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やることのない一日(昼と午後編)

ゴブリン軍の件を処理し終えるだけで二日以上もかかってしまった。戦闘報告書の整理に加え、騎士団、教会、領主代理からの問い合わせに対応する必要もあった。


主な問題は空襲に使った飛行機器で、目撃した人間が多すぎて、どんなに尾ひれ背ひれがついたか分かったものじゃない。しかもそれが、俺のような駆け出しの一般冒険者が「召喚」したものだっていうんだから、教会側は禁術を使ったんじゃないかと疑っているし、騎士団も安全保障上の問題を心配している。領主は俺たちを懐柔しようとしてきたが、この代理の態度はあまり良くなく、俺はずっと断り続けている。


結局、あの数日間は毎日早朝から誰かが俺たちを訪ねてきて、列をなして延々と質問攻め。ギルドに逃げ込んで一時しのぎするしかなかった。だが幸い、冒険者ギルドは俺の味方についてくれていて、問題をかなり単純化してくれた。会長自らが俺たちの保証人にもなってくれた。


ただ、ギルドの助けは無料ってわけじゃない。あの眼鏡の姐さんは、俺たちをギルドの常駐主力として、その代わりにギルド側が監視を代行する、何か問題が起きてもギルドが責任を負うという提案をしてきた。


つまり、俺たちは以前の外部委託の傭兵から、ギルド直属の社員に変わったわけだ。


あの二人(多分カリンとエクニア?)が、そんな勝手な提案に同意するわけないだろうと思ってたんだが、これが意外にも、非常にあっさりと了承したんだ。


ってことは、俺がここで長々と君たちのべらべらしゃべるのを聞いているのは、いったい何のためだったんだ?って感じだ。


ただ、後でエクニアから聞いたんだけど、大抵の冒険者ギルドは基本的に民間経営で、一般的に一つの領地内に地区支部があり、現地でかなりの発言力を持っているらしい。


簡単に言えば、比較的力を持つ第三者的な機関ってことだ。中間業者として、普段は直接管理業務には関わらず、商人ギルドや魔法協会と緊密に結びついているため、実際の規模はとんでもなく大きく、重大問題の決定における発言力は教会や騎士団よりも大きいことさえある。


なんか、とんでもない会社に就職しちゃったみたいな気分だ…


でも実際の仕事内容はほとんど変わらず、相変わらずヒマはヒマだ。俺にはあの人たちみたいに限界に挑戦したり、高難度の任務やダンジョンに挑んだりするようなエネルギーはない。


だって、毎日寝坊できるし、専任の者が昼食を準備してくれる。食後にはリビングのソファで暖炉の火を囲みながら紅茶を楽しむことだってできる。自分で手を動かしたり、細かいことに気を遣う必要は全くない。


娯楽の種類が少し乏しいことと、食事の時からずっと傍でくどくど説教しているカリンを無視しなきゃいけないこと以外は、元の世界にいたら、まず間違いなくこんなのんきな生活は送れなかっただろう。


「ねえ、私の話、ちゃんと聞いてる?」


カリンが呆れたように言った。


「もう三日も、あなたは一歩も外に出てないわよ! どこで覚えてきたのか知らないけど、そんな貴族の悪い習慣、私がとやかく言う資格はないかもしれないけれど、もう少し体を動かした方がいいわ。でないと、万一緊急任務が入った時、体力が全然持たないと思う。私は出かけるわ。退屈で体を動かしたくなったら、冒険者ギルドにいるエクニアを訪ねて、私を探すように誰かをよこすよう伝えてちょうだい。」


カリンはそう言って手にしていたティーカップを置くと、相変わらず相手にする気のない俺を見て、そのまま立ち上がり佩剣を取りに行った。


「ああ、わかったよ。」


俺は彼女が装備を整え終えたのを見てから、紅茶を一口飲んで返事をした。


彼女は振り返って俺を一瞥しただけですぐに説教を続けることもなく、去っていった。


今、別荘の中には俺一人だけだ。ヤマトは片付けとお茶の準備を終えるとギルドに戻って行ったし、モグエとシルシャも毎日決まった仕事がある。スーナは…多分アルバイトに行ってるんだろう。


こうしてみると、どうやら俺一人だけがヒマみたいだ…


退屈な感情が湧き上がると、少しイライラし始める。異世界のレジャーの弱点も、この時とばかりに何倍にも拡大されて感じられる。娯楽は極度に乏しく、酒場で自慢話をする以外には、本当にやることがない。


