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第40話 相談

 ソフィアとアダムが結婚して、早いもので一カ月が経過していた。


その間。

アダムはいつも夕方にふらりと現れてソフィアと共に夕食を取ったり、時には食事をせずに帰っていったりと、まちまちだった。

毎週末は朝からアダムがソフィアの元を訪れていた。そして2人でドライブをしたり、音楽鑑賞や美術鑑賞などの様々なデートを楽しんだ。


別居婚とはいえ、アダムは毎日ソフィアの元に通うことを欠かさなかったのだ。

アダムはとても優しく、ソフィアの欲しい物は何でも買い与えてくれた。

何一つ不自由の無い暮らし。

お金の心配も無く、夫は紳士的。ソフィアは今の生活に満足していた。


たった一つのことを除いては—―



****



「新婚生活はどう? ソフィアさん」


いつものようにスミス商店で仕事をしていると、オーナーのドナが尋ねてきた。


「え? そ、そうですね。順調で、とても幸せです」


ドキドキしながら返事をすると、ドナは頷く。


「それはそうよね。聞くだけ野暮だったわね。何しろ夫はこの町一番のお金持ちで、名誉市民でもあるアダム・ジョンソン氏なのだから」


「名誉市民……」


(アダムさんて、名誉市民だったの?)


それすらソフィアは知らないことだった。夫婦だと言うのに、アダムは謎だらけの人物だったのだ。

彼に聞きたいことは山ほどあったものの、ソフィアは何一つ尋ねることが出来なかった。それは、やはり未だにアダムは自分にとって他人も同然の仲だったからだ。

アダムのことが好きなソフィアは、彼に疎まれるような存在になりたくない為に言いたいことは全て飲みこんできたのだった。


「でも本当にソフィアさんには悪いことをしていると思っているの。もう働く必要は無いのに、こうして私の店で仕事をしてくれているのだから。しかも10時から17時まで、週5日間も。ごめんなさいね。どうしてもソフィアさんの様に気が利く人が見つからなくて。それにお客さん達もソフィアさんが働くときは来店人数が多いのよ。本当は早く次の人を見つけなければいけないのだけど」


ドナがため息をつく。


「私は大丈夫ですから気にしないで下さい。働くのは好きですし、その……家にいてもすることが無いですから」


アダムと結婚するまでは、働きながら母の家事仕事を手伝っていた。

食事の用意や後片付け、洗濯……忙しいけれども充実していた。


アダムと結婚したことで、両親の生活も変わった。アダムはソフィアの両親の為に郊外に大きな家を購入し、家政婦も用意してくれたのだ。

そのお陰で母は家事から解放され、今は又落ちぶれる前の生活に戻っている。

読書をしたり、刺繍や編み物。それに庭の手入れなどをして過ごしている。


(本当にアダムさんには感謝しているけど……)


だがソフィアは今の生活が不安であり、寂しかった。それは、やはりアダムとの結婚生活が自分の思い描いていた物とは、大きくかけ離れていたからであった。


「はぁ……」


思わずため息をつくと、すかさずドナが反応して距離を詰めてきた。


「あら? 今のため息、どうしちゃったのかしら? お姉さんに相談してごらんなさい?」


「オーナー……」


実はソフィアは自分とアダムが別居婚をしていることを周囲の誰にも告げていないのだ。知っているのは屋敷の使用人達だけ。当然両親もその事を知らない。

もし、本当のことを知られればきっと悲しむに違いない。


「ソフィア、新婚なのにため息をつくなんて、やっぱりおかしいわ。悩みがあるなら相談して? あなたが心配なのよ」


真剣な瞳で見つめるドナ。


「分かりました……。オーナー、聞いていただけますか?」


ソフィアはついに、別居婚の話をすることにした――



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