第四章 ゴブリンと襲撃された商隊
自分の降下ポッドに戻り、同じ方法で荷物を取り出す。予備の弾匣をまずカバンに詰め込んだ。
「ん?このピストルの弾匣、なんか違うぞ?」
手に取った弾匣を不思議そうに見つめ、もう一方のピストルを取り出した。
手にした瞬間、重さの違いを感じた。よく見ると銃身も長い。どうして違うんだろうと考えていると、あの女神がまた文句を言いに来た。
「まだ終わらないの?和也さん?日が暮れる前に街を見つけないと!」
ちくしょう!こいつは表情の切り替えが早すぎる。さっきまで泣きついていたくせに、またあの殴りたくなる顔に戻りやがった。
振り返ってみると、こいつは暇そうに地面の雑草を引き抜いていた。まったく、役に立たない上に人の邪魔ばかりしやがって!
もう街についたら、この役立たずの引きこもり女神を売り飛ばしてやる。絶対に売る!
「急かすな!お前は手伝わないくせに!」
「はあ?装備の整理くらい自分でできないの?」
彼女は大声で叫びながら立ち上がった。
ムカつく!どうやったらここまで人をイラつかせられるんだ。文句女神と改名したほうがいいぞ。
余分な教科書を取り出し、ガンラックに詰め替え、ピストルをカバンに放り込み、ライフルを持って降下ポッドから降りた。
「手伝え!」荷物でパンパンのカバンともう一丁のライフルを彼女に押し付けた。
「え?待って?全部私が持つの?あなたは何するの?」
「じゃあお前が護衛するか?女神なら不死身のパッシブスキルとかあるんだろ?」
「このオタクが!」不満そうな顔でカバンともう一丁のライフルを背負った。
ああ、当たりか。
だが、全然嬉しくない。これでこいつが魔物相手にまったく役に立たないことが確定したからな…
「文句言ってないで、行くぞ」
「あれ?街への道、わかったの?」
「知るかよ!異世界のオタクだからってガイドじゃないんだぞ」
「あ!パクるな!」
「パクったった!お前だって道わかんないくせに!」
「周りに目印なんて何もないのにどうしろって言うのよ!」
「女神ならヒントとか方向くらい教えられないの?何も知らないなんて、どうやって女神やってんだ!」
「うぅ~だって森に放り出されたから!」彼女はまた泣きそうになりながら、必死に堪えている。顔まで真っ赤だ。
ああ、めんどくさい…
「まあ、運任せでいいや。道さえ見つかれば街にも行けるだろう」
こうして私たちは言い争いながら森の中を歩き始めた。
方向感覚ゼロの森で3時間ほどさまよった後…
「あ…あれは道!」
スナが興奮して前方を指差した。
「やっとか!」
森で迷子になるかと思ったが、偶然にも森を貫く道に出ることができた。
スナが小走りで道へ向かう。
「おい!体力無駄にするな!街までまだどれくらいかわからないんだぞ!」
だが、道に出たことで次の問題が発生した。
「で…和也さん、どっちに行く?」
深く息を吸い込む。
「本物の技術を見せてやる!」
スナが期待に満ちた目でこちらを見る。何かすごいことをすると思っただろう…
「右!」
「はあ!?」
一瞬、空気が凍りついた。
「えっと…理由を聞いてもいいですか?」スナが怪訝そうに尋ねた。
「うん…なんとなく右が好きだから」
再び沈黙。
スナは口を開いたが、何も言わずに自分の右側へ歩き出した。
「あのさ…」
俺が彼女を呼び止める。
「なによ!右に行くんでしょ!」怒った声。
「違う!俺の右手側だ!」
そう、からかってやったんだ。どっちに行こうと反対を言えばいい。彼女のイライラした表情を見るのが楽しくて。
さらに1時間半ほど歩いた後…
日差しの位置を見上げる。まだ昼過ぎだ。
「おいスナ、ここの時間の計算はどうなってる?」
「時間?たしか…あなたの世界と大差ないはず。季節も似てるけど、冬が少し長いかも」彼女はだらだら歩きながら答えた。
まあ、適応するのは難しくなさそうだ。だが今は暑くて死にそうだ。木陰を歩いていた時は気にならなかったのに。道端の木陰を避けたのは、通りがかりの人を見逃したくなかったからだ。運が良ければ道を聞けるかもしれない。
「あ~!もう無理!」スナが突然叫んだ。
振り返ると、彼女は膝をついて息を切らしている。
「喉渇いた…お腹空いた…」
確かに昼はとっくに過ぎている。何時間も歩き続けたんだ。早めに出すつもりはなかったが…
「おい!おい!何してんだこの引きこもり女神!」
走り寄って止める。
こいつは当然のように俺のカバンを漁り始めた。俺はそれをひったくる。
「はあ?昼飯持ってるんでしょ?ちょっとぐらい分けてよ!」
「分けたくないわけじゃない!今使ったら夜どうすんだよ!俺だって喉渇いて腹減ってるんだぞ!街までどれくらいかわからないのに!」
「うぅ~じゃあ…水だけでも!お願い!」
彼女は跪きながら片手でカバンを掴み、もう片手で俺のズボンを引っ張って懇願する。女神としての威厳はどこへやら。いや、そもそも威厳なんてあったのか?
