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庭園の中へ

「わあ……」

リュウミは思わず息を呑んだ。「すごく綺麗……」

「うん、綺麗だね。」

「まずはどこに行く?」

「とりあえず歩いてみようか? 足の向くままに。」

「うん、いいね。」

この庭園には見るべきものがたくさんあった。

二人は中央の道を通りながら景色を楽しんだ。

ヨシヒロの視線は日本庭園の風景に惹きつけられた。

穏やかな池の下を優雅に泳ぐ鯉、芸術的に剪定された松の木、そして緩やかに湾曲した石の橋。

丁寧に整えられた砂利道は、石灯籠が静かに佇む隅々へと続いていた。

左手にはフランス式庭園が広がっていた。

特徴的な幾何学的配置の低木と花壇が対称に並び、きっちりと刈り込まれた生垣が日本庭園の自然な流れとは対照的な印象を与えていた。

さらに進むと、イギリス式庭園が見えてきた。広々とした芝生には桜の木々が点在していた。

春の桜の季節にはまだ早かったが、今は紅葉に染まり、燃えるようなオレンジと深紅の衣をまとっていた。

池のそばにある石のベンチに、リュウミの提案で二人は腰を下ろし、泳ぐ鯉たちを眺めた。

「どうしてこの場所をデートに選んだの?」

リュウミの言葉に不満はなかった。だからヨシヒロも茶化すのをやめ、真面目に考えた。

彼はリュウミの顔を一度見てから、また池へ視線を戻し、水面の下を泳ぐ一匹の鯉を目で追った。

「ダイチは自然と深く結びついた場所で生まれ育っただろ? だったら、もし彼が誰かをデートに連れて行くとしたら、自分が一番落ち着ける場所に連れて行くんじゃないかって、そう思ったんだ。」

「間違ってないよ。ダイチは、自分が落ち着ける場所のほうが、話しやすいだろうね。都会の中で彼が素の自分を出せる場所ってそんなに多くないだろうけど、公園みたいな場所なら助けになるかも。あるいは、自分のことを相手にもっと知ってもらいたいって気持ちもあるんじゃない?ここは、東京で彼が一番自分らしくいられる場所なのかもしれないよ。」

リュウミは何度か頷き、理解を示すように首を傾げた。肩にかかった髪がさらりと揺れる。

「それで、ここに決めたってこと?」

「まあ、部分的には…」ヨシヒロは言葉を濁しながら耳を引っ張った。顔が赤くなるのを止めたかったけれど、それは無駄な努力だった。「もう一つの理由は…その…リュウミが、こういう落ち着いた静かな場所のほうが好きかなって思ったから。」

「ほぉ〜〜〜う?」

リュウミのにやけ顔を直視できず、ヨシヒロは顔を背けた。

「いや、ほら、リュウミっていつも仕事とかで忙しいじゃん?だから、たまには注目を浴びないで過ごせる時間が欲しいんじゃないかなって思ってさ。世間からのプレッシャーもきっとあるだろうし…。こういう庭園に来れば、少しは現実から解放されるかなって…その…そういうこと…。」

言い訳を口にするのは思っていたよりもずっと恥ずかしかった。心臓が今にも破裂しそうな勢いで血を全身に送り出し、顔が火照って仕方がない。

「で、どっちなの?」

「どっちって?」

「その理由だよ。ダイチならこうすると思ったから?それとも、私にリラックスしてほしいって思ったから?」

「…どっちもじゃダメ?」

「ガーン。両方とも欲しいなんて、ケーキも食べたいし、持っていたいってやつ?」

「ショックを受けたフリして『ガーン』って言わないで!それに、なんでアメリカの言い回し使ってるのさ!」

「使っちゃダメってこと?」ニッコリ。

「日本人なのに英語の表現を使うのは、ちょっと変な感じがするな。使い方も少し違うしさ」

「ふふっ、まあ、どっちにしても満点をあげるよ」

「…ありがとう?」

無言の合図のように二人は立ち上がり、再び手を繋いで歩き出した。

吉広はしばらく風景に集中できなかった。今さらながら気づいたのだが、竜美の手はとても小さかった。自分の手で包み込めてしまいそうなほど。そして彼女が近くを歩くたびに、肩が軽く触れ合い、そのたびに体がびくっとした。

(深読みするなよ、吉広。彼女は忙しい合間を縫って、俺を手伝ってくれてるだけだ。好意があるとか、そんなの思い上がりだ)

この庭の空気は、街中よりもずっと澄んでいた。ほんのりとした土の香りがし、風は菊の花の香りや松の清々しい匂いを運んでくる。時折、鳥のさえずりが心地よい静寂を彩っていた。

「もしかしたら気づいてないかもしれないけど…さっき言ったことだけでも、あんたが自分のキャラにちゃんと共感できてるって、私は思うよ」

「本当にそう思う?」

「うん」

竜美がふと立ち止まる。目の前に一羽の鳥がひらりと舞い降りた。

その鳥は「ルリカケス」、鮮やかな青い羽と尾を持つ美しい鳥だった。

彼女がそっと手を差し伸べると、鳥はまるで引き寄せられるように着地し、可愛らしい声で鳴きながら手の上を跳ね回った。

「与えられた情報は少ないけど、私なりに“大地”がどんな人か、イメージはできてる。

彼は、優しくて、内省的で、口数は少ないけど芯が強いタイプ。人混みが苦手で、静かな場所じゃないと本音を言えない人。

デートに行くなら、自分らしさを見せられて、気持ちを正直に伝えられる場所を選ぶと思う。

そして相手のことも思いやれる人。

都会の喧騒は、人の心をすり減らすもの。だから彼は、相手がリラックスできる場所を選ぶんじゃないかな。

…あんたが選んだこの場所も、その通りだった。大地らしい選択だったと思う」

「ふーん。たしかに、そうかもね」

「“かも”じゃない。“絶対”だよ。もっと自信持って」

吉宏がこの庭園をデートの場所に選んだのは、大地ならどこに女性を連れて行くだろうかと考えたからだった。伝統的な日本の茶道体験と迷ったが、天気予報で晴れると知っていたため、最終的には庭園に決めた。

しかし、それ以外にも理由があった。それは、純粋に龍美に息抜きをさせてあげたかったからだ。その気持ちは自己満足とも言えるもので、大地というキャラクターを理解する妨げになるのではないかと不安だった。

「で、次はどこ行くの?」と、突然龍美が尋ねてきた。

「次?」

吉宏は首を傾げ、腕時計に目をやる。もうすぐ正午になろうとしていた。ここで見られるものはほとんど見終わっていた。

「近くにランチが食べられるカフェがあるから、そこに行こうかと思って」

「ナイス判断。ちょうどお腹空いてきたところ」

「じゃあ、行こうか」

手をつないだまま歩きながら、吉宏はふと考えた。

――本当に、自分は大地という人物に近づけているのだろうか?

彼の性格を理解して、課題をきちんとこなせるようになるのだろうか?

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