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8/25

旅立ちの日

バビロン旅行を控えた一ヶ月間、ヨシヒロはひたすら“調査”に明け暮れていた。

目的はもちろん——行き先についての勉強。

バビロンという都市は、物語やゲームの世界では頻繁に登場する有名な名前だ。

だが、現実の歴史や地理については、ほとんど何も知らなかった。

Wikipediaによると、バビロンは古代メソポタミアの都市のひとつで、

現在のイラク周辺に位置していたという。

ユーフラテス川沿いに築かれ、何世紀にも渡って繁栄を極めた巨大都市。

なるほど、確かに歴史的価値は高そうだ。

そして、そんな彼よりも何倍も詳しいのが、リュウミだった。

旅行の打ち合わせで会うたびに、彼女はバビロンについて延々と語ってきた。

その語り口はまるでWikipediaそのもの。

いや、むしろWikipedia以上の情報量だった。

「そんな話、ネットでも見つからなかったけど……どこから仕入れてんの?」

と疑いたくなるレベルで、聞いたこともない知識を次々と披露してくる。

——正直、信じていいのかちょっと怪しい。

一方、ヨシヒロはというと、旅行の準備期間中にオーディションに挑もうと考えていた。

実際、いくつかの舞台をチェックし、応募用紙を印刷までした。

……だが、結局、どれも応募できなかった。

——いや、正確には「応募しなかった」のではない。

「応募できなかった」のだ。

申し込みフォームの前で手が止まる。

心臓を冷たい手で鷲掴みにされたような感覚。

現実という名の影が、自分の内側をじわじわと蝕んでくる。

——気持ちはまだ諦めていない。そう、諦めてなどいない。

けれど……心の奥で、何かがポキッと折れた音がした気がした。

99回目の落選。

あの瞬間、これまで抱えていた“希望”は、音もなく霧散してしまったのかもしれない。

リュウミですら、最近はあまり楽観的なことを言わなくなってきた。

父親が敷いたレールに乗りたくないという思いは、今でも変わらない。

けれど——

「好きでもない仕事をして、でもそれで生きていけるなら……」

そんな“妥協の考え”が頭をよぎるようになった。

本音を言えば、幸せよりも生存が優先される場面はある。

きっと、誰だってそうなのだろう。

そんなことを考えながら、彼は日々の生活を続けた。

旅行資金を少しでも多く貯めるため、バイトのシフトを追加。

職場では大きなプロジェクトが進行中で、

上司にも「もうちょっとだけ手伝ってくれ!」と頭を下げられ、

ボーナスの誘惑にも負けてしまった。

——まあ、旅先で美味いもの食べるには、金が要るしな。

リュウミもまた、多忙な日々を過ごしていた。

11月から始まる舞台のリハーサルはまだだが、

その前にいくつもの小さな仕事が入っていて、ほとんど休みがない。

二人が会えるのは、せいぜい彼女の移動中か、

短いオフの合間の1時間ほど。

その間も彼女はバビロン旅行について熱く語ったり、

ときどき「うちのマネージャーほんと無能でさ〜!」と愚痴をこぼしたり。

そんな調子で、あっという間に出発の日は近づいていた。

日々はあっという間に過ぎていき、

ついに——出発の日がやってきた。

ヨシヒロとリュウミが、バビロンへ旅立つ日だ。

最初はそこまで気乗りしていなかったはずなのに、

こうして時間が経つにつれ、少しずつ楽しみになってきた。

猫のタマは、大家の真尋さんに預けてあるので心配ない。

彼女は動物好きで、タマのことも気に入ってくれていた。

——99回もの不合格に打ちのめされ、

すっかり気分も沈んでいたここ最近。

だが、**“異国の地での新しい風”**が、

少しだけ自分の中に残っていた希望を揺り動かしてくれる気がした。

アメリカから日本へ移住したあの日。

あれが、彼にとって初めての海外旅行だった。

日本に来てからというもの、東京から一歩も出ていない。

新幹線に乗って、北海道や大阪に行ったことすらないのだ。

——だからこそ、今回の旅には意味がある。

大きな荷物を抱え、空港に到着したヨシヒロ。

リュウミとの合流も完了。

搭乗手続きを進め、いよいよ出発かと思いきや——

ここで、最初の大問題が発生する。

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