正直、水分補給は必要だ。このままでは熱中症になりかねない…そっちの方が面倒だ。
カバンを開け、麦茶のボトルを取り出す。少し温まっている。
どう分けよう…めんどくさい、そのまま彼女に渡した。
「全部飲むなよ!俺の分も残せ!」
スナは希望を見たように麦茶を受け取り、一気に飲み干し始めた。
ゴクゴクと飲み、あっという間に半分以上が消えた。
「おい!おい!」すぐに止めに入る。
「飲み干すなって言っただろ!」
「ちぇ、こんな少量じゃ足りないよ」彼女は小さく呟いた。
まったく、こいつは…
俺は残りを一気に飲んだ。味はイマイチだ。冷えてればまだしも、こんな状況で選択肢もないのに二人で分け合うなんて…
ヤバい、今俺はこいつの飲んだものに間接キスしたのか?これは…いや、違うだろ?天罰とかないよな?
あーもう!とにかく、こいつにときめくべきじゃない。だが…
ちらりと彼女を見る。陽の光が銀色の長髪と雪のように白い肌に降り注ぎ、初恋のような顔をしている。正直、少しときめかないわけがない。
「ん?何ボーっとしてるの?」
だが、よく考えればこいつの行動はアホそのものだ…どう見ても…
いや、人間として…いや少なくとも俺は…!この考えで余計な感情は全て吹き飛んだ。
「何でもない、行くぞ」
空のボトルをカバンに戻し、背負って歩き出した。
スナは立ち上がり、スカートと膝の埃を払ってから追いかけてきた。
「もうカバン背負わなくていいの?」嬉しそうに聞く。
「甘いな、次の休憩からまたお前が背負う」
「え~じゃあこのライフルも背負ってくれたら休憩させてあげる!」
「図に乗るな。これ以上文句言ったら物理的に天界に送り返すぞ!」
「物理的に?どういう意味?」
はあ、こいつは鈍いのか本当に馬鹿なのか…
歩き始めてすぐに事件に遭遇した。曲がり角を曲がったら、百メートル先で馬車の隊列が何かに囲まれている。中にはかなり大きな個体もいる。魔物に違いない。
のんきに眺めているアホ女神を木陰に引きずり込み、ライフルを構える。
「何してるの?助けに行かないの?」スナが肩を掴んで慌てて言う。
「待て!ちょっと待て!急ぐな!」
「何待ってるの?全滅するまで?助けないとまだ歩き続けなきゃいけないのよ!」
「は!?」
「はじゃないよ!早くしなさいよ!ライフルあるんだから楽勝でしょ!」
どうやらこいつは人助けがしたいわけではなく、ただ便乗したいらしい。
確かに馬車があれば楽だ。助けたら謝礼も期待できる。この世界の貨幣を持っていないから、街についてからも困るだろう。
だが、敵の注意を引きつけてしまったら…全滅させられる自信はない。リスクがある。敵の強さもわからない…
「まだ何考えてるの!」
スナが俺を揺さぶり、思考を中断させた。
「うるさい!」
彼女を押しのけ、もう考えるのをやめた。カバンを彼女に押し付ける。
「ついて来い。弾匣を渡す係だ!」
こんなに歩いて何も食べていないからでなければ、補給をこいつに預けたりしない。弾匣を渡すだけなら大丈夫だろう…
そう言ってライフルを抱えて走り出した。
「おい!ここからでも撃てるでしょ?」スナは後から気づいて追いかけてきた。
40メートルほど近づいたところで止まる。この距離なら確信がある。
生存ゲーム部でやったように呼吸を整え、半自動に切り替え、適当な一匹の頭を狙う。撃てば確実に注意を引くが、もう構っていられない!
