05.盗まれたたまご
だが、保護センターも完璧ではない。なんせ砂漠は広く、鳥の方もいくつかのグループがあって、それが点在しているのだ。
養鶏場のような管理の仕方ができれば楽なのだが、あくまでも自然な形での管理であり、観察がされている。居場所は把握しているものの、見回りをするのも大変なのだ。
おまけに、星砂鳥はなぜかやたらと人なつっこい。センターの人間や悪意のない人間ならいいが、困ったことにそうでない人間に対しても警戒心をあまり抱かないのだ。
天敵がいないせいもあるだろう。エサは星砂で、砂漠は広いから食べ放題。仲間同士で取り合いする必要もなく、悪い言い方をすれば平和ぼけしているのだ。
今回も、この鳥の警戒心のなさで事件が起きた。
密猟者が二人、たまごを盗んだのだ。
犯人は、サハールとビラーロという。他の星でも小さな盗みを繰り返していた、密猟者と言うよりは、コソ泥と呼ぶ方がぴったりの男達である。
サハールとビラーロは他の窃盗事件で指名手配されており、たまたまファルグへ逃げて来たのだが、そういう不思議な鳥がいると聞いてさっそく盗みに来たのだ。
ちょうど星砂鳥は繁殖期で、たまごを温めていた。そのたまごを、センターの監視員の目を逃れながら盗んだのだ。
これがひなであれば、星砂鳥もさすがに警戒して鳴き声を上げるのだが、たまごの状態ではその警戒心もいつもと変わらず。盗まれても、騒がない。
彼らはこの鳥の性格をよく知らないでいたのだが、騒がないのをこれ幸いとたまごを盗んだ。そして、砂漠の外へと逃げた。
あちこちの巣から盗んだので、三、四十個はあるだろうか。それを分けて袋に入れ、どこへ行こうかと迷っていた時。
道の向こうから、巡回中のパトカーが来るのを見付けた。
自分達が指名手配されている、ということもあるが、たった今盗みをしてきたところだということもある。
サハールとビラーロは思いっ切り慌てたが、いきなり逃げたりすればなおさら目につく。職務質問をされ、手荷物検査をされれば一発でアウトだ。
とりあえず、盗んだたまごが入っている袋をそばにあった自動販売機の下へ放り込み、いかにも飲料水を買っているような格好をする。
時間的にも薄暗い夕暮れ時だったため、二人の姿はパトカーの警察官には気付かれなかった。
どうにか危機を脱して、放り込んだたまごの袋を取り出す。
その時、袋の端から一つだけ転がり出たことに、二人は気付かなかった。
元々、たまごの数を把握していた訳ではないし、機械の下で陰になっていたせいもあって、そのたまごは放っておかれた。
そんな訳ありのたまごを、次の日になってシアンが発見したのである。
☆☆☆
「あ、来たぞ」
休み明け。
学校に行って教室へ入ると、いきなりシアンはクラスの男子生徒に囲まれた。まだ完全に覚えられていないが、よそのクラスの生徒もいるような。
「え……ちょっと」
何だと思っていると、一人の口から「なぜディシュリーンが、シアンの自転車の後ろに乗っていたのか」と問い詰められた。
「え?」
「ディシュリーンと二人乗りしてただろっ」
最初は何のことだかさっぱりだったシアンだが、言われて思い出した。
土曜日に例のたまごを見付け、一緒に家に帰った時のことを言われているのだ。
人というのは、どこで何を見ているのかわからない。注目されるのも良し悪しだ。いや、さりげなく監視されているのかも知れない。
シアンは正直に、拾ったたまごの話をした。
そこへたまたまディシュリーンが来て、たまごが割れかけたので彼女がたまごを持ち、自転車に乗って帰ることになった……ということを。
だが、母親が仕事から帰って来るまでディシュリーンが自分の家にずっといて、二人でひなを囲んで話をしていた、という部分は、思いとどまって黙っておく。
もちろん、やましいことなど一切していない。しかし、そんなことまでしゃべったら、どうなることやら。
初日に囲まれた記憶もまだ新しく、何が起きるか想像がつかない。
とにかく、落とし物のたまごのために、ああいった状態になったことだけを説明した。
最初は「そんな都合よく、ひよこが生まれそうなたまごを拾うもんか」という疑いの言葉と目が向けられた。
言われてシアンも「確かに、普通はそんな状況にはならないよなぁ」と、そんな場合ではないが、のんきに考える。
あの時はばたばたしていたので、状況の異常さを感じられなかった。割れた殻と、実際に生まれたひなを見たアンヌも「珍しいこともあるのねぇ」とあっさり受け入れて。
だが、状況を見ていない第三者からすれば「そんなこと、あるか」となる。
