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星のたまご  作者: 碧衣 奈美


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12/12

12.特殊な鳥

「あのね、ロディさん。これ、ぴーちゃんが産んだものだと思うんだけど……」

 ぴーちゃんが産んだであろうたまごを、ディシュリーンはロディに差し出した。

「ん? ああ、そうか。これくらいに成長すればね」

 シアン達の予想に反して、ロディは全く驚かない。

「あの……当たり前、なんですか? まだ生まれてひと月も経ってないのに。普通の鳥じゃ、まずありえないと思うんですけど」

星砂鳥(こいつ)は特殊だってことだよ。栄養を採る機能が他の動物とは違うって話したろ。栄養状態が通常よりよくて、この子の中では時間の進むスピードが速かったんだ。身体がこれだけ成長していれば、たまごくらい産むよ」

「すっごい特殊だなぁ。ぼくが前にいた所じゃ、こんな珍しい鳥、いなかった」

 知れば知る程、変わった鳥だ。

「他の星は知らないけどね。ファルグでも十分珍しいさ」

「このたまごって……(ちまた)で騒がれるようなたまご、ですか?」

 ほんのわずか、期待する。

 自分の物にはならなくても、触れられた、というだけでいい。女の子としては、やっぱり宝石には惹かれるから。

「宝石のってことかい? いや、違うよ」

 ロディはあっさりと、ディシュリーンの期待を裏切ってくれた。

「見ただけで、これがそうかそうでないか、わかっちゃうの?」

 あまりにもあっさりと否定され、ディシュリーンはがっかりする。

「ここの職員に聞けば、全員が違うって言うよ」

「えー、全員わかるんですか。どうしてぇ?」

 しっかり調べるでもなく断定され、ディシュリーンは不満そうだ。絶対に「もしかしたら」はないのだろうか。

「この子がまだ、星砂を食べてないからさ」

 星砂鳥が宝石のようなたまごを産むのは、星砂を食べるから。

 完全に解明されていないが、そう言われている。

 ぴーちゃんは確かに、生まれてから一度も星砂を口にしたことはない。その説が正しいのであれば、このたまごが宝石になるはずはないのだ。

「あ……そういうことなの」

「それに、最初に産むたまごは、ほとんどまともなのはないんだ。大人になるための準備みたいなもので……ああ、だから昨夜具合が悪くなったんだな。成長の過程で、そうなる子がよくいるんだよ。通常より成長が早かったから、なおさらだね」

 レコルトが推測したように、たまごを産むため、もしくは産んだために、ぴーちゃんは一時ダウンしてしまったのだ。

「ぴーちゃん、この先普通に成長しますか?」

 調子にのって何でも食べさせていたシアンは、それだけが気掛かりである。

「ああ。大人になるのが少し早かっただけで、これからは他の星砂鳥と同じようにすごせるよ」

 ロディが請け負ってくれた。

「よかった。……あの、また会いに来てもいいですか?」

「構わないよ。今日みたいに、学校をサボらなきゃね」

 言われて、苦笑いする三人。

「実はぼく、ダメだって言われるんじゃないかと思ってたんです。特別な鳥だから、あんまり歓迎されないだろうってこと、言われてたから」

「へたしたら、警察や役所なんかよりもかたい所だって思われてるんじゃないかしら。特殊な所だから、入れてもらえないって先入観もあるし」

「観光地みたいに、万人解放はできないけどね。特別な鳥ってのは確かだし。一気に大勢やって来られた中に、悪だくみをする奴がいるかも知れない。そう思ったら、こちらとしても気が抜けないからね。だから、センターからはあえて来てもいいってことは言わないんだ。でも、来てくれた人を追い返すことはしないよ。何かに興味を持つのは、いいことだと思うし」

「嬉しいよ、ぴーちゃん。これからも時々会いに来るからね」

 また来られるとなって、シアンよりレコルトの方がやけに嬉しそうにぴーちゃんに話し掛けていた。

☆☆☆

「あたし、泥棒の気持ちがわかるわぁ」

 星砂砂漠にある保護センターを後にして、ディシュリーンは溜め息をつきながら何度もそうつぶやいた。

 ロディが「せっかく来たんだから、よければ」と言って、資料室を見せてくれたのだ。

 そこには、星砂鳥のはくせいや昔の写真資料の中に、宝石のたまごが置かれていた。原石の状態と、装飾品として加工すればすぐにも売りに出せる状態の物と。

 ディシュリーンが表現したように、黄色いダイヤモンドがあるみたいだった。しかも、指輪になるようなサイズではなく、ピンポン玉かそれ以上の大きさ。

 どれだけの金額になるかは表示されていなかったが、厳重に鍵のかかったガラスのケース(きっと、防弾ガラスに等しい強度)に収められているのを見れば、途方もない金額になるのは想像できる。

