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第33話 アダム不在の屋敷

「あの! 私とアダムさんは……神父さんの前で式を挙げて、夫婦の誓いも立てました。それなのに一緒に暮らせないと言うことですか!?」


ベスの話している意味が良く理解できず、興奮気味に尋ねるソフィア。


「いえ、一緒に暮らせないのではなく……一緒に暮らさないと言うことです……」


「そ、そんな……どうして……?」


「申し訳ございません。理由までは分かりません。実は私を含め、このお屋敷に勤める使用人全員が半月ほど前に雇用されたばかりなのです。詳しい事情を知っているのは、先程奥様をここへ連れて来られた執事のノーマン様だけです」


「ノーマンさんが……?」


(それでは、あの人は最初から私とアダムさんが一緒に暮らさないのを知っていたということなの……? 知っていたうえで、この屋敷へ連れてきた……?)


ソフィアの顔から血の気が引いていく。

事情を聞きたいが、ノーマンはとっくにこの屋敷を去っているのでどうしようもない。


「あの……奥様。大丈夫ですか?」


小刻みに震えるソフィアを心配してベスが声をかける。しかし、ソフィアは返事をすることなく身を翻して部屋を飛び出そうとしたとき。


「奥様!? どちらへ行かれるのですか!? お待ちください!」


ベスが慌てて声をかけてソフィアを引き止めた。


「アダムさんに事情を聞きに行かなければならないんです! 止めないで下さい!」


「落ち着いて下さい、奥様! アダム様がどちらにいらっしゃるのか御存知なのですか? 第一、そのお姿で出掛けられるのですか!?」


「え……?」


ベスに指摘され、ソフィアは未だに自分がウェディングドレス姿だったことに気付く。

それどころか今更ながら、アダムが何処に住んでいるのかさえ知らないことを思い出したのだ。


(そうだわ……アダムさんと会うのは、いつも外だったから……私、彼が何処に住んでいるのかも未だに知らなかったのだわ……)


アダムの両親は随分前に亡くなっていることもあり、挨拶する為、自宅に行くこともない。

出来れば結婚前に一度位アダムの家を訪ねてみたかったのだが彼からの誘いは無かった。

ソフィアは自分の口から、家に行ってみたいとは遠慮があって言えなかったのだ。


「……」


言葉を失い、すっかり気落ちしてしまったソフィアにベスは優しく声をかけた。


「奥様。お手伝いいたしますので、まずはお着換えをなさりませんか? クローゼットには色々と奥様用のドレスがご用意してありますから」


「私のドレスが……?」


「はい、そうです。本日は結婚式もあって、さぞやお疲れのことと思います。まずは ドレスを着替えて、一息つかれてはいかがでしょうか?」


「ドレスを着替えて……」


ベスの言葉を復唱するソフィア。


(そうよね……。もう結婚式も終わっている。いつまでもウェディングドレス姿のままでいると、確かにおかしいかもしれないわ)


「では、着替えを手伝っていただけますか?」


「ええ、勿論です。ではこちらへいらして下さい」


ベスはソフィアをクローゼットの前に連れてくると、扉を開けた。すると、何十着ものドレスが吊り下げられている。


「え!? このドレスは何ですか!?」


クローゼットの中身はソフィアの知らないドレスばかりだった。どれも一見するだけで、高級な物だと分かる物ばかりだ。


「こちらのドレスは全て奥様の為に旦那様が用意された物ばかりです。どうぞお好きなドレスをお選びください」


「アダムさんが選んでくれたのですか? でも私のドレスサイズなんて……」


「ご主人様のお話によれば、ウェディングドレスを作ったお店で発注されたそうです。どのドレスもデザイナーの方が選んで下さったそうですよ?」


「え? そうなのですか?」


「はい、奥様へのサプライズと仰っておられました」


「サプライズ……」


(もう十分アダムさんには驚かされているけれども、こういうサプライズは嬉しいわ……)


アダムの気持ちが嬉しくて、先程まで不安だった気持ちが徐々に晴れていく。


「では……こちらのドレスを着たいのですけど、お手伝いお願い出来ますか?」


ソフィアは恥ずかしそうに、1着のドレスを手に取った――





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