第27話 結婚前夜
それからまた時が流れ、ソフィアのウェディングドレスが仕上がった。
アダムはすぐに式を挙げる教会を予約し、花屋にブライダルブーケを届けてもらう日程も伝えた。
結婚式の手続きには必ずソフィアも同行し、デートも重ねていたのだが……それでもソフィアの不安は尽きなかった。
何故ならソフィアは一度たりともアダムの家に招待されたことが無かったからだ。
けれど自分の方から家に招いて欲しいなど言えるはずもなく、不安な気持ちのまま結婚式前日を迎えてしまった――
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今夜もソフィアはアダムとデートをしていた。
ムードのあるレストランで2人は向かい合わせで食事をしているが、ソフィアの表情は暗い。
チラリとアダムを見れば、上品な手つきで肉を切り分けて口にしている。
(私は明日から結婚生活を送るのが不安でならないのに、アダムさんは全然平気なのね……)
別にアダムがソフィアに冷たくしているわけではない。
毎日『スミス商店』に来店して会話を交わしているし、週に3回はこうしてデートをしている。
しかしソフィアの不安が解消されることは無い。
それはアダムが謎に包まれていることが多く、時々何を考えているのか分からなくなるからであった。
現に今もアダムが何を考えているのかソフィアには、さっぱり分からない。
(アダムさんのことは好き。だけどこんな不安定な気持ちで、結婚していいのかしら……)
思い悩んでいる時。
「ソフィアさん」
不意にアダムが声をかけてきた。
「は、はい! アダムさん」
背筋を正して返事をする。
「いよいよ明日、私たちの結婚式ですね」
「そ、そうですね……」
「ようやくソフィアさんと夫婦になれるのだと思うと嬉しくてたまらないですよ」
アダムが笑顔を向けてくる。
「え? 嬉しい……?」
「はい、とても嬉しいです。この日が来るのをどれ程待ち望んでいたことか。ようやく自分の手でソフィアさんを幸せにして差し上げることが出来るのですから」
「ア、アダムさん……」
まさかそんな風に言って貰えるとは思わず、ソフィアの目に嬉し涙が浮かぶ。
「どうしたのですか? ソフィアさん。まさか……泣いているのですか?」
いつも表情を崩すことの無いアダムの顔に戸惑いが浮かぶ。
「は、はい。いよいよ明日……結婚式を挙げるのだと思うと、つい涙が……すみません」
「ソフィアさん……安心してください。何も不安に思うことはありません。どうか私を信じて下さい」
アダムはじっとソフィアの目を見つめる。
「はい、私。アダムさんを信じます」
「ありがとうございます。せっかくの料理です。冷めないうちにいただきましょう」
「そうですね」
アダムの言葉で、ソフィアは不安な気持ちが無くなり食欲が出てきた。
切り分けた肉を口に入れ、顔をほころばす。
「アダムさん、ここのお料理はどれも素晴らしいですね」
「気にいっていただけて良かったです。結婚した後も、時々はお誘いしますよ」
「はい、ありがとうございます」
その後もソフィアはアダムと笑顔で食事を続け……独身最後のデートを楽しむのだった。
そして、いよいよ結婚式を迎える――