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中二病の聖騎士と短気な女戦士

ギルドに行く気はあまりなかったが、昼食の時間だし、何日も行っていなかったので、このままではまた元の怠け者に戻ってしまいそうだ。ただ横になっているだけでは退屈で仕方ない。


そう思って、私はようやく布団から這い出し、温めておいた上着を羽織り、少し身だしなみを整えてから出かけた。


「ヒルシャは酒場でバイトしてるみたいだし…」


歩きながら独り言をつぶやく。


モイエはギルドから魔法関連の仕事に呼ばれたらしいが、詳細はわからない。聞いても説明が面倒くさそうなので、あえて聞かないでおいた。


ただ、スナの行方はまったくわからない。だが、大ごとを起こさなければそれでいい。


そう考えていたら、突然寒気が走った。


寒風の中を歩き、ギルドに到着すると、肩でドアを押し、ちょうど人が通れる隙間を作って中に入った。


広いホールには冒険者の姿はほとんどなく、スタッフが数人いるだけだった。実力のある冒険者は迷宮に行ってしまうし、金のある者は春まで休暇中だ。この季節は受注できる依頼も少なく、報酬は悪くないが、外に出るには寒すぎる。


入った瞬間、カウンターから手を振ってくる人物が目に入った。挨拶のように見えたが、おそらくまた面倒な用事だろう。無視して食堂に向かおうとしたが、すでに待ち伏せしていた赤毛の凶暴娘に進路を阻まれた。


「こっち来いよ」


彼女は腕を組み、少し上から睨みつけてきた。


「お前は受付か警備かどっちなんだ?」


とツッコミを入れる。


「黙って来いって言ってるだろ!」


まだ二言目で彼女は爆発し、拳を振り上げようとした。だが、前回のように不意打ちを食らうつもりはない。彼女が攻撃態勢に入ると同時に、私は防御姿勢を取り、後ろに下がった。


しかし、攻撃は来なかった。拳は空中で止まり、彼女は不満そうに睨むだけだ。そうか、ギルド内では規律を守るのか。


ポケットに手を戻すと、アシニアが仲裁に入ってきた。


「和也さん、ちょっと良くない話があるんですが…」


彼女は遠回しに、しかし直接的に伝えてきた。


「断っていい?まだ昼飯も食べてないんだけど」


「断らない方がいいと思いますよ」


赤毛の女をちらりと見て、彼女の言う通りだと思った。


「はぁ…わかったよ」


そう言うと、二人に護送されるようにカウンターへ連れて行かれた。


アシニアはカウンターに戻り、赤毛だけが後ろで監視している。


「で、何の問題?あ、そういえば前回の任務の報酬まだだぞ!」


カウンターにもたれかかり、不機嫌に言う。


「報酬は、翌日来られなかったので、今回はまとめて支払います」


彼女はカウンターの下から依頼書を取り出した。


「これは町外れの林にある伐採村からの依頼で、狩りの対象は…」


「はい、お断りします!」


彼女の話を最後まで聞かずに拒否した。今の所金には困っていないし、寒い中外に出る気はない。いや、どんな依頼でも受けたくない!