 シアンには、宝石の価値というものがいまいちわからないが、きれいだというのは感じた。

 美術館ではないので、ライトアップなどもされておらず、エッグカップのような台に置かれているだけだったが、その美しさは損なわれていない。

 こういう物だと知ってはいたものの、実物を見るのはこれが初めてだったディシュリーンは、たまごを盗もうとする泥棒の気持ちがようやくわかった気がするのだった。

「星砂を食べてあんなたまごが生まれるなら、あれって星のたまごだね。色も空で輝いてる星みたいだしさ。ライトを当てれば、もっと星っぽくなるんだろうなぁ」

 星砂は、空から訪れた星の色。その砂を食べた鳥のたまごも、星の色。だから、宝石になるたまごも、星の色だ。

「星のたまご、かぁ。シアンって、結構ロマンチスト?」

「え? 自分ではそう思ってないけど……」

「いいわよねぇ、星のたまご。あたしも一つほしーい」

「どこかの大富豪、ひっかければ?」

「んもうっ。レコルトってば、夢がないわね」

 ディシュリーンがふくれる。

「だって、あれって相当な額になるんだろ? 普通の人じゃ、手が出ないって聞いたけど」

「それじゃ、今まで生まれた宝石になるたまごって、どうなってるのかな」

「ああ、ちゃんと加工されて出回ってるわよ。もっとも、数が少ないし、額も簡単に手が出ないようなものだけどね。ちゃんと引き取ってくれる所はあって、そのお金であの保護センターが維持されてるようなものよ」

「そっかぁ。ぴーちゃん達って保護されてるようで、自分達のことをまかなってたんだ」

「結果的にはそうなるね」

 やはり、不思議な鳥だ。

「あのたまごがほしくなる泥棒の気持ちは確かにわかるけど、実際には手は出せないなぁ。俺、殴られたくないし」

 レコルトは、ディシュリーンの武勇伝のことを言っているらしい。

「あれは、あいつらがシアンを騙して、ぴーちゃんを連れて行こうとしたからじゃない」

「連れて行かれなくて、本当によかったよ。そのままぴーちゃんが売られそうにでもなってたら、そいつらがどうなってたかわからない」

「もう……。口で言い負かすのはともかく、ああいう活躍の仕方すると、つくづくあたしって本当におてんばだなぁって思っちゃうわ」

「今更、何言ってんだか。元気すぎるのは、昔からだろ。それに、おてんばなんて言葉を使ったら、おてんばがダッシュで逃げて行くんじゃない?」

「レコルトってば、失礼すぎ」

「あの時のディシュリーン、かっこよかったよ」

「え?」

 シアンが言うとディシュリーンの頬に朱が走り、レコルトは少しきょとんとした顔でシアンを見ていたが、それから彼の肩をぽんと叩いた。

「シアン、きみはいい奴だね」

「な、何だよ、それ。どういう意味?」

「キレた時のディシュリーンって、かなり怖かっただろ。滅多なことじゃキレないけど、そういうのを見た奴はたいがい引いちゃうんだ。電話でだいたいの様子は聞いたけど、それでもそう言えるってのは、すごいことだよ」

「レコルト、さっきから言いたいこと言ってくれるじゃないの」

 横で聞いているディシュリーンは、思いっ切り拗ねている。

「だって、本当のことだろ」

「ふーんだ」

「引いてしまう奴って……それは、そういう場面だけしか見てないから、とかじゃない? ディシュリーンが優しいってことを知ってたら、そうはならないと思うな。ぴーちゃんの様子を見に来てくれるディシュリーンの顔、すごく優しかった。あの時だって、ディシュリーンはぴーちゃんのために一生懸命になってくれてたんだし。すごく頼もしかったよ。……あ、女の子に頼もしいなんて言葉、あまりよくないかな」

「……」

 今度こそ、ディシュリーンの頬が赤くなる。

「大変なこともちょっとあったけどさ、ファルグへ来てよかったって思えるよ」

 レコルトは、シアンの両肩に手を置いた。

「シアン、全てはきみにまかせる。がんばれよ」

「は? 何を?」

「……レコルト、どういう立場で言ってるのよ」

 だが、レコルトはもう何も聞いていないフリをする。

「さぁて、構わないって言ってもらったんだから、明日になったら早速ぴーちゃんに会いに行こうかな。星砂鳥の研究っていうのも、面白いかも知れない」

 さっさと歩くレコルトの後を、シアンとディシュリーンが「さっきのセリフはどういう意味だ」とそれぞれ食い下がる。

 賑やかに歩く三人の後ろでは、星砂砂漠がきらきらと光っていた。

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