第53話 アダムの秘密 2
その後もソフィアは老婆と様々な話をした。
やがて周囲が薄暗くなり、老婆がアルコールランプに火を灯して窓の外を眺めた。
「あら? アダムさん帰ってきたみたいよ。部屋に灯りが灯されているから」
「え? 本当ですか!?」
ソフィアも席を立って窓の外を見ると、老婆の言う通り部屋に灯りが灯されている様子が見えた。
「あの、私アダムさんの所へ行ってきます。長い時間、お世話になりました」
「いいえ、気にしないで。また遊びに来てくれると嬉しいわ」
「はい、ありがとうございます。では失礼いたします!」
ソフィアは笑顔で挨拶すると、アダムの家に急いで向かった。
「アダムさん……」
ゴクリと息を飲むと、ソフィアはドアノッカーを掴むと叩いた。
—―コンコン
緊張する面持ちで待っていると、扉が開いた。
「はい、どちら様……えっ!?」
扉を開けたアダムは驚いた様子でソフィアを見つめる。
そしてソフィアも驚きで目を見開いた。
何故なら目の前に現れたアダムは、いつもとは様相が違っていたからだ。いつ前髪を上にあげて整えている髪が今は下ろされ、クシャリと乱れている。
ネクタイを外したラフな姿のアダムはソフィアが今まで見てきたアダムよりもずっと若く見えた。
「あの……」
ソフィアが何か口を開こうとしたとき。
「ソフィアッ! い、いや。ソフィアさん! 一体今までどこにいたのですか!? ずっと貴女を捜していたのですよ!?」
ガシッと両肩を掴まれるソフィア。
「アダムさん……」
すると、アダムが慌てた様子で肩から手を離した。
「あ、も……申し訳ございません。つい、うっかり……」
「いえ。大丈夫です」
「狭くて古い家ですが……中に入りますか?」
「はい、そうさせていただきます」
素直に返事をするソフィア。
ここへ来るまでの間、ソフィアはアダムが何を考えて懸賞金付きのポスターをあちこちに貼りだしたのかを問い詰めて文句を言うつもりだった。
だが老婆の話を聞いている内に、その考えは変わっていたのだ。
(アダムさんと、ちゃんと話す必要があるわ……)
前に立って歩くアダムの背中を見つめた――
****
案内された部屋は小さなリビングだった。
置かれている家具はどれも年季が入ったものだが、丁寧に使われていることが何となくソフィアには分かった。
「どうぞ、ソフィアさん」
「ありがとうございます」
椅子を引かれてソフィアは腰かけた。アダムは向かい側に座ると、早速ソフィアはポケットから小さくたたんだ自分の懸賞金ポスターを広げるとテーブルに乗せた。
その様子をアダムはじっと見ている。
「アダムさん。私が何故ここを訪ねたのか、もうお分かりですよね?」
「……ええ、ソフィアさんがこの家を訪ねてきた時から分かっていましたよ」
「何故、こんな懸賞金迄かけたポスターを作ってあちこちに貼りだしたのですか?」
「それは勿論、突然家を出て行ったソフィアさんを捜すためですよ。早急に貴女を捜さなければと思ったからです。ヴァイロン家からの大切な預かり物ですからね」
「え? 大切な預かり物……?」
するとアダムはじっとソフィアを見つめ、尋ねた。
「ソフィアさん、何故貴方はあの家を出てしまったのですか? 何か不満があったのですか?」
「え……?」
ソフィアはアダムの言葉に顔をこわばらせた——