本当のことを言え、と再び問い詰められそうになったところへディシュリーンが来て、シアンの言うことが事実だと証言してくれた。
それを聞いて、みんなはシアンの時とは違い、あっさり引き下がる。ディシュリーンが嘘をつくなんて誰も思っていないし、その言葉を信用しているのだ。
ディシュリーンは確かに事実を話していたが、聞かれたことのみを話したのであって、シアンと同じく余計なことは口にしていない。
ディシュリーンにすれば、秘密でも何でもないのだが。
あまりにもあっさりとディシュリーンの証言が受け入れられ、シアンは拍子抜けしてしまった。だが、おかげで解放され、ほっとして席に着く。
「最初に俺が言ったろ」
朝からため息をつくシアンの横から、レコルトが言った。
「何ともなさそうでも、周りにすればそうじゃないことがあるって」
「あれは本当に、その場のなりゆきだよ。そうしようと思ってしたことじゃないんだし」
たまごが割れ始めなければ、きっとああいう状態にはならなかったはず。
「あいつらにすれば、意図的でもなりゆきでも関係ないと思うけど。ところで、何のたまごを拾ったんだって?」
レコルトにすれば、シアンとディシュリーンの仲より、たまごの方がずっと気になる対象だ。
「何のって聞かれると、困るんだけど。よくわからないんだ。ひなが孵ったんだけど、普通のにわとりかどうかが……。たまごそのものも、普通より少し大きかったように思うし」
「シアンのいた星の鶏卵が小さかった、とか。そういうことはない?」
所変われば品変わる。まして、星が変われば、色々な物が変わってくるだろう。
その星では当たり前のものでも、別の星では少し違ったり全然違ったり。
「冷蔵庫にあるたまごを見てる限り、ほとんど変わらないよ。それに、そのたまご、色が少しベージュっぽかった。だけど、たまごの殻って、親が食べるエサによっても色が変わってくるよね? ひなは……普通のひよこに思えるんだけどなぁ。くちばしがちょっと細長く見えるけど」
「ふぅん。そう言われると、興味がわくね。で、ずっとシアンが飼うつもり? 届けはしてあるんだろ。落とし主か飼い主か知らないけど、その人が現れるまでに見てみたいな」
「うん、届けは出しておいた。ひなはディシュリーンとぼくを親だと思ってるし、警察も差し支えなければうちで世話してくれって」
シアンはあったことをそのまましゃべっていたのだが、レコルトはしっかり気付いた。
「……シアンとディシュリーンを親? じゃ、自転車の二人乗りをした後、二人でひなが孵るのを見てたんだ」
「え……いや、えっと、あの……」
思わぬところで、えらいことがばれてしまった。
ついどもってしまうシアンに、レコルトはくすっと笑う。
「俺はいいけどさ、他の連中の前でそんなこと言うなよ。今度こそ、袋にされるぞ」
「う、うん。わかった」
さっき教室へ入って来た時の状態を考えれば、今の会話なんてクラスの連中には絶対に聞かせられない。
ただでさえ憂鬱な月曜日なのに、朝からシアンはすっかりくたびれてしまった。
たまご一つで、ずいぶん大きな秘密、つくっちゃったな……。
☆☆☆
その日。学校が終わってから、レコルトがシアンの家に来た。例のひなを見るためだ。
両親は共働きで、シアン自身も昼間は学校がある。だから、シアンの家は誰もいない。そのため、ひなは誰かの気配を感じると嬉しいのか、一生懸命に鳴き声を上げる。
ひなは少し大きめの箱の中に入れられているのだが、シアンの姿が見えるとその中で走り回って喜びを表すのだ。まるで犬のような鳥である。
「へぇ、これかぁ」
初めて見るレコルトにも、ひなは警戒する様子はない。さっきよりは少し落ち着いた状態で、ぴーぴーと鳴いている。
「うーん、確かにこれはにわとりじゃないな。翼になる部分が退化してる」
ひなをすくい上げるようにして持つと、レコルトはあちこち調べ出す。
「ひなだから、まだ小さいって訳じゃなく?」
「うん。ないに等しいんだよ。にわとりなら、羽ばたいてわずかな距離でも飛べるだろ? でも、こいつは大きくなっても、跳ねる程度しかできない。足が短いなぁ。それに細いや。これじゃ、跳ねるのも怪しいかな」
シアンには普通のひよこにしか見えなかったが、やはり動物に詳しい人が見るとあれこれわかるものなのだ。
「成長すれば、長さや太さは変わる可能性があるかもね。水かきはないから、水に関係する鳥ではないな」
「それじゃ、どういう種類の鳥?」
シアンがレコルトに尋ねた時、ベルが鳴った。





