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第3話 迷惑な客

 突然店内に大きな声が響き渡り、ボビーは驚いてソフィアの手を離して振り返った。


「いきなり大きな声を出すなよ! この俺が誰だと思って……る……」


途中まで文句を言いかけたボビーの言葉がしりすぼみになる。何故なら目の前に現れた人物が自分の頭一つ分は背の高い青年だったからだ。

栗毛色の髪に、グレイの瞳。

彫が深く、整った顔立ちの青年は仕立ての良いスリーピースのスーツを着用している。


「あ、いらっしゃいませ。アダムさん」


ソフィアはサッと手を引っこめると、紳士に笑顔で挨拶する。彼もこの店の常連なのだが、ボビーと顔を合わせるのは初めてだった。


「どうも」


アダムと呼ばれた紳士は短く返事をすると、再びボビーを鋭い目つきで睨みつけた。


「な、な、何なんだよ……お前は。俺が誰だか知っていて、そんな態度を取るのかよ……気障」


ボビーには相手がブランド物のスーツを着ていることに気付いていなかった。


「さぁな。お前こそ何者だ? 彼女が嫌がっているのが分からないのか? ここは雑貨屋で、お前が求めているような店ではない。そんなことも知らずにここへ来たのか?」


「な、何だと! 貴様っ! よくもこの俺にそんな口を叩けるな! 後悔させてやる!」


我儘に育てられたボビーは、この商店街では自分の要求は何でも通ると思い込んでいた。ボビーは拳を握りしめると、いきなりアダムに殴りかかった。


「キャアッ! アダムさん!」


ソフィアが叫ぶ。

アダムは殴りかかってきたボビーを軽々避けると、彼の右腕を掴んでねじり上げた。


「ひぃっ! い、痛いっ!! 離せ!」


余程痛いのか、ボビーの口から悲鳴が洩れる。


「もう二度と彼女に手を出さないと約束するなら放してやる」


「な、何でお前にそんなこと誓わなければならない……い、痛い! やめてくれ! ギャアッ!」


「どうだ? 誓うか?」


アダムは腕をねじ上げることをやめようとはしない。他の客たちは遠巻きにこの様子を眺めている。

被害者であるソフィアも流石にこれ以上は見ていられなかった。


「あ、あのアダムさん。もうこの辺で、終わりにしませんか?」


「ですが、この男からまだ約束の言葉を貰っていません」


するとボビーが半泣きになって叫んだ。


「わ、分かりました! もう二度と彼女に手は出しません! 誓います! だ、だから腕を放して下さい!」


この言葉に、ようやくアダムはボビーの腕を振り払った。


「ぐっ!」


勢いで床に倒れるボビー。


「今の言葉……絶対に忘れるなよ」


床に倒れたアダムはボビーを鋭い目つきで見下ろす。


「う……ち、畜生ーっ!」


ボビーは立ち上がると、情けない声を上げながら店を飛び出して行った。


「あ、あの……助けて頂き、どうもありがとうごさいました。正直、あのお客様には困っていたので……」


ボビーが出て行く様子を眺めているアダムに、ソフィアは躊躇いがちに声をかけた。


「いつもあんな目に遭われていたのですか?」


アダムは静かな声で尋ねる。


「いつもという訳ではありませんけど……でも今日は少し、困っていたので助かりました」


「そうでしたか……」


じっと見つめるアダムの視線が気恥ずかしくなり、ソフィアは話題を変えた。


「あ、あの今日も新聞をお買い求めにいらしたのですよね?」


「ええ。デイリー新聞とビジネス新聞を下さい」


ソフィアは棚から2種類の新聞を取り出すとカウンターに置いた。


「では300リラになります」


アダムは300リラを支払うと、新聞を受け取った。


「どうも」


アダムは軽く会釈し、店を出る寸前に振り返った。


「ソフィアさん」


「は、はい!」


「いえ、何でもありません。では失礼」


それだけ言い残すとアダムは店を出て行った。


「アダムさん……」


アダムが出て行くと、ソフィアは彼の名前を口にし……頬を染めた——





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