第21話 混乱するソフィア
アダムが去り、店内はソフィア一人きりになった。
「え……? な、何。今のは……。私、アダムさんから食事の誘いを受けなかったのよね? 忙しいからという理由で……しかもその理由は私との結婚準備が忙しいから……なのよね?」
もはやソフィアは自分が悲しむべきなのか、喜ぶべきなのか分からなくなってきた。
(アダムさん……一体、何を考えているの……?)
――この日
ソフィアはアダムのことで頭の中が一杯で上の空になり、何度も客から声をかけられることになるのだった――
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17時、ソフィアの退勤時間。
「オーナー、それではお先に失礼いたします……」
エプロンを外したソフィアはドナに挨拶をした。
「え、ええ。お疲れ様……ねぇ、ソフィア。大丈夫なの?」
「え? 何のことですか?」
「私が商談から戻ってきてから何だか調子が悪そうじゃない。出勤してきたときは、あんなに元気だったのに」
ソフィアのことが気がかりだったが、聞くに聞けなくて今までずっとドナは、もやもやしていたのだ。
「私なら大丈夫です。心配していただき、ありがとうございます」
「そう……? ねぇ、アダムさんとは一緒に食事が出来たのかしら?」
「え!?」
アダムの名前を聞かされ、ソフィアの肩がビクリと跳ねる。その様子で、この話に触れてはいけないことをドナは瞬時に悟った。
「あ……い、今のは忘れてちょうだい。明日は定休日だからゆっくり休んでちょうだい」
「はい。では失礼いたします」
ソフィアは会釈すると、ふらつく足取りで店を後にした。
「……ふぅ」
店から出た直後、突然ソフィアは背後から名前を呼ばれた。
「ソフィアさん」
「え? キャアッ!!」
名前を呼ばれて、振り返ったソフィアは思わず悲鳴を上げてしまった。なんと、声をかけた人物はアダムだったのだ。
「あ、申し訳ございません。ソフィアさん、驚かせてしまいましたか?」
アダムはすまなそうに目を伏せる。
「す、少しだけ驚いただけですから大丈夫ですよ。どうかお気になさらないで下さい」
ドキドキする胸を押さえながら、ソフィアは笑みを浮かべた。
「それなら良かった。ソフィアさん、今から私と出掛けませんか?」
「え……? 出掛ける……?」
「はい、そうです。実は一緒に探していただきたいものがありまして。お願い出来ないでしょうか?」
「一緒に探す? もしかして飼っていた犬でもいなくなってしまったのでしょうか?」
アダムが犬を飼育している話は聞いたことが無いが、ソフィアは咄嗟に探し物は犬では無いかと思った。
「いえ、私は犬は飼っていませんが……ひょっとして犬がお好きですか?」
「そうですね、犬は好きです。飼ったことはありませんが……え? 探しているのは犬では無いのですか?」
「違います。ちなみにペットは飼育しておりません」
おおまじめに頷くアダム。
「では何を一緒に探すのでしょうか?」
「私とソフィアさんの結婚指輪です。その後は夕食を御一緒しませんか? もう御両親には許可をいただいておりますので」
「え……ええーっ!?」
ソフィアの大きな声が、夕暮れの町に響き渡った――




