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演劇の歴史と俺の夢

演劇とは、非常に特異な創作表現の形である。

人は役を演じ、台本に魂を込め、物語を語る。

それは単にセリフを読み上げるだけの作業ではない。

複雑で繊細で感情豊かな「人間」を、まるで本当にそこに存在するかのように創り出す——

そんな魔法のような行為なのだ。

台詞、歌、表情、仕草。

すべてを使って、別の“誰か”になること。

それが演劇の本質だった。

「五階……五階だよ? しかもエレベーターなし……

 コリ、ここって一体どんな場所なの? 五階まで歩きって聞いてなかったけど?」

十九歳のヨシヒロ・マーロウ——愛称はヨシ。

彼は子どもの頃からずっと、舞台役者になることを夢見ていた。

父親や教師たちの忠告を押し切り、用意された“安定した人生”というレールを蹴飛ばし、

自分の夢を追うための道を選んだ。

だから今、彼は——

がらんとした劇場の中央に立っていた。

観客席には三人だけ。

照明が上から降り注ぎ、目に突き刺さるような強烈な光が視界を焼く。

だが、それすら気にせず、彼は今まさに台詞を朗読していた。

「今日は気分がいいんだ。家に帰ってきた時だって、機嫌はよかった。

 公園を走らなかった? ブランデー・アレキサンダーを飲まなかった?

 電球を外さなかった? ——だから何だ?

 それで俺が堅物だと思うなら、勝手にそう思えばいいさ」

彼が朗読していたのは、『裸足で散歩』という戯曲からの一節。

アメリカの劇作家、ニール・サイモンによって書かれたロマンティック・コメディである。

この作品は1963年にブロードウェイで初演され、大ヒットを記録。

1500回以上のロングランを果たし、ニール・サイモンを名実ともにトップ劇作家へと押し上げた作品だった。

ある本で読んだことがある。

「オーディションでは、その作品の台詞を避け、似たジャンルの別の作品を使うと良い」と。

今回、ヨシがこの戯曲を選んだのも、まさにその理由だった。

今オーディションを受けているのもロマンティック・コメディ。

ならば、似たジャンルで自分の演技力を見せることができれば、印象が良くなるはず——

そんな理屈でこの作品を選んだのだった。

「コリー、君を愛してる。本当に愛してる。

 初めて会ったときから、毎日、毎日ずっと……でも、もう“好き”じゃないんだ」

ヨシヒロは記憶力に関しては自信があった。

だから台詞はすらすらと口から出てくる。

本気を出せば、舞台全体を丸ごと暗唱できるほどだった。

時間さえ許されるなら、もっと多くの台詞を披露したかった。

だが、オーディションには制限時間がある。

仕方なく、決めていた部分だけを朗読し、終わると視線を客席へと向けた。

ステージから数メートル先、審査席には三人の人物が座っていた。


アメリカ演劇と日本演劇を融合するのは難しいですが、楽しんでもらえていれば嬉しいです。ヨシヒロの第一印象はどうでしたか?

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