第23話 結婚式は?
そこから先の話はあっという間だった。
アダムの両親は既に他界していたため、ソフィアの両親を交えて4人での話し合いが行われた。そこで改めて2人の結婚がムーアとアメリに認められたのだった――
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それは2人が結婚指輪を作った半月後のことだった。
「ええっ!? 結婚式は挙げないのですか!?」
紅茶を飲んでいたソフィアが驚きの声を上げる。
今日はソフィアの仕事が休みの日で、朝からアダムに誘われてカフェに来ていた。
そこで結婚の日取りについて、話をしていたのだが……。
「落ち着いて下さい、ソフィアさん。何も私は結婚式を挙げないとは申し上げておりません」
珈琲を飲みながら冷静に話すアダム。
「で、でも……今、アダムさんは仰ったじゃありませんか。結婚式の招待状は誰にも送る必要はないって。それって結婚式は挙げないということですよね?」
ティーカップを持つソフィアの手が震える。
「確かにそう言いましたが、それは人を招く結婚式は挙げないと言う意味です」
「え……? 一体どういうことなのでしょうか……?」
「はい。結婚式は内々で済ませるということです。2人の式を挙げる教会はもう手配済みです。式に参加されるのはソフィアさんのご両親と……そうですね、『スミス商店』のオーナーを招きましょう」
「そ、そんな……」
ソフィアには夢があった。
結婚式には真っ白なドレス姿で大勢の参列者に祝福されて、神父の前で永遠の愛を誓う……。
だが、自分は持参金を用意出来ないままアダムに嫁ぐ身。とてもではないが自分の要望を伝えること等出来るはずも無い。
(私は……それらの夢を諦めないとならないのね……でも、好きな人と結婚できるのだから……我慢しなくちゃ……)
父親が最初に持ってきた縁談と比較すれば、アダムとの結婚がどれ程恵まれているのかは良く分かっている。贅沢を言ってはいけないのだと頭では分かっているのだが……。
ソフィアの顔から血の気が引き、異変に気付いたアダムが声をかけてきた。
「ソフィアさん? どうかしましたか? 何だか顔色が優れないようですよ?」
「あ、あの。ち、父は……それで構わないと言ったのでしょうか?」
(世間体を気にするお父様なら、きっと反対するはずだわ)
淡い期待を抱きながら尋ねるソフィア。
しかしアダムの口から出てきたのは期待外れの言葉だった。
「はい、勿論ムーア氏も承諾しております。その……言いにくい話ではありますが、『我々は貴族社会から見放されたので、誰も式に呼んでも来ないだろう』とムーア氏は仰っておりました」
ソフィアの肩がピクリと動く。
(そうだわ。考えてみればお父様の言う通りだわ。私たちは落ちぶれて、貴族社会から相手にされなくなってしまった。招待状を送っても見向きもされなかったら、私が傷付くと思って、誰も呼ばないことにしたのね……)
2人は自分の為に良かれと思って決めたのだと無理に自分自身に言い聞かせるも、ついソフィアは呟いてしまった。
「それでは……ウェディングドレスも着れないということ……?」
「え? ウェディングドレス?」
怪訝そうなアダムの声に、我に返った。
(やだ! 私ったら……つい……!)
「す、すみません! 今のは何でもありません。 そう……独り言です。どうか聞かなかったことにしてください」
慌ててソフィアは頭を下げる。
するとアダムは笑顔になった。
「ウェディングドレスのことですか? それならご安心下さい。もう既に一流デザイナーに依頼してあります。実は11時にその店に予約を入れてあるのです。そろそろ時間になりますから、今から一緒に参りましょう」
「え……ええっ!?」
その言葉に驚くソフィア。そして思った。
アダムが一体何を考えているのか分からない――と。