「おい!姉さんの話を最後まで聞けよ!」


後ろの赤毛が怒鳴り、私の頭を拳で殴りつけようとした。


「誰が行くかよ!金も困ってないし!」


彼女に言い返す。


「またケンカ売ってんの?」


「売ったらどうだ!」


私も怒りを込めて返した。


彼女は一歩下がり、攻撃態勢に入った。私もポケットから手を出し、防御の構えを取る。


その瞬間、背後から何か黒い物体が飛んできて、セプニアの額に命中し、地面に落ちて金属音を立てた。


「コイン?」


そして、背後から殺気を感じた。振り向くと、怒りを抑えながら無理やり笑顔を作るアシニアがいた。


「あなたたち、いつまで子供のケンカしてるの?するなら外でやって」


平静を装っているが、怒りが溢れんばかりだ。


「す、すみません…」


頭を下げて謝る。さもないと、次は私が額を押さえて地面に転がる番だ。


「ええと、狩りの対象は森狼の群れで、すでに冒険者が位置を確認しています」


「おい!偵察は俺に頼めよ」


話の途中で割り込む。


「最初はそうする予定でしたが、あなたが来なかったので。今は討伐依頼しか残っていません」


彼女はため息混じりに言った。


「詳細はこちらです」


地図を渡される。


「狼の群れは成体15頭と子狼数頭で、前回の巨角戦鹿の生息地に近い場所に出没しています。余裕があれば、鹿も何頭か狩ってきてください」


冗談半分に言う。


「余計なこと考えてんじゃねえよ。まだ受けるかどうかも決めてないんだぞ」


「討伐報酬は銀貨5枚、1頭あたりの買取保証料は銅貨50枚です。悪くない条件だと思いますが、どうですか?問題なければ出発の準備をしましょう!」


そう言うと、彼女は勝手に受領のスタンプを押した。


「おいおい!待てよ!勝手に決めるな!まだ考える時間くれ!保険も入ってないし!」


「大丈夫です。馬車で送りますので、夕方までには帰ってこられるでしょう。セプニアも一緒に行きます」


そう言うと、彼女は立ち上がって去ろうとした。後ろの赤毛もいつの間にか私の襟首をつかみ、引きずり出そうとしている。


「おい!装備!装備がまだ…いやいや!仲間も呼んでないんだぞ!」


カウンターに必死にしがみついて、引きずられないように抵抗する。


「うるさいな!一人で行けよ!剣も持ってないし、何が冒険者だよ」


赤毛は呆れたように言う。


「他の二人はどこ?」


アシニアがようやく聞いてきた。


「知るかよ!一人はギルドに借り出されてるし、もう一人はどこで遊んでるかわからん。どう考えても一人で戦える状況じゃないだろ?」


「そうですね…でも狼の群れが移動してしまう可能性も…そうだ!」


アシニアは何か思いついたようだ。


「じゃあ、彼と組んで行ってみる?」


彼女は私の後ろの赤毛を見た。


「ん…別にいいけど、足手まといにならないようにしろよ」


セプニアは腕を組み、少し考えてから答えた。不機嫌そうに見えたが、実は楽しみにしているようだ。だが、足手まといって誰のことを言ってるんだ?


「おい、大丈夫なのか?」


アシニアに聞く。


「問題ありません。彼女は冒険者時代は上級剣士でした。サポート役としては申し分ないでしょう。妹を貸す代わりに、彼女の安全はあなたが責任持ってくださいね」


あっけらかんと言う。


「おい!任務を押し付けられる上に問題児の面倒まで見ろってか!」


身を乗り出して小声で言う。


「誰が問題児だ!」


赤毛に聞こえたらしく、彼女は怒って私の脛を蹴ってきた。よろけそうになった。


「ケガさせたら治療する奴いないぞ!」


同じように怒鳴り返す。


「弱いからだ!さっさと行くぞ!」


また引きずられそうになる。


「おい!ちょっと!回復役はいないのか?二人じゃ無理だろ!普通の魔法使いでもいいから!」


まだカウンターにしがみついている。


「それは…」


アシニアは少し考えた。


「他の職業はいませんが、上級聖騎士が一人います。何も問題ないのですが…」


途中で言葉を濁す。


「まさか…酒癖の悪い奴とか?」


嫌な予感がする。


「そうではありません。でも彼女以外だと、弓使いのグループがまだ任務を受けてくれるかもしれません。ただし、雇用は自費ですよ!」


アシニアが言う。


あの連れはやめておこう。動きの速い相手には向いてなさそうだ。待てよ…


「自費!?」


そこに気づいた。


「当たり前でしょう?」


彼女は当然のように言った。確かにそうだ。


「じゃあこいつは?」


後ろの赤毛を指さす。


「半額です!」


アシニアはあっさり答えた。


「わかったよ。その聖騎士を呼んでくれ。弓使いは人数が足りなさすぎて役に立たない」


少し考えてから言う。


「準備してくる。また来る」


そう言って装備を取りに行った。


聖騎士と剣士の違いは何だろう?どちらも長剣を使うが、鎧の違いか?聖騎士が前に出て敵を引き付け、赤毛がサポートで仕留める?


