第45話 ソフィアとドナ
—―翌朝
「やだ……酷い顔だわ……」
鏡の前に立つソフィアはため息をついた。
昨夜はあのまま泣きつかれて眠ってしまった。毎朝7時にセットしていた目覚まし時計の音で目が覚めたというわけだ。
鏡に映るソフィアの目は赤く腫れている。
「こんな顔、使用人の人達が見たら驚くわね」
泣きすぎて頭も痛かったがソフィアは気力を振り絞り、自室に備えてあるバスルームへ向かった……。
「ふぅ……さっぱりしたわ」
シャワーを浴び、着替えを済ませたソフィアは再び鏡を覗き込む。
そこにはいつもと変わらぬ自分の姿が映っているも……その顔には元気が無い。
『君への気持ちは冷めた』
脳裏に再び、アダムの言葉が蘇ってくる。
「……あんなことを言われて……私、この屋敷にいていいの……?」
ソフィアはポツリと寂しげに口にした——
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――この日
食欲が全く湧かなかったソフィアは部屋を訪ねてきたベスに、食欲が無いので食事はいらないと告げた。
ベスはその話に大層驚いたものの、何があったのかは聞いてくることは無かった。
そんなベスの心遣いに感謝をし、ソフィアは職場へ向かったのだった——
「おはようございます……」
ソフィアがスミス商店に到着すると、早速ドナが大きな声で尋ねてきた。
「おはようソフィア! 昨夜はどうだった……ってええ!? ど、どうしたの!?」
何とソフィアは大きな目に涙を浮かべて必死に泣くのを堪えていたのだ。
今迄ずっと泣きたい気持ちを押さえていたが、ドナの姿を見てとうとう理性のタガが外れてしまったのだ。
「ううぅうう……オ、オーナー……ウワァァアアアアアンッ!!」
ソフィアはドナの胸に顔をうずめると、とうとう子供の様に激しく泣き出してしまったのだった——
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扉に『臨時休業』の札がぶら下げられ、2人きりの店内でソフィアとドナは店の奥で話をしていた。
ソフィアは時折感情的に泣きながらも、昨夜の経緯を全てドナに説明した。
「うぐっ! そ、それで……わ、私……そ、そのままベッドでな、泣きながら眠ってしまったんで……ヒクッ! す……ウワアアアアアンッ!」
再び泣き出すソフィアの背中をドナは優しく撫でた。
「よしよし……可愛そうなソフィア。折角勇気を振り絞ったのに、そんなことを言われたら傷付くのは当然よ。それにしても、アダムさんは……いえ、あんな失礼な男はアダムでいいわ。さん付けする価値も無い最低な男ね! 自分の方からプロポーズしてきたくせに、質素な結婚式に新婚旅行も無し。挙句に別居婚、さらに夫婦の営みすら行わない。挙句に、な~にが『君への気持ちは冷めた』ですって? ふざんけんじゃないわよ!」
ドナが乱暴な口調で怒りを露わにする。
「オーナー……ウウッ……わ、私……これからどうすれば……グズッいいでしょうか……?」
『君への気持ちは冷めた』とまで言われた以上、ソフィアはあの屋敷にいるわけにはいかなかった。
かと言って、実家にも戻れない。まだ新婚の女性が嫁ぎ先から家に戻ることが世間でどれ程恥になるかを、ソフィアは知っているからだ。
両親……特に、母には恥ずかしい思いをさせたくなかった。
するとドナが言った。
「これから先のことね? そんなのはもう決まっているわ。家出をするのよソフィア!」
「い、家出っ!?」
ソフィアの涙が驚きで止まった——