携帯電話も今はほとんど役に立たない。キャッシュした音楽でプレイヤー代わりにできるくらいで、使えるのは基本機能だけだ。中世の世界にインターネットがあるなんて期待できないし…


まあいい、何かすることを見つけよう。


あれこれ考えてみたが、俺にはどうにもできることがなさそうだった。さらにしばらくボーッとした後、ようやくひらめきが訪れ、前回中断したままその後ずっと続けるのを忘れていたことを思い出した。


そうだ、魔法協会に行って、前回まだ終わっていない問題を片付けよう。


茶器をきれいに片付け、二階の部屋に戻って装備を整えた。とは言え、ホルスター以外に持っていくものはほとんどないんだが、以前のいくつかの教訓を活かして、ヒマな時にベルトの部分に少し手を加えていた。


二つの拳銃マガジン用の装着点と小さなポーチを追加した。小銭を入れるためのものだ。万一また盗まれても損害が大きくなりすぎず、大騒ぎしなくて済むように。


正直なところ、補給箱には標準的なホルスターベルトと弾薬装具(ロードベスト?)は入っているんだが、装着するとなんか違和感がある。それに、ケインのところで今のスタイルに合うオーダーメイドの弾薬装具を注文したばかりだ。使わなきゃ損だ。


深刻な状況でなければ、まずはオーダーメイドの方を使おう。どう言っても、高価なものと二度と入手できないものの区別くらいはつけられる。


最後に拳銃の状態を確認。作動状態、安全装置はオフ、ホルスターに収め、上着を手に取って出発だ!


別荘のドアを押し開ける。久しぶりの新鮮な…冷たい空気が気道を通って肺に直撃。震え上がるような素晴らしい気温だ!


温かいソファにすぐに戻りたい衝動に駆られるが、物事は先延ばしにすればするだけ増えていく。今、意志の力でなんとか外に出られるうちにやってしまおう。


「寒いな~」


俺は家を出る第一歩を踏み出し、振り返ってドアを閉めた。


「少なくとも太陽は出てるしな。」


独り言をつぶやきながら、ギルドへと向かった。


主要な施設から離れていることは、富裕層が住む地区に住むことの大きな欠点かもしれない。何をするにも、徒歩で20分前後はかかってしまう。


だが、本当の金持ちにとっては、交通手段があるから実際にはそれほど遠くもないんだろう。結局のところ、ここに住んでいて歩いて移動するのは俺たちだけだから…


区域を分ける橋のたもとにやってきた。ここはほぼ毎回、子供たちの一群(スポーン?)が刷新される場所だ。数は一定しないが、実際に行ったり来たりしているのは同じ連中だ。


だが、なぜか彼らは俺を見るたびに遠くへ逃げていく。俺が凶暴に見えるからか? それともアジア人を見たことがないからか?


俺は橋を渡った後、わざと立ち止まり、周りに大人がいないことを少し確認してから、手を挙げて彼らを呼び寄せた。


まるで人身売買みたいだ…


彼らは俺の動作を見てしばらく躊躇し、また小声で集まって相談した後、その中で比較的年長に見える二人が慎重に近づいてきた。


そして俺は、事前に準備しておいた小さな袋入りのキャンディを取り出した。補給品の中に大きな瓶で入っているんだけど、こういうものはこの世界では高級食品かぜいたく品に分類されるんだろうか?


