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星のたまご  作者: 碧衣 奈美


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06.ぴーちゃん

 シアンが玄関のドアを開けると、そこにはディシュリーンが立っていた。

「こんにちは。ぴーちゃんの様子を見に来たの。今、いい? あ、誰かお客様?」

 玄関にある靴を見て、言ったようだ。

「うん。レコルトが来てるんだ。いいよ、上がって」

 これが別のクラスメートだったら「なぜディシュリーンがシアンの家へ?」となってまずかったりするのだが、レコルトは事情を知っているから気を遣う必要がない。

「おっ邪魔しまーっす」

「やっぱり、ディシュリーンか。元気な声がすると思ったんだ」

「死にそうな声より、ずっといいでしょ。ねぇ、ぴーちゃんは元気?」

 ディシュリーンの言葉に、レコルトは首をかしげる。

「ぴーちゃんって……このひなのこと?」

「そうよ。あー、元気そうねー」

 ディシュリーンを見て、ディシュリーン曰くの「ぴーちゃん」は、元気よく鳴き声を上げる。

「こいつ、そういう名前なの? 誰がネーミングしたんだい?」

「あたしよ。だって、名前ないと呼びにくいじゃない」

 そう言われてみれば、ひなに名前を付けていなかったな、とシアンは遅ればせながら思った。

「ぴーぴー鳴くから、ぴーちゃん? 単純すぎない? ディシュリーンはもう少しネーミングセンスがある……と思ってたんだけど」

「だって、まだオスかメスかもわからないんだもの。ちゃんとした名前を付けられないじゃない。レコルト、その子、どっちだかわかる?」

 問われて少しひなの身体を調べたレコルトは、首を横に振った。

「……わからない」

「レコルト、獣医志望なんでしょ。そんなのもわからないの?」

 ディシュリーンが不満そうに言う。

「目立って判別できるものがないんだ。時々、いるんだよ。ひなの、と言うか子どもの時には性別がわからなかったり、環境によって初めて性別が確定したりする動物が」

 これもまた、シアンは気にしていなかった。種類のわからない鳥のひな、というだけで。ひよこに限らず、鳥の性別なんて考えたこともなかった。

「へぇ、そういうのがいるのか。やっぱり宇宙って、広いんだなぁ。それじゃ、大人になるまでどっちになるか、本人にもわからない訳?」

「そういうこと。雌雄同体ってことはないだろうけど。ってことは、どっちに転んでも差し支えのない『ぴーちゃん』は、案外いい名前かもね」

 レコルトは最後のセリフを、笑みを含みながら言った。

「なーんとなく、バカにされてる気がするんだけど。あ、シアン。ごめんね。あたし、勝手に名前をつけちゃったけど。もしかして、シアンはちゃんとした名前、付けてた? それなら、そっちの名前で呼ぶから」

「いや、ぼくは付けてないよ。完全に忘れてたんだ。それに、飼い主が見付かるまでだろ。ちゃんとした名前を付けると情が移って、別れる時に淋しくなるかも知れないしね」

「そうなの? よかった」

 拾い方が特殊すぎたので、本当に飼い主が見付かるか、という不安はあるのだが。

「それで、レコルト。ぴーちゃんが何の鳥かっていうの、わかった? あたしが来るまで、見てたんでしょ」

 シアンが何も命名していなかったので「ぴーちゃん」があっさり定着してしまったようだ。

「ごめん、わからなかった」

「え……レコルト。それって、冗談抜きで?」

 ディシュリーンが、レコルトにずいっと詰め寄る。

「悪いけど、冗談抜き。鳥に関しての経験や勉強が、まだまだ不足してるな。たいがいの鳥は知ってるつもりだったけど、ぴーちゃんに関してはわからないよ」

 シアンとディシュリーンは、二人してちょっとがっかりする。レコルトなら、この鳥が何かというのを答えてくれる、と期待していたのだ。

「ぴーちゃんって、そんなに特殊な鳥? レコルトにもわからないってことなら、そんじょそこらにいるような鳥じゃないとか……。んー、そんな鳥のたまごが、自動販売機の下に落ちてるはずはないか」

「どんな鳥でも、自販機の下にたまごが落ちてるってことは少ないと思うけど……。このぴーちゃん、こういう種類だって決め手がないんだ。大きくなれば、もっとしっかりした特徴が現れるはずだから、それまで……ってその時には引き取られてるかな」