いやいや、元の世界と同じなら、複数に囲まれて引き裂かれるのがオチだ。危険すぎる。まずは遠距離で消耗させ、群れを散らすのが先決だ。


だが、弾薬はあまり残っていない。


「あー!煩い!」


もう考えない!


装備を整えて戻ると、二人はもう待っていた。


そのうちの一人、白い半身鎧を着た暗紫色の髪の少女が目に入った。アシニアの言っていた聖騎士だろうか。どこかで見たことがあるような?


彼女をじっくり見る。装備はどれも高そうで、オーダーメイドだろう。紋章や装飾はないが、白い塗料も一般人が使うものではない。しかも、頻繁に任務に出ているのに新品同然なのは、手入れを怠っていない証拠だ。金もかかっているに違いない。


雇う報酬が法外なのではないか?


不安を抱えながら近づく。


「戻りました。こちらはカロリンです」


アシニアが紹介する。


名前からして冒険者というより、貴族の令嬢っぽい。実際にスカートを穿いているが、スカートアーマーもスカートの一種だろう。


彼女は私の方を見た。


「ああ、前に騎士の尊厳を踏みにじった奴か」


少し厳しい口調で言う。


「思い出した。前に無謀に突っ込んでいったバカだ!てっきり戦士かと思ってた」


「あれは私の責任だ。あなたが愚か者であろうと、平民であるあなたたちを守るのが騎士の務めだ」


意外にも怒らず、冷静に説明してくれた。だが、多分中二病の一種だろう。


「聖騎士って一般人より地位が上なの?」


カウンターに寄ってアシニアに小声で聞く。


「いいえ、普通の冒険者です。貴族なら王国王騎士と呼ばれますが」


彼女も小声で教えてくれた。


「何か問題があるのはわかったが、戦闘は頼れるか?」


続けて聞く。


「大丈夫です。彼女はとてもタフです」


「ねえ、何を話してるの?」


カロリンが近づいてきた。


「別に!何でもない!出発するぞ!」


そう言って彼女を外に連れ出した。


赤毛はもう馬車のそばで待っていた。


「遅いな」


イライラしながら言う。


「はいはい、お嬢様、出発しますよ」


そう言って馬車に乗り込む。だが、この言葉でカロリンが急に警戒したような目で私を見た。もしかして「お嬢様」という言葉が気に食わないのか?


まあ、中二病の演技だろう。


今回のパーティーも少し問題はあるが、詠唱時間の長い魔法使いや逃亡の専門家よりはマシだ。少なくとも全員が戦える。


ただ、三人で狼の群れに挑むのか…アシニアが大規模なパーティーを組めと言わなかったのだから、多分問題ないのだろう。それに、本当に危険なら妹を行かせたりしない。


だが、私を過大評価しているのではないか…不安がよぎる。


「あのさ、男ならもっとしっかりしろよ。俺たちが突っ込んで片付けちゃえばいいじゃん」


カロリンが言う。


「そうだよ、怖いなら後ろでサポートしてればいい。邪魔さえしなきゃ」


赤毛も同意する。


「お前らが死にたいなら止めない!だが俺は報酬をもらって生きて帰りたいんだ!お前らがやられても、俺の足じゃ狼に逃げ切れない!それに!」


赤毛の方を向く。


「もし俺だけが帰っても、姉貴が俺をあの世に送るだろう!それに俺がお前らを雇ったんだ。せめて俺の指示に従え!できるだけ夕飯までに無事に帰すから!…そういえば昼飯まだ食ってない」