二人は俺から2、3メートルほど離れた所で立ち止まった。


ああ…次はどうしよう? 少し考えた後、いい考えが浮かんだ。


彼らの前で袋を開け、キャンディを一粒取り出し、どうやって包装を開けるか実演してみせ、そして自分でまず一粒食べて安全を証明した。


これを全て終えると、二人は俺が何か食べ物をくれるのだと理解したようで、ゆっくりと歩み寄り、袋を受け取った。


そしてさっき俺がしたように、半信半疑で味見をした。


「甘い!」

一人が驚きの声をあげた。


「君たちの仲間も呼んで一緒に分け合えよ。」

今になって俺は初めて口を聞いた。


二人が呼びかけると、残りの者たちもすぐに集まってきた。


「どうして俺を見るたびに逃げ出すんだい?」

俺は年長の子に聞いてみた。


彼は少し考え込み、それから言った。

「だって、よそ者はなんでも悪いことするんだもん。捕まっちゃったら、遠くに売られちゃうから。」


「俺が悪い奴じゃないって、どうして怖くないんだ?」

わざと意地悪く聞いてみた。


「怖くないよ。冒険者たちがあなたの話をしてるのを聞いたことあるから。」

別の子供が口を挟んだ。


「どんな話だ?」

彼女の言ったことが突然気になり始めた。


「あなたは臆病者で、いつもみんなを連れて逃げ回ってる、戦いの時もいつも汚い手を使うけど、味方はすごく大事にする、臆病者だけど、悪い人じゃないって!」

一瞬、あいつらが俺の悪口をストレートに言っているのか、遠回しに悪口を言っているのかわからなくなった…


「それに、あの女神様のお姉ちゃんと一緒にいるなら、絶対悪い人じゃないよ!」

別の子供が続けた。


これを聞いて俺は冷静ではいられなかった。あのバカな引きこもり女神が、またコソコソと俺に何か悪さをしているんじゃないか。


「えっと、銀髪で、頭がちょっとおかしい女性か?」

冷静になって聞いた。


すると子供たち全員がうなずいた。


「彼女が、そう呼べって脅したのか?」

さらに尋ねた。


「違うよ。」

彼らは首を横に振った。


「ふう、よかった。」

ほっと一息ついた。あのバカが余計なことをしていなくてよかった。


「みんな、あいつの頭はちょっとおかしいんだ。次からはなるべく離れてる方がいい、それに彼女が何を言っても信じるな、わかったか?」

続けて厳しい口調で彼らに言った。


「どうして? あのお姉ちゃん、よく一緒に遊んでくれるし、美味しいものも持ってきてくれるよ。」

一番年下に見える子が言った。


「これは…説明するのが難しいな。とにかく、もし彼女が君たちに布教を始めたら、つまり月だの何だのを信仰しろとか言い出したら、すぐに逃げて、それから俺に知らせに来い、わかったか?」

今の俺にできることはそれくらいだ。夜帰ったら、一頓挫してやる。


「まさか、彼女、月神教なの?」

年長の子は俺の言葉を聞くと、少し驚いた様子で聞いた。そして周りの他の子供たちも、かすかに恐怖の感情を滲ませていた。


「うん…まあ、そういうことだ。」

疑問を抱えながら答えた。


「わ、わかった。これからは彼女から離れてるよ!」

年長の子は突然、承知した。


彼の怖がる様子を見て、これ以上追求するのも気が引け、さっさと彼らを遊びに行かせた。


この世界に来てもうしばらく経つのに、多くの基本的な問題についてまだ何もわかっていないような気がする…


考えながら市場の中を歩いていく。とても寒い日だが、今日は通りに人通りが多く、道端の露天商も力強く呼び込みをしている。


歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「本日の特製あんパン、残り12個です!」


声のした方を見ると、呼び込みをしている人物が丁度一品を包み終え、目の前の客に渡したところだった。彼女が遠くをチラ見した時に、俺たちの視線が合った。


奴は一瞬、やましい表情を見せたが、すぐに強装鎮定して俺を無視し、呼び込みを続けた。


俺は通りの反対側で風を避けられる場所を見つけ、彼女の仕事が終わるのを待つことにした。待っている間、奴はたまにこっちをチラチラ見てくる。絶対にまたコソコソ何か悪さをしているに違いない。


列に並ぶ人が次第に減っていくのを見て、俺は列の最後尾に回って並び始めた。


最後の客が商品を買って振り返り立ち去ろうとしたその瞬間、スーナはさっさと窓口の戸を閉めようとした。幸い、俺はこの奴の性分をよく知っている。すぐに反対側の戸を押さえつけ、閉めさせないようにした。


