第43話 驚きの言葉
「アダムさん、お待ちしておりました!」
ソフィアは赤い顔で出迎えた。
「ソ、ソフィアさんっ!? 一体、何て格好をしているのですか!?」
出迎えたソフィアを目にしたアダムの顔が、彼女以上に真っ赤に染まる。
それもそのはず。今のソフィアはスリップドレス姿だったからだ。
これはドナが立ててくれた作戦だった。
別居婚を解消するには、アダムを誘惑するしかないと言われたのだ。けれど没落したとはいえ、元は貴族で初心なソフィア。誘惑するならどうすれば良いかと尋ねたところ、下着姿で待機していればいいと言われたのだが……。
恥ずかしさの方が、アダムを誘惑するよりも勝っていた。そこで苦手なアルコールの力を借りて、アダム誘惑作戦を実行することにしたのだ。
尤も前回の様に正体を無くしてはいけない。だから今回はアルコール度数低めのワインを飲んで、作戦を決行したのである。
「フフ? どうです? アダムさん、驚きましたか?」
ソフィアは赤い顔で直立不動のまま尋ねた。
「ええ。それはもちろん驚きましたが……もしかしてワインを召し上がっておられたのですか? しかも……そのようなお姿で?」
アダムはソフィアの素肌から視線を逸らせる。
「ええ、そうです。でも今日は暑いですね~。そこでつい暑くて服を脱いでしまったわけです」
「成程……暑くてねぇ……」
苦笑するアダムにソフィアは話を続ける。
「そんなことよりもアダムさん。今夜は大事なお話があるのです。こちらで一緒に座ってワインを飲みませんか? おつまみならありますから」
テーブルの上には、チーズやカナッペ、それにマリネやローストビーフなどが乗っている。
勿論、飲みかけのワインも。
「そうですか……でもその前に、まずはその姿を何とかした方が良いですね。今のままでは風邪を引いてしまいます」
アダムはクローゼットからガウンを持ってくると、ソフィアの肩にかけた。
「これで良いでしょう」
「あ、ありがとうございます……」
俯き、お礼を述べるソフィア。
「いえ、どういたしまして」
アダムはいつもと同じで紳士的な態度を崩さない。
(何? どういうこと? こんな作戦では駄目だったということかしら……? こ、こうなったら恥ずかしいけど直に言うしか無いわ!)
名実ともに、今夜本当の夫婦になりましょうと告げるつもりだったのだ。
「アダムさん、お話があります!」
「はい、私も丁度ソフィアさんにお話があります」
「そうなのですか? ではアダムさんから先にお願いします」
「本当に私の方から先に申し上げても良いのですか?」
アダムが首を傾げる。
「はい、勿論です」
実はソフィアは期待していたのだ。もしかすると、アダムの方から『今夜は貴女と過ごします』という言葉が出てくるのを。
しかし……アダムの口から出てきたのは耳を疑う台詞だった。
「では、言わせていただきます。ソフィアさん、君への気持ちは冷めたのですよ。なので、今後一切こういう真似はしないでいただきたいのです。私がこちらに来るのが遅くなるときは、食事は先に召し上がってください」
「え……?」
ソフィアの顔から血の気が引いていった――




