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第14話 アダム 1

――翌日


ソフィアはウキウキした気持ちで出勤してきた。勿論、昨日同様に薄化粧をしてくるのも忘れずに。


「おはようございます。オーナー!」


いつにも増して、元気よく店内に入ったソフィアをドナは出迎えた。


「おはよう、ソフィア。一体今朝はどうしたの? 随分元気がいいわね」


「ええ。昨夜良いことがあったものですから」


上機嫌で返事をすると、ソフィアはカウンターに入って早速エプロンを身に着ける。


「そうなのね? 良かったわ。実は昨日あなたのことがずっと気になっていたのよ。随分気落ちした様子で退勤していったから。でも元気になって良かったわ。あなたはこの店の看板娘だからね。頼りにしているのよ?」


「看板娘……? 私がですか?」


「ええ、あなたのことよ」


「本当ですか? ありがとうございます。私、お仕事頑張りますね」


看板娘という言葉に憧れを抱いていたソフィアは笑顔で返事をする。


「それじゃ、お店番よろしくね。私は食事をしてくるから」


「はい、オーナー。どうぞごゆっくりしてください。あ、いらっしゃいませー」


早速店に客が現れ、ソフィアは元気よく接客を始めた……。



ボーンボーンボーン


店の時計が9時を告げる鐘がなったとき。


――カランカラン


「いらっしゃいま……」


ドアベルが鳴ったのでソフィアは笑顔で声をかけ……途中で声が詰まる。

何故なら現れたのはアダムだったからだ。


(アダムさん……!)


アダムは周囲を見渡して誰も店内にいないことを確認すると、真っすぐソフィアの元へ近づいてきた。


「い、いらっしゃいませ」


ドキドキ高鳴る心臓を押さえながらソフィアはぎこちない笑顔を見せる。


「ソフィアさん」


「は、はい!」


今迄一度も名前を呼ばれたことが無いソフィアは上ずった声で返事をする。


「デイリー新聞とビジネス新聞を下さい」


「え?」


余りにも普通に新聞を購入しようとしているアダムに、ソフィアは一瞬固まってしまった。


「……どうかしましたか?」


アダムが首をかしげる。


「い、いえ。申し訳ございません。デイリー新聞とビジネス新聞ですね? 少々お待ちください」


ソフィアは棚から新聞を選びながら、頭の中でパニックを起こしていた。


(何? どういうことなの? もしかして昨日家にオレンジの花束を持ってきてくれた方は、今目の前にいるアダムさんではなくて他のアダムさんだったの? でも私にはアダムさんと言えば、そこにいるアダムさんしか知らないわ……アダムさんは偶然オレンジの花束を買っていただけだったの……?)


脳内でアダムの名前を連呼しながら、ソフィアは接客を続ける。


「お、お待たせいたしました。デイリー新聞とビジネス新聞ですね? お包みしますか?」


今迄一度も包んだことなど無いが、混乱しているソフィアはそのことに気付いていない。


「いいえ、包まなくて結構です。300リラですね」


アダムはポケットから財布を取り出すと紙幣を置いた。


「あ、お釣りですね? 少々お待ちくだ……」


紙幣を手にした時、メモ紙が重ねられていることに気付いた。


「あ、あの……え?」


メモ紙を返そうとアダムを見上げ、ソフィアは息を飲んだ。何故ならアダムが真剣な眼差しで自分を見つめていたからだ。


「お釣りをいただけますか?」


アダムはソフィアの目を見つめる。


「は、はい……」


レジスターを操作し、700リラのお釣りをアダムに返そうとした時、突然手を握られた。


「え!?」


戸惑うソフィアにアダムは顔を近付け、耳元で小声で囁かれる。


「待ってます」


「あ、あの? 待つって……」


しかしアダムは釣銭を受け取ると、新聞を手に足早に店を出て行ってしまった。


「アダムさん……待つって……?」


何の事か分からず、ソフィアはアダムが出て行った扉を見つめていたが、メモの存在を思い出す。


「そうだったわ! メモ!」


急いで広げると、丁寧な文字でメッセージが残されていた。


『本日、12時半。時計台広場の時計台の下でお待ちしております。アダム』


「アダムさん……」


ソフィアは顔を赤らめ、メモ紙を胸に押し当てた――





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