「あ、すみません、本日は閉店です。明日また早めに来てください!」

彼女はまだとぼけて、最後まで抵抗しようとしている。


「おい、おい! 俺だよ、バカ! 物買うために来たんじゃない!」

続けて言った。


「買わないなら人の商売の邪魔をしないでくださいよ!」

彼女は我慢の限界に来始めている。


「ふざけるな、戸を開けてちゃんと話そうぜ! 今夜お前を外に締め出すぞって脅すぞ!」


「やれるもんならやってみなよ!」

俺たちはそう言いながら引っ張り合いを続けた。


別の人の声が聞こえてきた時、ようやくこの膠着状態は打破された。


「お客さんですか?」

窓口の向こう側の店舗内から、別の女性の声が聞こえてきた。


その後、彼女は店のさらに奥から出てきた。エプロンを着たショートカットの女性で、焼きたてのパンを載せた天板を手に持っている。まだ二十歳前後くらいに見える。


「和也さんですよね?」

彼女はパンを窓口前の台の上に並べると、続けて言った。

「よくクロエからあなたの話を聞いています。」


この人に会ったことあるかなと考えていると、彼女は続けた。


そう言うからには、クロエの友達とかそんなところだろう。


「ええっと、初めまして、ご迷惑おかけしています! この者は何かトラブルを起こしたり、ご迷惑をおかけしていませんか?」

俺はすぐに態度を切り替え、ついでに話題をそらした。


「ねえ、私を何だと思ってるのよ。少なくともちゃんと仕事はしてるんだから。」

スーナは嫌そうな顔をして言った。


「いいえ、いいえ、むしろスーナさんが来てから私の仕事量は減ったし、お客さんも増えました。万一火傷をしてもすぐに処置してくれて水ぶくれにもならないんです!」

店主は滔々と語り続けた。どうやらこの奴はちゃんと仕事をしているようだ。


「お名前、何とお呼びすれば?」

彼女が少し間を置いたところで、ようやく口を挟むことができた。このままではまだまだ話し続けられそうだ。


「リリアと呼んでください!」


「リリアさん、うちのこのバカには大変お世話になっております。」


「ねえ、いつもバカバカ言わないでくれない? 純粋培養ニート!」

スーナが怒って横から口を挟んだ。


「もし彼女が何か迷惑をかけたら、遠慮なく私に言ってください。保護者として、彼女のトラブルの賠償は責任を持ってします。」

俺はスーナを完全に無視して続けた。


「でたらめ言ったら呪うわよ!」

スーナは怒ったように言った。


「そのようなことはありません。スーナさんは飲み込みが早いですし、パンの製造工程を改良してくれたり、新しいメニューも作ってくれました。むしろ彼女がここで働いてくれて感謝しています!」

リリアもスーナを無視して俺に答えた。


「その何とかあんパンってやつか?」

何だか聞き覚えがあるような気がして疑問に思った。


「そうです。以前は肉もオーブンで焼いて、改良したパンで切って挟むなんて考えたこともありませんでした。」

彼女の話を半分聞いたところで、これが何なのかわかってしまった。元々すぐに傍らで突然やましくなり始めた奴を問い詰めるつもりはなかったんだが、リリアが後で付け加えた一言で、奴がハンバーガーを「発明」しただけではないことに気づかされた。


「ただ、いつもスーナさんのような味にならなくて。スパイスを調合してみたことはあるんですが、いつも何かが足りないような…」


「スパイス?」

口にした瞬間、あの奴は震え上がった。あまりにも明白だ…


「最後のチャンスだ。今自分で白状するか、今夜帰ってお前の隠した物を全部処分してから話すか。」

厳しい口調で続けた。


彼女はしばらく悩んだ後、どこからともなく震える手で、目立たないロゴもない小さな瓶を取り出し、差し出した。


俺は瓶を受け取り、蓋を開けるとすぐに濃厚な香りが…


「どこから手に入れた?」

蓋を閉め直して聞いた。


「えっと… あなたの補給箱の中に、調味料が結構入ってたじゃん?」

彼女はやましいそうに言い、ほんの少し後退した。丁度俺が彼女を殴れる限界距離に。


この殴ってやりたいような態度を見ると腹が立つが、それでもすぐに飛び込んで説教してやろうという気持ちを抑え、彼女の違法所得である工業製品を没収した。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。まだ処理しなきゃいけない用事がありますので、これで失礼します!」

俺は振り返ってリリアさんに言った。


「大丈夫ですよ。これ、食べてみてください。今度時間がある時にまたゆっくり話してもいいですよ!」

彼女は明らかに俺が言い訳して立ち去ろうとしているのを見抜いていたが、快く俺に逃げ道を与え、焼きたてでまだ温かいパンを一つ渡してくれた。


「そ、そしたら、ありがとう!」

俺はパンを受け取り、スーナを睨みつけ、さっさとその場を離れた。


通りに沿ってさらに進みながら、歩きながらパンをちぎって食べてみた。一口で、スーナの奴が補給箱から他のものもこっそり持ち出していたに違いないとすぐにわかった。ここに来てから、こんなに美味しくて柔らかいパンを食べたことがない! とはいえ、この世界の料理レベルに比べて、の話だが。


