2. リスクとリターン
・リスクとリターンの視点から見た昔と今
人間の生き方を「リスクとリターン」という軸で比較すると、昔と今では根本的な差異が浮かび上がる。幸福の感じ方が時代によって変わるのは、外的環境におけるリスクの大きさと、得られるリターンの質が大きく異なるからである。
・昔の生き方におけるリスクとリターン
過去の社会では、個人が直面するリスクは非常に大きかった。医療水準は低く、病気や怪我は命に直結した。食糧事情も不安定であり、飢餓や栄養不足は常態的な脅威であった。加えて、戦争や治安の悪さも人々の命を脅かした。
つまり、「生き延びることそのもの」が最大のリスク管理の対象であった。
その一方で、得られるリターンは限られていた。衣食住が確保でき、家族や共同体の中で役割を果たせれば十分に幸福と見なされた。
人々が他者の豊かさを詳細に知ることも少なく、比較による不満も生じにくかった。
結果として、小さなリターンに自然と妥協し、安定的な幸福を感じる構造が社会全体で共有されていたのである。
・今の生き方におけるリスクとリターン
現代社会では、医学や技術の発展によって「生き延びること」に関するリスクは劇的に減少した。多くの国で飢餓の危険は小さく、病気も治療可能となり、戦乱の脅威から解放されている地域も多い。
つまり、生命を直接脅かすリスクは歴史上最も小さい水準にある。
しかし、その代わりに新たなリスクが台頭した。情報化社会では、常に他人の成功や贅沢な暮らしが目に入り、比較による不満が増幅される。
労働環境では、長時間労働や精神的ストレスが蓄積し、心の健康を脅かす。不安定な経済状況や格差もまた、心理的リスクとして存在する。
その一方で、リターンの幅は大きく広がった。安全で快適な生活、豊富な娯楽や文化、学びや自己実現の機会が揃っている。
だが、それを享受するためには、膨大な情報や選択肢の中から「自分にとって最適なリターン」を見極める能力が求められる。
・昔と今の対比
整理すれば次のように言える。
昔:リスクは大きく、リターンは小さい。しかし比較の対象が乏しく、妥協が自然に成立し、幸福は安定していた。
今:リスクは小さく、リターンは大きい。しかし情報過多により妥協が難しく、不満や不安が幸福を不安定化させる。
結論として、幸福は「環境におけるリスクの種類と量」と「人が得られるリターンの幅」の相対関係で規定される。時代が進むほどリスクは減少し、リターンは増加したが、その分「妥協の力」や「自己認知の精度」がなければ、かえって幸福を得にくい社会となっているのである。
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