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龍の心をつかむには、お菓子が一番

ヨシヒロがリュウミを連れて行ったカフェの名前は《カフェ・水鏡みずかがみ》だった。新宿の静かな一角にひっそりと佇むこの店は、都会の喧騒から離れ、心を落ち着けるにはぴったりの隠れ家のような場所だった。

「水鏡」という名の通り、このカフェの中央には美しい室内池があり、そこには蓮の花が静かに浮かんでいた。客席はその池を囲むように配置されており、天窓から差し込む自然光が水面に映り込み、まるで鏡のようにきらめく光景を生み出していた。

店内のインテリアは、モダンと和風が見事に融合していた。濃い木材の梁が、淡い色の壁と絶妙なコントラストを成し、壁には自然をモチーフにした現代アートが飾られている。各テーブルは磨かれたマホガニー製で、座席には心地よい畳が敷かれ、日本の伝統的なスタイルでくつろぎながら飲み物やスイーツを楽しめる空間となっていた。

メニューには、日本各地から厳選された高級茶や、職人の手によるこだわりのコーヒー、抹茶ティラミスや桜餅といった和風スイーツが並んでいた。店内には琴の優しい音色が静かに流れ、穏やかな空気をさらに引き立てていた。

店に入った瞬間、淹れたての茶葉やコーヒーの香りが、季節の花々の優しい芳香と交じり合い、芳醇な香りに包まれた。五感すべてで日本の美意識を味わえるような、まるで異空間に迷い込んだような体験。庭園を歩いた後に訪れる場所としては、まさに理想的だった。

「……落ち着く場所ね。こんな素敵なカフェ、初めて来たわ。ちょっと驚き。東京のカフェは結構知ってるつもりだったのに」

リュウミは指先で唇に触れながら呟いた。彼女はちょっとしたカフェ好きで、ヨシヒロも彼女のInstagramをフォローしていたが、投稿の多くは訪れたカフェに関するものだった。

「このカフェ、比較的新しいんだ。たまたま調べてて見つけたんだけど、新宿御苑と提携してるらしくてね。御苑のチケットを見せれば、メニューから一品無料になるって書いてあったんだ」

ヨシヒロは得意げに微笑んだ。

「……ってことは、一つしか頼んじゃダメってこと?」

「まさか。俺をどれだけケチだと思ってるのさ?」

「うーん。お金あるくせに、あの狭いアパートから全然引っ越そうとしない男くらい?」

「辛辣だな……」

「真実は時に厳しいものよ」

飲み物の種類はそれほど多くはなかったが、厳選されたメニューで、和とモダンが融合した魅力的な構成だった。

ヨシヒロは「茎茶くきちゃ」を注文した。ほんのりナッツのような香ばしさが特徴のお茶だ。リュウミは「焙じほうじちゃ」を選んだ。煎った茶葉の香ばしさが心を和ませてくれる。

二人の前に運ばれてきたお茶は、「湯のみ」で提供された。日常使いに適した筒状の茶器で、花柄と波紋の模様が優雅にあしらわれている。

「おっ!」

一口飲んだリュウミが、驚いたように体を引いた。

「これ、美味しい……!」

「うん。すごく美味しいね」

「そっちのスイーツも気になるなぁ」

「パンケーキ、頼むんじゃない?」

「ふふっ、私の好みを把握しすぎじゃない?」

リュウミが注文したのは、小豆のどら焼きだった。

見た目は、ふわふわの黄金色のパンケーキが二枚。表面をフォークで軽く押すと、しっとりと弾力が感じられた。

西洋のパンケーキよりも若干密度があり、ほのかに漂う甘さが日本ならではの風味を感じさせる。

リュウミは、フォークを手に、少しぎこちない動きでそっとカットした。断面からは、たっぷりと詰め込まれた小豆餡が覗く。

その餡は濃厚な赤褐色で、なめらかさの中にほんのりと粒の食感を残す絶妙なバランス。

彼女は艶やかなリップがうっすら乗った唇をぺろりと舐め、ひと口を口に運んだ――

その瞬間、ヨシヒロの目の前で彼女の体がビクンと震えた。まるで雷に打たれたかのような反応に、思わず彼は吹き出しそうになった。

彼女の瞳は夜空の星のようにキラキラと輝き、今にもハートマークが浮かびそうだった。

「すごいっ!!」

その大声に、店内の他の客たちが一斉に注目したが、リュウミは全く気にしていなかった。

「この甘さと香ばしさのバランスが完璧!小豆のほのかなナッツ感が、甘さを引き立てつつ、全くくどくない!ふわふわのどら焼きと、とろけるような餡の組み合わせは至高……!上にうっすらかかってる抹茶パウダーが、さらに風味を引き締めてくれる!まさに極上の一品よ!」

「おお、久々に“グルメなリュウミ”が出てきたな」

ヨシヒロはにやりと笑った。

彼自身は、テリヤキチキンラップを注文していた。柔らかくジューシーな鶏肉に甘辛いタレが絡み、シャキシャキのレタスと一緒に、蓮の花を思わせるような柔らかいトルティーヤで包まれている。

一口頬張って、思わずうっとりと声が漏れた。

リュウミはヨシヒロのコメントに耳を真っ赤にしながら振り向いた。耳から湯気が出ているように見えたのは、気のせいだろうか。

「べ、別にいいでしょ!あまりにも美味しすぎたんだから、仕方ないわよっ!」

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