最初の分岐路にやってきた。直進すればギルドへ続くが、左折すれば、確かほどの尽头あたりにシルシャが働いている場所があったはずだ。


路地で手に持ったパンをかじりながらあちこち眺めてみた。どうせモグエのところは別に緊急の用事でもないし、まだ時間も早いから、ついでにシルシャの様子を見に行ってもいいだろう。


それに、前から聞きたかったんだ。なんでこの通りには酒場ばかりなんだ! みんな同じように見えるけど、完全に同じってわけでもない感じがする。しかも商売は繁盛していて、どんなに寒い冬でもこの場所に冒険者がいなくなることはない。人を探すならギルドに行くよりも実際的だ。


だが、安っぽい雑魚冒険者がいるところには、大概それに付随する風俗街や賭場もあるはずだが、俺は風俗街は見たことがない。多分あまりに怠けているからだろう、街のマップ探索進度はまだ全然進んでいない…


今度、知り合いに聞いてみようかな。だってこの世界には、猫耳やサキュバスみたいな種族が実際にいるみたいだし。


別に他に考えがあるわけじゃない、純粋に好奇心だけだ! どう言ってもこれは空想の世界にしか存在しないものだ。以前はライトノベルや漫画でしか見られなかったものが、今は実際にこの目で見られるんだ。どうしたって見学くらいはするべきだろう?


歩きながらあれこれ空想しているうちに、通り過ぎるところだった。


引き返して酒場の前まで戻り、ドアを押し開けた。閉鎖的な空間の中で大勢の人間の呼吸で温められ、焼肉、アルコール、半月風呂に入っていない体臭、そして何か半分発酵したような臭いが混ざった空気が、直に鼻腔を突いた。


ここが好きじゃない主な理由の一つだ。


鼻をつまんで即座に引き返したい衝動を必死にこらえ、一巡り見回した。騒がしい冒険者の群れ以外、店員一人見当たらなかった。


だが、俺が入ってきた時に突然室内に吹き込んだ冷気が、何人もの人間の視線をこっちに向けさせた。そして気づけば室内の物音も少し小さくなり、代わりにさらに多くの視線が集中し、それから次第に元に戻っていった。


とにかく、気分は良くなかった。イタリアン・ウェスタンである見知らぬ町の酒場にやってきた主人公が、中にいる悪意ある連中に上から下までじっくり観察されるような感じだ…


今は強装鎮定してバーのカウンターの空いている席まで歩き、バーテンダーに尋ねるしかない。


だが、ここのバーテンダーは、優しそうな姉さん風の容貌だが、貧乏な(あるいは「貧相な」の誤記? 文脈からは「貧乳」か?)娘のサイズに近い。


すみません、オートエイム(自動照準? 比喩的に「視線を向ける」の意か)を切るのを忘れました!


