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第5話 父からの話

 ――11時


 仕入れの為に店を空けていたオーナーのドナが品物を抱えて戻ってきた。


「ただいま、ソフィア」


「お帰りなさい。オーナー」


商品整理をしていたソフィアが笑顔で返事をすると、ドナが心配そうに尋ねてきた。


「ねぇ、ソフィア。さっき通りでお客様に会って聞いたのだけど、またボビーが店に現れたのですって? しかも今日はいつも以上にしつこく絡まれたそうじゃない」


「そうなんです。今日は腕も掴まれてしまいました。でもちょうどアダムさんがお店に現れて、助けてくれたんです」


「まぁ、アダムさんが? それは良かったわね」


ドナは胸をなでおろす。


「はい。本当にあの方は頼りになります。二度も助けてもらいました」


アダムの話になり、ソフィアの顔に笑みが浮かぶ。


「でも今回は運よくアダムさんが現れてくれたから良かったけど……この先も心配よね。ボビーは、ほぼ毎日あなた目当てでお店に現れるでしょう? きっと今日は私が仕入れで店を空けているのを知っていて狙ってきたに違いないわ」


「そうかもしれませんね……」


普段のボビーはソフィアの腕を掴んでくることは無かった。それは常にドナの目が光っていたからだ。

この店はドナの居住も兼ねている。ソフィアに店番を頼んでいる間、ドナは店の奥にある自分の部屋に引っこんでいるのだ。

そこで帳簿の整理や、休息をとったりしている。


「困ったわね。明日も仕入れがあって数時間店を空けなければいけないのに」


「あ、それなら大丈夫です。アダムさんがボビーさんを撃退してくれたんです。そして二度と私に手は出さないと約束させてくれたんですよ?」


その話にドナは目を丸くして、詰め寄って来た。


「え? 何なの、その話は。もっと詳しく教えて頂戴」


「はい、いいですよ」


丁度お店に客がいないということもあり、ソフィアとドナは少しの間アダムの話で盛り上がるのだった——



****


—―18時過ぎ


仕事を終えた、ソフィアが帰宅してきた。


「お母様、ただいま帰りました」


「お帰りなさい、ソフィア」


母のアメリアが出迎えてくると、小声でソフィアに囁いた。


「お父様が、今日はもう帰ってきているのよ」


「え? そうなのですか?」


父、ムーアは現在知人が経営している印刷会社に雇われており、帰宅時間はいつも19時を過ぎていた。ソフィアより早く帰宅してきたことは今回が初めてだ。


「ええ。それで『ソフィアはまだ帰ってきていないのか』と言って苛立っているのよ」


「そうでしたか、ではすぐにお父様の所へ行ってきます。どちらにいらっしゃいますか?」


「書斎にいるわ。……大丈夫? ソフィア」


マリアはソフィアが働いてることが夫にバレるのを恐れていた。


「はい、私なら大丈夫ですから」


ソフィアは笑顔で返事をすると、父が待つ書斎へ向かった。

2階の一番日当たりの良い部屋——そこが父親の書斎だ。


部屋の前にやって来ると、早速ソフィアは扉をノックしながら声をかけた。


「お父様、ソフィアです」


『ソフィアか? 入りなさい』


「失礼します」


扉を開けて中に入ると、狭い部屋に置かれた無駄に大きい書斎机を前にムーアが座っていた。


「随分遅かったでは無いか、ソフィア。お前は若い独身貴族女性なのだぞ? 我々貴族は常に人々の目に晒されているということを忘れてはならぬ」


「はい、お父様」


落ちぶれた貴族など誰からも相手にされないのに、ムーアはまだ貴族社会にすがろうとしている。プライドだけは人一倍高かったのだ。


「まぁ、いい。今は説教する為に呼んだわけでは無いからな」


「そうなのですか?」


説教では無いと言う言葉に、ソフィアは少しだけ安心した。しかしムーアはとんでもない言葉を口にした。


「喜ぶがいい、ソフィアよ。お前の見合いが決まったぞ!」


「え? お見合い……?」


ソフィアの顔色が変わった——








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