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星のたまご  作者: 碧衣 奈美


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04.ひなと親

「わぁ、もう立ってる。動物って、本当に歩き出すのが早いのね」

「うん。実際に見ると、感心するよね」

 二人は、ひなをはさんで会話する。ひなにすれば、自分の右目にはディシュリーン、左目にはシアンが映っている状態だ。

 シアンもディシュリーンも、そのことに気付いていない。

 鳥のひなには、刷り込みという習性がある。生まれて初めて見た動く物体を、それが生き物であろうとロボットであろうと、親だと思い込んでしまう、よく知られた習性だ。

 そして、このひなにとって生まれて初めて見た動く物体が、同時に二つあった。それが、この場にいる人間二人である。

 シアンとディシュリーンは、見事なまでに同時にひなの視界に入っているのだ。


 どっちがおとーさん? どっちがおかーさん? どっちでもいいや。ねぇねぇ、ごはん、ちょーだい。


 ひなにすれば、そんな気持ちなのだろう。とりあえず、ぴーぴーと鳴いてみる。

「おなかすいてるのかしら。でも、鳥のひなって、何をあげればいいのかな」

「虫、かなぁ。でも、人間に虫なんて、そう簡単に捕まえられないし。小学生の時に昆虫採集はしたけど、そういった虫とはまた別だよね」

「あたし、虫なんていやよぉ。やっぱりここは、ペットショップで鳥のエサを買った方がいいのかしら。あ、ねぇ、パンのみみ、ちょうだい」

「食べるなら、新しいのを持って来るよ」

「違うわよ。この子にあげるの。細かくすれば食べるかも知れないわ。ダメなら、あきらめてエサを買いに行きましょ」

 ディシュリーンは、シアンからもらったパンのみみをうんと細かくして、ひなの前に散らしてやった。ひなは最初、うかがうようにしてつついていたが、しばらくすると食べ始める。

「食べた、食べた。あと、水も持って来ておいた方がいいかな」

 シアンが立ち上がり、キッチンの方へ向かおうとすると、それに気付いたひながぴーぴーと鳴き出す。

 シアンの後をついて行きたいが、ディシュリーンはここにいるのでどうしたらいいのかわからない様子だ。

「シアンを親だと思ってるみたいね。かわいい」

 ディシュリーンが、ひなの様子を見て笑う。

「でも、それならすぐついて来そうなものだけど? もしかして、ディシュリーンを親だと思ってるんじゃない?」

「そうかしら。じゃ、あたしも離れてみよっか」

 ディシュリーンが立ち上がり、シアンの方へ行くと、ひなもそちらへと歩き出す。

 二人の所まで行きたいらしいのだが、テーブルの上にいるのでそこから先へは行けない。

 人間にすれば低いテーブルも、このひなにすればきっと高いビルの屋上に立っている気分なのかも知れない。

 ディシュリーンが戻り、ひなを床に降ろしてやる。それから、もう一度同じことをすると、ひなは今度こそ二人の所へ一生懸命走って来た。

 二人がそれぞれ離れた場所に立つと、真ん中で立ち往生する。どちらへ行くべきか、迷っている様子だ。

「悩んでるみたいね。本当に、あたしのことも親と思ってるのかしら」

「こうして見ている限り、そうみたいだよ。刷り込みって習性は知ってたけど、二人同時になるってこともあるんだね」

「んー、こんなこともあるのねぇ。でも、現実にこの子は、こうして悩んでる訳だし。……ずっとこうしてると、意地悪しているみたい」

 ディシュリーンは、ひなのそばへ行った。シアンも小皿に水を入れて、さっさと戻って来る。

「これは、どういう種類の鳥なんだろう。ひよこにしては、ちょっと大きいし。くちばし、ちょっと細長くない? 羽の色も、濃い気がするんだけど。これは単に個体差……なのかな」

「たまごの時から、すでに少し大きかったもんね。あたし、ひよこは知ってるけど、実物をこんなに間近で見たことってあまりないのよね。これは間違いなくひよこだって、自信を持って言い切れないわ」

 シアンも「実物のひよこ」というものは、小学生くらいのころにしか見たことがない。

 その時に見たひよこは、もっと薄い黄色だったような気がする。だが、ここにいるひなは、黄色と言うよりはベージュのようだ。

 濡れていた時はもっと濃かったが、乾いてふわふわになった今は「砂色」とでも言うのだろうか。

「鴨とかでもなさそうだね。ファルグにしかいない鳥とか……?」

「この星にしかいない種類の鳥は確かにいるけど、その子どもがどんな形をしてるのかっていうのは知らないわ。やっぱり、動物のことはレコルトに聞けばわかるかも」

「そうか。まぁ、種類のことは今はいいや。こいつさ、一応は落とし物……になるんだよね?」

「シアンが拾ったのはたまごで、今はこうして形が変わっちゃったけど……落とし物扱いにはなるわね。時々、警察で逃げたペットを保護したりしているから、そういうのと同じような扱いになるかしら」

