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第8話 新たな縁談話

 その日の夕方――


「お母様、ただいま戻りました」


台所で食事の用意をしていたアメリに、帰宅の挨拶をするソフィア。


「お帰りなさい、ソフィア。今夜はミートパイを焼いたの。好きでしょう?」


「はい、大好きです。お父様は今日はまだ帰ってはいませんか?」


昨日の縁談話から、ソフィアはまだ一度も父と顔を合わせていない。アメリが禁じたのか、それともバツが悪かったのか、食事の席に姿を見せなかったからだ。


「ええ、あんな人知らないわ。気にする必要は無いのよ、ソフィア。それではパイも焼けたことだし、食事にしましょう」


「え? お父様を待たなくても良いのですか?」


ソフィアは目を丸くする。


「待つこと無いわ。勝手に食べてくればいいのよ」


アメリは焼き上がったパイを大皿に乗せると、リビングへ運んでいく。ソフィアはその後を追った。


テーブルの上には既にパンやサラダ、キッシュなど他の料理も用意されていた。


「お母様も料理の腕が上達しましたね」


席に着くとソフィアは言った。


「ええ、それはもう頑張ったもの。でもお料理って楽しいものね。存外、私に向いていたみたいだわ」


アメリは嬉しそうに笑みを浮かべる。

当主ムーアが詐欺に遭った為、使用人を解雇して屋敷を手放さなければならなくなったことが決定したのは今から2年前のことだった。

その時からアメリとソフィアは使用人達から掃除や洗濯、料理の作りかたを習ってきたのだ。


そして1年前にこの家に引っ越してからソフィアは仕事を探し始めた。

母に1人で家事を任せるのは気が引けたが、それでも家計を助ける為に、ソフィアは働かなくてはならなかったのだ。


「……お母様、ごめんなさい」


「あら? 何を謝るの?」


ミートパイを取り分けながら、アメリは首をかしげる。


「私が働いているばかりに、お母様一人に家事を任せてしまっていることです」


アメリは生まれながらの貴族、2年前まで家事などしたことが無かったのだ。


「何を言っているの? ソフィアは家計を助けるために働いてくれているのでしょう? 貴女は優秀だから、本当は女子大に通わせてあげたかったけれどそれも出来なくなってしまったし……私の方が申し訳ないと思っているのよ」


「お母様……」


「貴女には幸せになってもらいたいから、良い縁組があればと思ったけど……でも、あの人が持ってきた縁組だけは駄目よ! 噂によると、ゲイル・マッキンリー伯爵は愛人が何人もいるそうよ? 全員若い女性達らしいけど、そんな女癖が悪い男性の元へ嫁がせるものですか」


憤慨するアメリ。


「良い縁組……」


そのとき、ソフィアの脳裏にアダムの姿が浮かぶ。


(お相手がアダムさんだったらよかったのに……)


けれどソフィアはアダムについて何も知らない。知っているのは名前だけで、年齢もどんな仕事をしているのかも知らないのだ。

ソフィアの様に奥手で、真面目な女性が積極的に話をすることなど出来るはずも無かった。


「はい、ソフィア。お食べなさい」


アメリがミートパイの乗った皿を差し出した時。


「何だ? 2人とも、もう食事を始めていたのか? 私の帰りも待たずに」


不機嫌そうな様子でムーアが帰宅してきた。


「お父様、お帰りなさいませ」


「あら、あなた。お帰りになったのね」


笑顔で迎えるソフィアとは正反対に、アメリは不機嫌そうに返事をする。


ソフィアはもうアダムとはどうすることも出来ないので、父親が持ってきた縁談を進めて貰おうと覚悟を決めていた。

意を決したソフィアは父親に声をかけた。


「あの、お父様。昨夜の縁談の件なのですが……」


「ああ、あの話か」


ムーアは増々不機嫌になり、ネクタイを緩めると言った。


「あの話なら無くなってしまった。、ゲイル・マッキンリー伯爵が断りを入れてきたのだよ。代わりに別の男からお前に縁談話を持ち掛けられた」


「「え??」」


その話にソフィアとアメリは驚いた――

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