二人は不満そうな顔をしている。


そう言って再び狼の群れを観察する。全員いるようだ。距離は50メートルもないだろう。木々の密度も低く、群れの戦術には都合が良さそうだ。


我々には不利だが、幸い風向きは狼からこちらに向かっている。少なくとも気配を悟られる心配はない。奇襲のチャンスだ。


「ところで、狼の群れにはリーダーがいるんだろ?ボスみたいな」


聞いてみる。


「一番威厳のある奴だよ」


カロリンが先に答え、赤毛の方を見る。


「何見てんの?もう教えただろ?とにかく一番強い奴だ」


「ああ」


元の世界の基準で言えば、一番カッコいいやつだろう。


群れの中に一頭、周りより少し大きく見える狼がいた。多分あれだ。


「いいか、俺がまずリーダーを仕留めるから…」


言い終わらないうちに二人に遮られた。


「ダメ!」


「は?」


「リーダーは私のもの!強い敵と戦う機会が久しぶりなんだ。絶対に譲らない!」


赤毛が先に宣言する。


「何でお前に譲る必要がある?私もリーダーと戦いたい!」


カロリンも続ける。


同盟はあっさり瓦解した…そして私は二人の言い争いにまったく割り込めない。


「もう時間の無駄だ!先に着いた者が勝ち!」


赤毛は剣を抜き、走り出した。


「おい!卑怯だぞ!」


カロリンも後を追う。私は一人取り残された。


「おい!」


少ししてようやく状況を理解した。計画は完全に狂った。二人の大声ですでに狼の群れは警戒態勢だ。


まだ間に合うか?背中のライフルを構え、地面に伏せる。すると、狼のリーダーがゆっくりと立ち上がり、空に向かって命令の遠吠えを上げた。他の狼もそれに従い、攻撃態勢に入る。


しかし、遠吠えが終わらないうちに、悲鳴に変わった。


他の狼が振り返ると、赤毛とカロリンが群れに突撃していた。


「起き上がるのを待ってたんだ」


リーダーが立ち上がるとターゲットが大きくなり、動かなくなる。この距離で外すはずがない。狼の傲慢さに感謝だ。


念のため、倒れた後にもう一発撃った。あとは二人の活躍次第だ。


認めたくはないが、二人とも強い。統率を失い混乱した狼の群れは、二人に囲まれたも同然だった。


セプニアの斬撃はどれも正確で、群れに突入した瞬間に二頭の狼の首を斬り裂いた。動きも異常に速く、あっという間に一頭を仕留める。まるで野獣のような敏捷さと致命性だ。


ケインが彼女をそう呼んだ理由がわかる。


カロリンは少し鈍重に見えたが、全ての動きが優雅で、剣の一撃一撃が重く致命的だった。ダンスのようだ。セプニアのような正確さはないが、当たればほぼ致命傷だ。


間一髪で接近されても、拳一発で吹き飛ばす。


私の出番はなさそうだ。ここから援護すれば弾薬の節約にもなる。三頭以上に囲まれない限り、撃たないでおこう。


すぐに狼の半数は討伐され、残りのうち何頭かは敵の強さを悟り、森に逃げ込んだ。あとは数頭が足止め役だ。


逃げる狼をすべて撃つのは無理だったが、群れを散らせたのだから任務は成功だろう。


最後の数頭も長くは持たなかった。同時攻撃を仕掛けてきたが、二人は自然に連携し、互いをカバーする陣形を取った。何のダメージも与えられない。


二人が最後の一頭に向かうのを見ながら、今日の仕事は楽だったな、と思っていた。


その時、金属のぶつかる音がした。


「ああ!」


急いで駆け寄る。


最後の一頭をめぐって二人が戦い始めたのだ。こんな状況を予想すべきだった!


私が到着する前に、二人は何度も刃を交わしていた。


カロリンは赤毛に比べて明らかに機敏さに欠けるが、ほぼ全ての攻撃を防ぎ、時には彼女を押し戻すほどだ。


一方、セプニアはスピードを活かし、カロリンより力は劣るものの、次々と攻撃角度を変えていく。


だが、数回やり取りしてもカロリンの防御は崩せず、逆に横からの攻撃を体当たりで弾かれた。


「おい!やめろ!」


叫んだが、まったく聞こえていないようだ。


カロリンはセプニアを弾いた後、一歩踏み込み、決着をつけようとした。だが、鎧の重さか何かで、攻撃時の動きは明らかに遅い。私でも簡単に避けられるほどだ。


当然、セプニアには当たるはずもなく、逆にカロリンは無防備になった。セプニアは一瞬で横に回り込み、腹部への致命的一撃を繰り出した。


間に合わない!可能な限り速く拳銃を抜き、セプニアの手か足を撃てば攻撃を止められる。スナに治療してもらえば致命傷にはならない。だが、私の動作は遅すぎる!