引き金を…引く…
「ちくしょう!安全装置かかってた!」
安全装置を外し、再び狙いを定める。引き金を引くが、やはり発射されない。最初にチャージしてなかったことに気づいた。
生存ゲーム部なのに、肝心な時にミスばかり!再チャージして狙いを定め直すと…
人間が一撃で吹き飛ばされるのを見た。かなり遠くまで飛び、森の中に消えた。生きてはいまい。
考える余裕はない。その個体を吹き飛ばした大型魔物を狙い、息を吸い込む。今度は弾が確実に魔物の頭に命中した。
部活で実弾を数発撃ったことはあるが、全て的当てだった。何も感じないと思っていたが、少し吐き気がする。
耐えろ!
残りの敵が反応する前に、次の大型ターゲットを素早く狙い、二発の点射で仕留めた。敵は7~8体ほど。間に合うはずだ。撤退させればいい。
最初に反応したのは緑色の小柄な魔物たち──ゴブリンだろう。こっちに向かって猛スピードで走ってくる。
「速い!」
信じられないほどの速さだ!だが何とか狙いを定め、フルオートに切り替えて近くの2体を仕留める。しかし3体目はもう目の前だ。
飛びかかってきたゴブリンは手にした棍棒で俺の頭を叩き割ろうとする。こんなのを喰らったら即死か、戦闘続行不可能だ。
飛びかかられた瞬間、後ろに倒れ込みながら撃ちまくる。一発でも当たることを祈りながら。
どうやら幸運の女神は味方してくれたようだ。もちろん、わめき散らしている引きこもり女神ではない。
2発ほど上半身に命中したらしく、地面に落ちた時にはそのゴブリンは死体だった。
「弾匣!」
立ち上がりながら叫ぶ。続けて襲ってこないのは、隊列の護衛が反撃を始めたからだろう。空の弾匣を地面に置き、スナから新しい弾匣を受け取る。だが手にした瞬間、違和感を覚えた。
「お前マジで何かおかしいだろ!ピストルの弾匣渡すなよ!」
カッとなって怒鳴ると、彼女もようやく気づいたようだ。
「ごめんね!」
新しい弾匣を受け取り装填するが、もうこちらの出番はなさそうだ。地面に残った数発入りの弾匣をポケットにしまい、スナに合図して隊列へと小走りで向かう。
だが、ほぼ目の前まで来ても、彼らは残り3体の魔物を倒し切れていない…
はあ、見込み違いだった。数的優位でも勝てないのか。
ということは、これらの魔物は案外強いということか?
ライフルを構え、まず大型個体を撃つ。こいつが一番強そうだ。何より、手にした重量感のある武器を投げてこられると厄介だ。
当たったら…うぅ、悲惨な死に方になる…
残り2体のゴブリンを狙おうと銃口を向けると、彼らは状況を悟り、素早く戦闘を離脱して森へ逃げ込んだ。
まあ、弾の節約になった。
だがここで一つの疑問が浮かんだ。異世界の言語が話せない…
「おいスナ!スナ!」
振り返ってこっそりと言う。
「はあ?何?」
「お前、この世界の言葉話せるだろ?」
スナは不思議そうな顔をした。
「今話してるのがそうじゃないですか、和也さん?」
確かに気づかなかったが、母国語ではない言葉を自然に話している。全く違和感がない。
さらに質問する前に、一人の護衛が道端の木に向かって剣を構え叫んだ。
「誰だ!まだ敵がいる!」
俺と残りの護衛もすぐに警戒態勢に入る。スナはさっさと馬車の陰に隠れた。
敵の増援か?それともはぐれか?考える間もない。銃を構え、二人の護衛と共に慎重に近づいて確認する。
近づくと、木の陰から少女の泣き声が聞こえた。間違いなく少女だ。一緒にいた護衛たちも困惑した表情で、彼らも何かわからないようだ。
俺は急いで駆け寄った。賢明ではないが、脅威ではなさそうだ。
実際、問題はなかった。木の陰には7歳ほどの、黒髪のショートカットで長い耳、とても可愛らしい少女がいた。顔は少し汚れているが、間違いなく美少女だ!それもエルフの美少女!
金髪じゃないのが残念だけどな。