第37話 酔いと二日酔い
ここは自分が今住む家、まるで貸し切りの高級レストランにいるかのようなムードでの食事に上等なワイン。
それらの相乗効果もあり、食事が終わる頃にはすっかりソフィアはほろ酔い気分になっていた。
「……ヒック」
椅子に座り、ワインを飲みながらしゃっくりをするソフィアにアダムは心配になって話しかける。
「あの~……ソフィアさん、大丈夫ですか? もしかして酔ってしまわれましたか?」
「はひ? 大丈夫れすよ? 私はこう見えても、全然酔ってはおりましぇんから」
赤い顔でフラフラしながら笑顔で返事をするソフィア。
「……どうやら、大分酔われてしまったようですね? お部屋に戻った方が良いでしょう。お部屋までお連れいたしますよ」
苦笑しながらアダムは席を立った。
「えぇ~もう……お部屋に戻るんれすかぁ? もうひょっとだけ、ワインを飲みたいんれすけれろも……」
「いいえ、もうこの辺りにしておきましょう。先ほどよりも大分ろれつが回らなくなっておりますから」
「ええ~しょんなぁ……もう飲んれはらめれすか?」
ソフィアは自分でしっかり受け答えしているつもりだった。
赤い顔でユラユラ揺れながら唇を尖らせる。
「ハハハ……本当にソフィアさんは可愛らしい方ですね。肩を貸しますので、お部屋に戻りましょう」
「え? 一緒にもろっれくれるんれすか?」
ソフィアの目が見開かれる。
「はい、そうです。一緒に戻りましょう」
「アダムさんが一緒なら、お部屋にもろりますぅ~」
笑みを浮かべてガタンと席を立ったところで、ソフィアの身体がグラリと揺れる。
「危ない!」
アダムに支えられ、胸に倒れこむソフィア。すると……。
「フフ。アダムしゃんの香りがする……いい香り……」
そのままソフィアはアダムの胸に顔を押し付け……眠ってしまった。
「……ソフィアさん……」
アダムはソフィアをギュッと抱きしめ、その髪に顔をうずめた――
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――翌朝
「う……」
ソフィアは朝から二日酔いでベッドに寝込んでいた。ズキズキする片頭痛でベッドから起き上がることすらできない。
「うぅ……頭が痛いわ……私……一体どうしてしまったのかしら……?」
昨夜はアダムと2人きりで豪華な食事をしながら、美味しいワインを飲んだ。
ワインを1本空けたところまでは覚えているものの、そこから先の記憶が無い。
その時。
――コンコン
『奥様、失礼致します』
ノック音の後に言葉が続き、専属メイドのベラが飲み物の入ったトレーを持って現れた。
「奥様、お加減はいかがですか? 酔い覚ましにトマトジュースをお持ちしました」
「あ、ありがとうございます……」
ズキズキする頭を抱えながら、ソフィアは起き上がるとベラからグラスを受け取ってトマトジュースを飲んだ。
「……いかがですか?」
「ありがとうございます……とてもおいしかったです……」
再びピロウに頭を乗せるとベラに尋ねた。
「あの……私、昨夜はどうやって部屋に戻ったのでしょうか?」
「はい、旦那様に抱き上げられて部屋に戻られましたよ?」
その言葉に仰天するソフィア。
「え!? アダムさんに!?」
「はい、そうです。旦那様は奥様をベッドに寝かせると私たちによろしく頼むと告げて、ご自宅へ帰られました」
「そう……アダムさんは……行ってしまったのね」
それが無性に寂しかった。
「奥様。本日はどうぞごゆっくりお休みくださいませ。スミス商店には私の方から連絡を入れておきますので」
実は、結婚後もソフィアは、オーナーのドナに懇願され、スミス商店で仕事をすることになっていたのだ。
「ありがとうございます。オーナーによろしく伝えておいてください」
「かしこまりました」
ドナは会釈すると部屋を出て行った。
――パタン
扉が閉じられ、1人になるとソフィアはため息をついた。
「……アダムさん……こんな時こそ、傍にいて欲しいのに……」
ソフィアは何も知らない。
昨夜、酔いのせいでアダムの前で失態を晒してしまったと言うことに――