一瞬後、予想とは違う鈍い音がした。


「え?」


混乱していると、カロリンは剣を鞘に収めた。


「私の負けだ。最後の一頭は譲る」


カロリンが言う。


は?どういうこと?決闘?いやいや!問題はなぜ突然決闘が始まったかだ!相談もなしに!それに二人の攻撃は本気だっただろう!


頭が混乱し、何も言えなかった。


「久しぶりに楽しかった!リーダーは討ち漏らしたけど」


セプニアは伸びをしながら言った。


「もう何も言わん。早く片付けて帰ろう」


二人の前に立ち、ため息をつく。


「急ぐな!まだお前と話が残ってるぞ!」


赤毛が私の頭を拳で殴る。


「は?」


反撃したい気持ちを抑える。


「リーダーを勝手に倒すなよ!狼の王と戦うチャンスを台無しにした!姉さんがようやく外出させてくれたのに!黙れ!」


話の途中で、二人が争っていた最後の一頭の狼が必死に立ち上がった。赤毛は迷いなく首を斬り落とした。


思わず後ずさりし、しまった拳銃を再び抜く。


数秒の沈黙の後、赤毛は私をじっと見つめ、冷や汗が流れた。この距離では私は不利だ。そして、彼女はゆっくりと近づき、目の前で止まった。


何をするつもりだ?そう思った瞬間、強烈な一撃が顔面に飛んできた。


「取り返しだ」


そう言って彼女は去っていった。


「はあ」


これ以上彼女を刺激する気はない。特に怒っているときはなおさらだ。


「援護は文句ないが、男としてお前は本当に使えないな」


カロリンは二頭の狼の死体を担ぎながら言う。


「おい!俺はお前らみたいじゃない!生きることが最優先だ!」


そう言いながら地面の狼の死体を持ち上げようとするが、予想以上に重い…


「使えない」


カロリンはゴミのような目で私を見た。


「わかってる!二度言うな!」


残り少ない面子を保とうとする。


「大丈夫か?」


狼の死体を引きずりながら聞く。


「何が?」


カロリンは二頭の狼を軽々と担いでいる。


「さっきの一撃、結構効いてたみたいだけど。本当に平気なのか?」


続けて聞く。


「大丈夫だ。彼女も本気で殴ってきたわけじゃない」


本当に平気そうだ。耐久力の差だろう。あの攻撃を私が食らったら、死ななくても吹き飛ばされ、重傷で気絶していたはずだ。


「こんな寒いのに、他の奴らは休んでて依頼を受けたがらない。俺も強制されなければ出たくないんだが。そんなに金に困ってるのか?すぐに受けてたけど、あの鎧を見る限り貧乏には見えないが」


狼の死体を集めた場所まで引きずり、少し休憩しながら話を振る。


「騎士は屋根の下にばかりいるわけにはいかない。冒険に出て、強敵と戦い、仲間を守りたい。でも、私と組んだパーティーは二度と一緒に任務を受けてくれない」


「なぜ?」


「危険を顧みず、仲間と協力しないからだと言われる。でも、私は敵の注意を引きつけて仲間を守ろうとしただけだ。自分がタフだとわかっているからこそできたことなのに」


なるほど。まったく指示を聞かず、単独で突撃し、仲間が救助に追われる…前回と同じだ。


「それで…なんで聖騎士になろうと思ったんだ?」


話題を変える。


「私の家は愛の女神ルビーの信徒で、私も主に長剣を使う。聖騎士にならなければ普通の重戦士だけど、それじゃ全然カッコよくない。だから教会で修行して聖騎士の資格を取ったの」


彼女は二頭の狼の死体を山に積み上げながら言う。


「待てよ…今『カッコよくない』って言ったか?」


何か気づいた。


「そうだよ。隊列の先頭に立つのが一番カッコいいと思わない?」


当然のように言う。


「名誉とかは?」


探るように聞く。


「もちろんそれも大事だ!」


自信満々に答える。


完全に中二病の問題児だ!


