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第26話 唐突過ぎる話

 店へ入ると外で売られているよりもさらに多くの花々が売られていた。


色とりどりの花と良い香り……ソフィアはうっとりと呟いた。


「お花屋さんて、やっぱり素敵だわ……」


そのとき。


「いらっしゃいませ、あ! アダムさん! 来てくれたんですね!?」


店内に大きな声が響き、カウンターから栗毛色の髪をお下げに結った若い女性が駆けつけてきた。


「やぁ、こんにちは。デイジー、元気にしていたかい?」


「ええ、勿論です。来てくれて嬉しいです。ありがとうございます」


「そう言って貰えると、こちらも嬉しいよ」


アダムは満面の笑みを浮かべ、デイジーと呼んだ女性の頭を優しく撫でる。その姿を見てソフィアは愕然とした。


(え? 今のアダムさんの笑顔は何? 私には一度だってあんな笑顔を見せてくれたことは無かったわ。それに一度も頭を撫でてくれたことも無いのに……)


すると、デイジーと呼ばれた女性店員がソフィアに気付いた。


「あ! もう1人お客様がいらしたのですね? いらっしゃいませ」


デイジーは慌ててソフィアに謝罪すると、アダムが説明する。


「いや、彼女は私の連れだよ。ソフィア・ヴァイロン。子爵家の御令嬢だ」


「え!? 子爵家の方だったのですか!? こ、これは大変失礼いたしました!」


真っ赤な顔で謝罪するデイジー。


「いえ、私は子爵家と言っても……今は……」


するとアダムが口を開いた。


「デイジー。実は私と彼女は来月結婚することになったのだよ。そこで彼女にとびきりのウェディングブーケを送りたいと思っている。君のセンスの良さで、ウェディングブーケを作って貰えないか?」


「「え!? 来月!?」」


デイジーとソフィアが同時に声を上げた。


「何を驚いているのです? ソフィアさん」


アダムが首を傾げてソフィアを見つめる。


「い、いえ。あの……来月結婚なんて……」


その時、デイジーがじっと自分を見つめていることに気付いて口を閉ざした。


(いけないわ……お花屋さんに私が自分の結婚する日取りを知らないのは、おかしいと思われてしまうわ)


少なくともソフィアの目には、デイジーとアダムの方が自分よりもずっと親しい関係にあるように見えた。


(ひょっとしてデイジーさんは、アダムさんのことを……)


そう思うと、「来月結婚なんて初耳です」とは言えなくなってしまったのだ。

突然黙ってしまったソフィアを見てアダムが尋ねてきた。


「ソフィアさん、先程何か言いかけましたよね? どうかしたのですか?」


「はい。来月結婚なんて、夢の様に幸せですと言おうとしていました」


ソフィアは咄嗟に出まかせを口にしたが、アダムの口元に笑みが浮かぶ。


「そんな風に思っていただけると、私も嬉しいです。というわけで、デイジー。ソフィアさんに良く似合う花で、ウェディングブーケを作ってくれ。正式に日取りが決まったらまた連絡しよう」


「分かりました。ではソフィアさんの為に頑張ってウェディングブーケを作らせていただきます!」


「ああ、よろしく頼むよ。では参りましょう? ソフィアさん」


「はい、アダムさん」



デイジーに見送られて2人は花屋を出ると、ソフィアは早速アダムに尋ねた。


「あの、アダムさん。結婚式が来月というのは……?」


いきなり何の相談も無く、結婚式の日取りを来月と言い切るアダムにどうしても尋ねたくなってしまった。


「それは、ソフィアさんのウェディングドレスが3週間後の予定で出来上がるからですよ。オーダーメイドで完成が数カ月先だったなら、当然式も数か月後になるところでしたが……」


そこでアダムはソフィアを正面から見つめる。


「2人の結婚式を早めに挙げることが出来るのはソフィアさんのお陰です。ありがとうございます。私は一刻も早くソフィアさんと結婚したかったので」


「ア、アダムさん……」


アダムの言葉にソフィアの顔が赤らむ。


「それでは少し遅くなりましたが、食事に行きましょうか?」


「はい、アダムさん」


その後――


遅めの食事をとり終え、ソフィアは辻馬車乗り場までアダムに見送ってもらった。



「ソフィアさん。本日も私にお付き合いただきまして、ありがとうございます」


馬車に乗り込んだアダムはソフィアに礼を述べた。


「いえ、こちらこそありがとうございます。それで……あの、アダムさん」


「はい、何でしょうか?」


「私の家に……一緒に行かないのでしょうか?」


出来ればアダムを連れて家に帰り、もう少し一緒に過ごしたいとソフィアは考えていた。

しかし、アダムは首を振る。


「いえ、いきなり私が御自宅を訪ねれば、ソフィアさんのお母様にご迷惑をおかけしてしまいますから」


「アダムさん……」


(そんなこと気にしなくていいのに……でも彼は私よりもずっと年上の男性だから従った方がいいわね)


そこでソフィアは素直に頷くことにした。


「分かりました。では両親に本日のことは報告しておきますね?」


「はい、お願いします」



こうして今日もソフィアは1人、辻馬車に揺らて帰路につくのだった。


デイジーという女性とは、どのような関係ですか? と尋ねることも出来ぬまま――





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