「シルシャを訪ねてきたんでしょう?」

俺がまだ座りもせずにいるのに、杯を拭きながら彼女が聞いてきた。


「あ、ああ。」

俺はうなずいて答えた。


「私も困ってるんです。このところ商売はまあまあ順調なんですが、ギルドの討伐団がいつも彼女を連れて行っちゃうんで、こっちは人手が足りなくて。」

彼女は困ったような表情を見せた。


「どう言ったって、彼女は貴重な頼りになる剣士ですからね。」

傍らの席で、聞き覚えのある声が突然会話に割り込んできた。


「よう、相棒、気づかなくてすまん。」

振り返ってケインに挨拶した。


「あんな良い剣術を持っていながら、ここで盆膳を運んでるなんて本当にもったいない。」

ケインは一口すすりながら続けた。


「でも、ここは野原より安全ですし、みんなシルシャのことを好きですから。」

バーテンダーは急かさず、相変わらず杯を拭きながら答えた。


なんだか少し気まずい空気になってきた…


「その、何が起こってるのか、俺だけ知らないってことか!」

俺は急いで話題をそらした。


すると二人はまたもや息ぴったりに口を閉ざした。これでまた気まずい空気に…


「ケイン、説明してくれ。」

続けて言った。


「冬に誰も処理しない依頼は、自然に消えたりはしないんだ。」


「待てよ、それとギルドが児童労働者を雇って危険な仕事をさせることと、何の関係があるんだ?」

言い終わると、さっきまでリラックスしていた二人が突然疑問の目を向けてきた。しばらくして、二人とも軽く笑い声をあげた。


「お前ら、どういう意味だ?」

少し怒りを込めて詰問した。


「君、知らなかったんだな。」

あの女バーテンダーは、いつまでも拭いていた杯を置いた。


「シルシャがエルフだってこと、忘れてたんじゃない?」

続けて聞いた。


「だから?」

「彼らの寿命は我々の想像を超えるほど長い。そのせいで、成長するのにも比較的長い時間がかかるってこと、これでわかるでしょう?」

「はあ?」

彼女の言葉は、俺の地球常識判別プログラムをフリーズさせてしまった。


「坊主、実際のところ、俺だって彼女のことを『お姉さん』って呼ばなきゃいけないんだ。」

ケインが続けて補足した。


異世界常識.exe をインストール中、実行中。


「へえ~… でも、なんで誰も俺に教えてくれなかったんだ?」

問題は振り出しに戻った。


「この問題は俺たちに聞くべきじゃないし、他の誰かが答えるべきことでもない。彼女自身の考えは何なのか、君が直接彼女に聞くしかない。」

彼はわざと深遠なふりをして言った。


「ああ… もういいや、問題を処理するたびにさらに多くの問題が見つかる。まずは今の用事を片付けに行くよ。相棒、ゆっくり飲んでな。」

そう言って、元々の目的地へ向かって出発しようとした。


「坊主、冒険者たちの間でよくない言い伝えがあるの知ってるか?」

ケインが続けて言った。


「はあ?」

「酒場に入って何も注文しないと、不運を招くんだぜ。」

なんか、子供騙しの作り話をでっち上げているような気がする。


「何か適当なものを、この俺の友達に。」

俺は慣れたふりをして金をカウンターに置いた。ケインも杯を挙げて合図した。


そして、俺は本来の用事に忙しくするべきだった。


相変わらずギルドに着いた。普段と同様に閑散としている。間違いなく、何かわけのわからない強制イベントクエストが自動発動するに違いない。


だがあちこち見回しても、どうやら常駐NPCは一人も見当たらない。カウンターまで歩いていっても呼び止められない。今日は何の問題も起きないような気がする。だが、そんな風に思うのはやめておいた方がいい。さもないと、すぐに面倒が舞い込んでくるから。


「エクニアは、魔法協会に一緒に行く者を手配済みのはずだ。」

俺は、それほど眠そうに見えない受付嬢を適当に見つけて聞いた。


「彼女は休暇に入る前に言い残しています。少々お待ちください、すぐに担当者をお呼びします。」

彼女はそう言うと立ち上がり、担当者を探しに行った。


知り合いを見かけないわけだ、休暇か。これで完全に安全だ!


受付嬢が戻ってくるのを退屈しながら待っていると、突然不安感が足の裏から全身に充満し、頭の中には「逃げろ」という言葉だけが残った。


「少しは進歩したな、俺の接近に気づくとは。」

聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。


「今日、休みじゃなかったのか?」

仕方なく聞いた。


「姉貴が休もうが俺に関係あるか。」

彼女は答えた。


「人、代われないか?」

振り返りながらカウンターにもたれて、わざと面倒くさそうに言った。


「駄目だ、さっさと行け。この件はもうずっと引き延ばしだ。」

彼女は本当に苛立っているように言った。


「つまりそういうことなら、こういう処理にはもっと賢い連れていって相談すべきだろ、入ったら相手の場をぶっ壊す用心棒を連れて行くんじゃない。」


「相談なんてのはお前の仕事だ。俺は冒険者ギルドの代表として出面するんだ。無駄な時間を使わせるな、さっさと行け!」

彼女はこれ以上ごちゃごちゃ言わせる隙も与えず、俺の服を掴んで外へ引っ張っていった。


「それに、俺を罵っているってわかってるんだぞ!」

続けて言った。


「おい! 引っ張るな! 自分で行くってば!」

彼女に入口まで引っ張られて、ようやくさっき赤毛(多分エクニアの妹を指す)を探しに行ったあの受付嬢が、隅からこっそりと這い出してくるのを見た。どうもエクニアが前もってここまで手配していたように感じる…

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