水筒を取り出し、水を飲んで冷静になろうとする。


「私にもくれよ」


カロリンが急に近づいてきた。


「お前のは?」


聞く。


「持ってないでしょ?こんな仕事は普通の冒険者に任せるものだ」


そう言うと、彼女は当然のように私の水筒を奪った。


しかし、中は空だ。振ってみてから、また近づいてきた。今度は顔が触れそうな距離だ。


「おい!出発前に荷物の確認ぐらいしろよ」


と言う。


水筒を取り返す。


「基礎の水魔法で満たせばいいだろ?」


少しイラッとしながら言う。


地面に水筒を置き、左手で水筒の容量に合わせた水の玉を作り、右手で照明用の火魔法を使って温める。


そして、最も難しい部分だ。お湯をゆっくりと水筒に注ぐ。


これで完成!魔法は便利だ。だが、私にできるのはこの程度まで…


「ほら」


カロリンに渡そうとすると、彼女は信じられないという顔をしていた。


「は?いらないの?何が驚くことあんの?」


続けて言う。


「お前の職業は冒険者だよな?」


彼女は怪訝そうに聞く。


「ああ、何か?これは基礎魔法だ。ギルドの受付で教わっただろ?ああ、聖騎士なら『これは俺の学ぶべきものじゃない』とか言ってスルーしたんだろ」


「あ、うん…そうだ。違う!そんなことぐらい知ってるよ!」


急に大声で言う。


「なら何で聞いた?」


今度は私が怪訝になる。


「ギルドで教わるのは、まず水を汲み、薪を集め、火を起こして沸かすんでしょ?」


興奮しながら言う。


「は?そんな面倒なことする必要ある?直接温めればいいだろ?」


そう言うと、彼女は何か言おうとしたが、言葉を飲み込んだ。少し考えてから落ち着き、何か言おうとした。


だが、今はそれどころじゃない!


私たちがこんなことで言い争っている間に、逃げた狼の群れの数頭が戻ってきて、私たちを囲んでいた。


カロリンの背後にいる一頭が気づいたときには、もう攻撃が始まっていた。避ける時間はない!彼女を押し倒せば間に合うかもしれない。


「危ない!」


だが、彼女の重さを甘く見ていた。微動だにせず、むしろ岩にぶつかったような衝撃が走り、次の瞬間には投げ飛ばされていた。


何事かと思っていると、彼女は前後の二頭の狼に挟み撃ちにされていた。


地面を一回転してからようやく状況を理解し、拳銃を抜き、跪いた姿勢でカロリンの背後から首を狙う狼に向かって速射した。


確信はなかったが、迷っている時間はない。


二発は当たったようで、その狼は動けなくなった。


だが、彼女の正面の狼には撃てない。誤射のリスクがあり、しかもその狼はカロリンの左手に食らいついていて、簡単には外れそうにない。


「後ろだ!」


カロリンが叫ぶ。


後ろ?私の後ろ?


