第49話 かけられた懸賞金
掲示板は駅舎の前に立てられていた。
「あれがそうね」
少しドキドキしながら掲示板を見つめ……みるみる内にソフィアの顔が青ざめていく。
「え……? な、何これは……」
掲示板に貼られていたポスターは紛れもなく自分だった。
そっくりに……若干、美化されて描かれている自分の姿。その下には大きく文字が書かれていた。
『捜索願。ソフィア・ヴァイロン(19歳) この女性の居場所を見つけた方に懸賞金300万リラを差し上げます』
さらにポスターには連絡先のアドレスと電話番号が記されていたのだ。名前は……。
「ア、アダム……ジョンソン……。アダムさんだわ!」
(ど、どうしてアダムさんが私に懸賞金を懸けて捜しているの!? それに……ヴァイロンて……私達結婚したのじゃ無かったの?)
アダムが自分に懸賞金を懸けて捜していることもショックだったが、もっとショックだったのは、自分の名前がソフィア・ヴァイロンとなっていることだった。
少しの間、ソフィアは呆然とポスターを眺めていたが、我に返った。
(そうだわ! こんなことをしている場合じゃないわ!)
ソフィアは周囲をキョロキョロと見渡し、誰もこちらに注目していないことを確認すると素早くポスターを剥がした。クシャクシャと丸めてポケットに入れると、足早にその場を後にした——
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「オーナー、やっぱりこのポスター。私でした!」
ポスターを剥がしたソフィアはその足でオーナーの元へ戻り、クシャクシャに丸めたポスターをカウンターの上に広げた。
「まぁ! ソフィアさん、ポスターを剥がしてしまったの? でも……確かに、これはあなたに間違いなさそうね?」
アナは次に顔を上げてソフィアを見つめた。
「ソフィアさん。私は初めて貴女を見た時、何か訳ありではないかと思って、今迄聞かないでいたけれど……そろそろ貴女のことを教えてくれるかしら?」
「はい、分かりました。オーナー、私の話を聞いて下さい」
ソフィアは頷き、自分の置かれている事情を全て説明した。憧れの男性にプロポーズされて結婚したこと。新婚なのに別居婚であること、少々恥ずかしいものの夫婦の営みがまだ一度も無いこと。
そして……『君への気持ちが冷めた』と言われて耐え切れずに家出したこと。
それらを余すことなくすべて告白したのだった。
その間アナは黙って話を聞いていたが、全ての話を聞き終えると口を開いた。
「……事情は分かったわ。随分苦労したのね……お気の毒に。それでソフィアさん、貴女はこれからどうするつもりかしら?」
「私、ここに書かれている住所に行きます。私は今迄一度もアダムさんが住んでいる家を訪ねたことはありませんでした。自分で行って、どういうつもりで懸賞金をかけてまで私の行方を捜しているのか確かめてきます。どのみち、ここにまでポスターが貼られていると言うことは、この路線全ての駅に貼られているに違いありません」
「そうね、貴女が見つけられるのも時間の問題かもしれないわ。だったら誰かに見つけられる前に自分から名乗り出た方が良いかもしれないわね」
「ありがとうございます……」
目を潤ませるソフィア。
「ソフィア、それでいつ行くつもり? 店のことは気にしなくて良いわよ?」
「はい。明日の始発の汽車に乗るつもりです」
ソフィアは大きく頷いた——