「後で届けておいた方がいいよね。でも……どういう状態で、あんな所に落ちてたのかな。あ、もしかして、鳥を飼いたいと思ってて、でも親に反対されてる子どもが、こっそりとあそこに隠してたとか」

「たまごから育てよう、なんて子どもがいるかしら。こっそりのつもりなら、なおさら難しいわよ」

「こんな仮説じゃ、無理があるかな」

 自分で言ってて、おかしいかも知れない、と思う。

「んー、でも、あんな妙な所にあったんだもの、逆に、どういう状況でもありえそうね」

「あの機械の熱で、孵化したのかな」

 熱すぎず、冷たすぎず。自動販売機のモーターの熱は、たまごにとってちょうどいい環境を作っていたのだろうか。

「それはないと思うわ。親鳥って、たまごの中身が偏らないように、時々転がすって聞いたことあるから。あんな所じゃ、地震が来ない限りはたまごも動けないわよ」

「そうか。ぎりぎりまでちゃんとした所で温められて、あそこでは保温状態だったってことだろうね。もしも落とし主……って言うか、飼い主が現れなかったら、こいつはぼくが育てることになるのかな」

「普通は連絡がなければ、落とし物は拾った人がもらえることになってるわね。動物の場合は、どうかしら」

「にわとり一羽くらいなら、飼うスペースはあるけど……」

 ねこの額のような庭で、広告には「中古」と書かれるが、これでもこの家はれっきとした庭付き一戸建てである。

 大型犬だとちょっと狭いが、中型犬くらいまでなら普通に飼えるスペースだ。犬より小さなにわとりなら、余裕。

「ご両親、反対なさるの? 動物は苦手とか」

 困ったような表情になるシアンに、ディシュリーンが訪ねた。

「いや、そういうのじゃなくて……頃合いを見て、親父が料理しやしないかと」

 ひなに言葉が通じないのは、今の場合はよかった、と言えるだろう。

☆☆☆

 自動販売機の下に落ちていた、このたまご。

 シアンが言ったように、バラ売りのたまごを買った人が、落ちたことに気付かなかった……なんてことはもちろんなく。

 少々特殊な事情あり……のたまごだった。

 たまごから無事に孵った、一見するだけならちょっと大きなひよこ。

 これは、ファルグにしかいない「星砂鳥(ほしずなどり)」と呼ばれている鳥である。

 この鳥は、ファルグの星砂砂漠に生息している。数が少ないため、惑星保護鳥に指定され、環境保存局が砂漠の一角に「星砂鳥保護センター」を設立して、観察を続けているのだ。

 数が少ない、というのも理由の一つだが、人間がセンターまで建ててこの鳥を保護しているのは、密猟者から守るためでもある。

 実はこの星砂鳥という鳥、宝石の原石のようなたまごを産むことがあるのだ。

 普段は、普通のたまごを産む。だが、何度か産む中で、そういったたまごを産むことがあるため、密猟者に狙われるのだ。

 なぜ、そんなたまごを産むのか。

 まだはっきりと解明されていないのだが、彼らの食生活に秘密があると言われている。

 星砂鳥は、砂漠の星砂を食料にしているのだ。

 砂漠の星砂はただの砂と違って、栄養素がわずかに含まれている。星砂は、元は宇宙空間を漂う流れ星だ。地表へ着くまでに、何かしらの成分が付着したり、化学反応を起こしたりしているのだろう。

 他の動物が星砂で生きながらえることはできないが、星砂鳥の身体には合っているらしい。

 星砂鳥が宝石の原石のようなたまごを産むのは、数ある宇宙の神秘の一つだと言われている。

 だが、その神秘を神秘としない者がいるのだ。

 残念ながら世の中には、どこにでも金にしか興味のない人間というのがいて、この鳥を狙う。

 この鳥そのものは特に珍しいものでもなく、肉もぱさぱさなので食用にはならない。

 彼らがほしいのはもちろん、そのたまごだ。

 たまごがなければメスを狙い、産んでくれるのを待つ。

 すぐには宝石のたまごが生まれなくても、何度もたまご狙いの密猟をするよりは、危険を冒さずにすむというもの。

 その特殊なたまごは珍しい代物だから、原石状態でも高価なもの。加工されれば、さらに値はつり上がる。この鳥一羽で、大金持ちも夢じゃない。

 この不思議なたまごの存在が知られるようになってから、欲に目がくらんだ人間の魔の手が星砂鳥に伸びるようになった。

 そういった(やから)から守るために保護センターがあり、鳥の数を管理している。

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