そう思った瞬間、振り向いたが遅かった。


三頭目の狼が私を地面に押し倒し、狙う間もなく撃つこともできなかった。左肩に何かが突き刺さり、激痛が走った。貫かれたような感覚だ。


もう少しで意識を失い、拳銃を落とすところだったが、生きる意志が痛みに耐えさせた。狼が攻撃してきた瞬間、必死に拳銃を上げ、その下顎に二発撃ち込んだ。


しかし、その死体が倒れる前に何かに吹き飛ばされた。何が起こったのか確認できない。刺さった異物を抜くこともできない。


だが、状況を把握する間もなく、重い足音が近づいてくる。


「痛い!クソ!」


なんとか頭を上げて状況を確認しようとするが、激痛で簡単ではない。


カロリンが片手で剣を構え、残る一頭の狼に向かっていく。だが、彼女の速度では追いつけず、その狼は賢くもカロリンの攻撃範囲に入る前に避けた。


援護射撃しようとするが、手が震えてまともに狙えない。もっと近くなら、狙わなくても当たる。


「こっちに引きつけろ!」


叫ぶ。


近くまで来れば、たとえ私に向かってきても撃てる。


カロリンは私を見て、意図を理解したようだ。狼の横に回り込もうとする。


だが、狼は騙されず、ゆっくりと距離を取る。


そして次の瞬間、さらに不可解な行動に出た。狼は群れが休んでいた場所に走り寄り、何かを探している。


「おい!どうなってる!」


カロリンが聞く。


「知るか!」


狙いを定められないが、とにかく銃口を狼の方に向ける。カロリンも私の左前方に移動した。


この突然の膠着状態に、私たちは様子を見るしかなかった。


その狼は地面から何か毛むくじゃらのものを咥え、すぐにわかった。子狼だ!彼らが戻ってきたのは私たちを襲うためではなく、連れ去れなかった子を救うためだった。


「カロリン、剣を下ろせ。もう襲ってこない」


拳銃を下ろしながら言う。


「また襲ってくるかも知れない!」


カロリンはまだ剣を構えている。


狼は子を咥えると、一度こちらを見てから、ゆっくりと森の奥へ走り去った。


危機は去ったようだ…落ち着くと、痛みが増してきた。アドレナリンの効果が切れてきたのだろう。


苦しい。呼吸するたびに耐え難い痛みが脳を貫く。異物を抜きたいが、傷の状態がわからないまま動かすのは危険だ。


だが、動かさないと帰れない。カロリンが近づいてくる。


「おい、傷の状態を見てくれ」


苦しそうに言う。


「この程度の傷で死にそうな顔するなよ」


彼女はあきれた目で私を見る。


「は?」


恐怖と混乱の入り混じった目で彼女を見る。


「まったく、こんな傷も耐えられないで、何のために冒険者になったんだ?とりあえず起こしてやる」


そう言って、彼女は私を引きずり上げた。


次の記憶は、揺れる馬車の中で、生臭い素材の山の横に横たわり、左肩は相変わらず激痛が走っていた。


苦労しながら起き上がると、二人はゴミのような目で私を見ていた。


「起きた?」


カロリンが声をかける。


「ちょっと…準備させてくれ!」


頭がくらくらし、息苦しい。傷を見下ろす。どこからか調達したボロ布で包帯をしているが、すでに血でびっしょりだ。まだ出血が続いているようだ。


「とりあえず処置はした。小枝一本でこんなに傷つくなんて信じられない。こんな軽傷で気絶するなんて。お前はどれだけ弱いんだ?」


赤毛が言う。


「あの大きさの狼が飛びかかってきたんだぞ!それにその小枝って、親指ぐらいの太さはあるだろ?それを小枝と呼ぶか?」


興奮しながら言うと、傷がさらに痛む。


二人は互いを見る。


「大きかった?」


赤毛が言う。


「太かった?」


カロリンが続ける。


そして再び、二人はゴミのような目で私を見た。


異世界の超人たちを元の世界の基準で測ってはいけないことを思い出す。


「もういい…説明しても無駄だ。もう少し眠る。着いたら起こしてくれ」


そう言って馬車の壁にもたれ、ゆっくりと眠りにつく。少なくとも傷の感染や後遺症を心配しなくていいのはありがたい。魔法は便利だ…


どれくらい経っただろう。暖かい午後の昼寝をしているような感覚で、顔に光が当たり、ゆっくりと目を覚ました。


起き上がろうとした瞬間、パシッと頬に平手打ちが飛んできた。


熱い痛みを感じながら、驚きと困惑で一気に目が覚め、目の前にいるバカを見た。


「お前、本当に寝るのが好きだな」


スナが立ち上がりながら言う。


まだ混乱し、怒りも覚えているが、この顔を見ると安心した。傷はすでに完全に治り、まるで何もなかったかのようだ。


「あんた、自分の実力もわからずに一人で出かけるなんて。もしものことがあったら、誰が私を養ってくれるの?」


スナは当然のように言う。


反論しようとしたが、今の問題はそれではない。


「よく言うよ!二日も行方知れずで、遊び歩いてたくせに!」


立ち上がり、彼女を指さす。


「は?あんたこそ、ベッドに二日もごろごろしてたのは誰だよ!」


私は即座に構え、神殺しの準備に入る。スナも防御姿勢を取る。


この人神戦争が始まろうとした瞬間、突然見知らぬ声が割り込んできた。おそらくスナと私にしか理解できない言葉だ。


振り向くと、その人物の服装がこのヨーロッパ風の異世界にまったくそぐわないものであることが一目でわかった。


私の学服よりも目立つ!

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