人で庭へ向かう。
小さな庭には、いかにも手造りとわかる柵と言おうか囲いがあり、その中でぴーちゃんが元気に走り回っていた。天井部分には網が張られ、ねこや野生動物などが入れないようにしてある。
器用とは言えないシアンが、四苦八苦しながら作った鳥小屋もどきだ。つついても、かろうじて倒れない、という程度のもの。
シアンの両親はぴーちゃんをにわとりだと思っているし「にわとりは外で飼うものだろう」という父シムテスの言葉でこうなった。
夜はさすがにぴーちゃんも走り回ることはないので、シアンの部屋へ入れている。
自分の力作を信じていないシアンが「寝ている間に小屋を壊されて、ぴーちゃんが連れて行かれたりしないか」と心配だからだ。
本当は昼間も屋内に入れておきたいが、日光浴もさせてあげたい。それに、真っ昼間から人の家へ押し入る泥棒もそういないだろう。
閑静な住宅街だが、人の目がない訳ではないから、そんな場所で目立つことはできないはず。この家に空き巣が入ったとしても、金目の物と一緒にひよこを盗むとは思えない。
ちなみに、シムテスには「ぴーちゃんが大きくなっても、食材にするな」と言ってある。
残念そうな表情を浮かべた父を見てシアンは、言っておいてよかった、と心底思った。
シアン達の姿を見付けると、ぴーちゃんは歓声を上げて喜ぶ。おしりの辺りが細かく動いているし、ぴーちゃんが犬だったら尻尾が千切れるくらいに振っているのだろう。
そのぴーちゃんは、めんどりよりもやや小さいサイズ。もうすでに、子どもから大人へなろうとしている最中だ。
レコルトの言う「小さい間」と言うならば、この状態はちょっと苦しい。
でも、やっぱりその姿は、ほとんどひよこのままなのである。
「このサイズでひよこの姿なんて、誰が見たって普通のにわとりとは思ってくれないよ。小さい、とは言いにくくなってきてるし」
「最初に見た時は、簡単に手の平に乗ったのになぁ。ひよこがひよこらしい姿でいる期間は短いんだけど、それにしても急に大きくなった。んー、残念だ。もっとゆっくり成長してくれればいいのに。資料や画像を見て改めて思ったけど、星砂鳥ってひよこっぽいよね。こういうことだったんだなぁ」
「のんきに言ってるけど、どうするの。変に思われて誰かが警察に通報でもしたら、困るのはシアンなんだからね」
「わかってるよ。ぴーちゃん、じきにお別れかも知れない。ディシュリーンやシアンのことはきっと忘れないだろうけど、俺のこともついででいいから覚えていてくれよ」
ぴーちゃんは何を言われているのかわからない様子で首をかしげていたが、とりあえず愛想よく元気いっぱいに鳴いた。
☆☆☆
次の日。
ディシュリーンもレコルトも用があって、シアンは一人で家に帰って来た。ディシュリーンは帰って来ればきっとぴーちゃんの様子を見に来るだろうが、とりあえず今はいない。
昼間は誰もいなくて遊んでもらえないせいか、ぴーちゃんはシアンの姿を見るととても喜ぶ。これだけ喜ばれると、シアンとしてもやっぱりかわいく思うし、ずっと置いておきたい気にもなってくる。
ディシュリーンが(ほとんど適当に)つけた名前だが、それも定着してしまったし、こうしていられたらいいのに、なんて思ってしまう。
しかし、やはりそろそろ限界だろう。
ぴーちゃんは巨大なひよこになってしまっているし、知る人が見れば星砂鳥だとわかるかも知れない。わからなくても、妙な鳥だと思われる。
ここでぴーちゃんを飼うのも、無理になってきているのだ。
「白でも茶色でもいいから、そのふわふわした羽の下からちゃんとした羽が生えてこないかなぁ。出会い方が妙だったせいかな、余計に愛着があるよ、お前には」
このたまごのおかげで、ディシュリーンとも親しくなれた。単なる隣人なら、ここまで話をすることはなかっただろう。
レコルトと三人で帰るところを何度も目撃されているせいか、シアンがディシュリーンに話し掛けてもクラスメイトからあまり目をつけられなくなった。
ちらっと見られることはあるものの、何を話してたんだ、と問い詰められることもない。レコルトと同じで「無害」と思われるようになったのだろう。
余計な気を遣わなくて済むようになったのは、やはりありがたかった。
「そろそろ、連絡しなきゃいけないか。レコルトが残念がってたよ、ぴーちゃん」
シアンが鳥小屋もどきの屋根になっている網を外し(扉を設置するだけの技術力がなかった)ぴーちゃんの身体をなでる。
その時、玄関のベルが鳴った。……と、思う間もなく、庭へ二人の男がずかずかと入って来た。
「え……誰ですか」
どちらも、古びたベージュの帽子に黒のサングラス。薄汚れたワイシャツにネクタイはなし。一人はひょろっと背が高く、一人は中背だが太っている。
ドラマなどでよく見るタイプのコンビだが、見た目がひどく横柄な感じだ。
「警察の者だが、ここで星砂鳥を飼っているそうだね」
背の高い方にいきなり言われ、シアンは答えられなかった。
はい、と言わなければいけないのか、いいえ、と言うべきなのか、瞬時に判断できなかったのだ。
それに、制服ならともかく、私服の警察官なんて現実で初めて見た。なので、警察と言われて余計に驚いてしまったのだ。
「星砂鳥を、個人が勝手に飼育してはいけないのは知っているね。すぐに引き渡せば何もなかったことにしてあげるから、素直に鳥をこちらへ渡しなさい」
太った方がそう言いながら、ずいっとシアンに詰め寄る。
「あの……ま、待ってください」
「抵抗するなら、密猟の容疑で逮捕するぞ」
「ぼくは密猟なんかしてませんっ」
冗談じゃない。たまたま拾った卵が孵化して、そのひなが星砂鳥(かも知れない)というだけだ。シアンが星砂砂漠から盗んで来たのとは違う。
「だが、ここに星砂鳥がいる、という情報が入ったのだ。その後ろにいるのは、星砂鳥ではないのかね」
シアンの後ろに、ぴーちゃんが隠れている。さすがに、その場の空気がおかしいことを感じたのだろう。うるんだ黒い瞳で、こちらを見ていた。
「ぼくにはわかりません。この星へ来て間がないし、本物の星砂鳥を見たことがないですから」
「そうか。その鳥は、確かに星砂鳥だ。ファルグの特別な鳥で、一般人は飼育してはいかん。今回は新参者ということで、赦免してやる。その鳥をこちらへ渡しなさい」
特別に許してやるんだ、というのが背の高い方の言葉にも態度にも、ありありと出ている。
あまり怒ることのないシアンだが、さすがにこの二人の言動にはむっとした。こちらの事情も聞かず、完全に犯人扱いだ。
だが、こちらにも多少の引け目はある。
レコルトは断定しなかったが、きっとぴーちゃんは星砂鳥だろう、とうすうすわかっていながら、保護センターに連絡しなかったのだから。
「……わかりました」