 自分のことが話題にされているとも知らず、ぴーちゃんはエサをつつき、かまってほしいのか、時々シアンやディシュリーンに向かってぴーぴーと鳴く。

「普通の鳥のエサ、やってるの?」

 小皿に入れられたエサを見て、レコルトがシアンの方に顔を向ける。

「何を食べさせていいのかわからなくて。だけど、やる物全て、しっかり食べるんだ。思いっ切り雑食だね。昨日、ごはん粒やそぼろをやったら食べたし」

「そぼろ? それって肉だろ。ぴーちゃん、肉も食べるのか?」

「あら、鳥って虫を食べるじゃない」

「虫と人間が食べる肉じゃ、違うだろ。猛禽類じゃあるまいし、肉を食べるような鳥には思えないけど」

「ぼく、もしかしておかしな味を覚えさせた?」

 雑食ぴーちゃんは、つぶらな瞳で不安顔のシアンを見つめ、ぴーぴーとのんきそうに鳴いていた。

☆☆☆

 次の日。

 珍しく早い時間に目が覚め、朝食の後に少し時間ができたシアンは新聞を読んでいた。

 その目が、ある記事の見出しで止まる。

 そこには「数日前に星砂鳥のたまごが盗まれていた」という記事が載っていた。保護センターがチェックしていた数より明らかに少なくなっている、という内容だ。

 星砂砂漠には、星砂鳥以外の生物は生存しておらず、故にたまごを狙う天敵となる動物はいない。割れたりしたのなら、その殻が残るはず。

 だから、食われたのでもない。盗まれた以外に考えられない、ということのようだ。

 シアンはこの記事で初めて、ファルグにしかいない鳥のことを知った。鳥の性質も、おおまかに書かれている。

 たまごが盗まれた。たまごって……あのたまご、かなぁ。

 シアンがたまごを拾った時期と、盗まれたらしい時期がとても近い。色や形も、拾ったたまごの状態にそっくりだ。

 横には、何も知らずにエサをついばんでいるぴーちゃんがいた。

 そんなすごい鳥には見えないんだけど……。

 新聞の記事を頭の中で繰り返し思い出しながら学校へ行き、シアンはレコルトにその話をした。

 本当なら、一番にディシュリーンにこの話をしたかったのだが、シアンが直接ディシュリーンに話をするのはためらわれた。

 シアンはあの「自転車にディシュリーンを乗せた件」で、彼女のことに関してはクラスの男連中に目をつけられているのだ。

「そうか。ぴーちゃんが星砂鳥だったとはね。あの鳥は特別で、センターがしっかり保護しているんだ。一般の人間は見ることはあっても、触る機会は滅多にないんだよな」

 レコルトは星砂鳥について、かいつまんで説明してくれた。

「ぼくもひなは見たことがないし、親鳥だって触ったことがない。ぴーちゃんの正体がわからなかったはずだよ。あ、ディシュリーン」

 友達としゃべりながら教室へ入って来たディシュリーンを、レコルトが呼んだ。レコルトが彼女と話をする場合に限り、目をつけられないのだ。

「ぴーちゃんの正体がわかったよ」

「……レコルト、ぴーちゃんが怪物みたいな言い方、やめてくれよ」

 シアンの訴えは無視して、レコルトはディシュリーンに星砂鳥のたまごが盗まれていた話と、恐らくぴーちゃんが星砂鳥のひなであろう、ということを話した。

「あ、そうそう。今朝のニュースで出てたわ。星砂鳥のひなが、街の外れでたくさん見付かったって」

 出掛ける間際にそのニュースが聞こえ、テレビの方を振り向いた時にはもう次の話題に変わっていた。

「映像を観損ねたから、ひながどんな感じかはわからなかったんだけど……。そっか。観られていたら、きっとぴーちゃんの団体がいたって訳ね」

「……まさか、ぼくがたまごを盗んだ犯人だなんて思われない、よね?」

 動かぬ証拠のぴーちゃんが、シアンの家にはいる。特別な鳥なのだ、単なる窃盗罪程度では済まないかも知れない。

「大丈夫よ、そんな心配しなくっても。拾ってすぐ、警察に届けてあるんだから。それに、あたしが証人になれるわ。警察には信用あるから、大丈夫」

 ディシュリーンにそう言ってもらえると、少し安心する。それに、似ているからと言って、絶対にぴーちゃんがそうだとはまだ言い切れない。

「とりあえず、星砂鳥のひながどんな姿形なのか、しっかり確かめないとね。実は違う鳥なのに、拾いました、なんて報告したら、(たち)の悪いいたずらだとか何とか言われて叱られかねないから。とりあえず、俺が調べてみるよ」

「それで、もしぴーちゃんがその星砂鳥だったら?」

「その時は、警察と保護センター両方に連絡することになるわね。あの鳥の管理は保護センターの管轄だけど、シアンは落とし物として届けてるでしょ。順番はどっちが先になるか、あたしもわからないけど。星砂鳥は、一般の人が勝手に捕まえたり、飼育しちゃいけないことになってるの」

「そうなんだ……。あーあ、来て早々にすごいたまごを拾っちゃったなぁ」

 シアンがファルグへ来て、まだ一ヶ月も経っていない。それなのに、この星の人だってじっくり見る機会のない、特別な鳥と関わってしまった。

 これは運がいいのか、悪いのか。

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