第13話 家庭内紛争
「何だと!? あの男が家に来ただと!?」
ムーアの怒声が小さな家に響き渡った。
「何ですか? あなたって人は。帰宅するなり、そんなに大きな声をあげなくてもちゃんと聞こえています。大体この家は以前の屋敷と違って、とても小さいのですから。 誰かさんのせいによってね」
アメリが皮肉を交えつつ、反論する。
「な、何だと……誰かさんのせいとは……もしや、私のことを言っているのか!?」
「あら、良くお分かりになりましたね。良かったわ、無自覚じゃなくて」
「う、うるさい! それは私だって責任を感じている。まさか奴が私を裏切るなんて……誰も思わないだろう!? 20年越しの親友だったのだから」
「何が親友ですか! それは貴方が勝手にそう思っていただけで相手は何とも思っていなかったのではありませんか!?」
激しく口論する2人。
「あ、あの。お父様、お母様も落ち着いて下さい……」
オロオロしながらソフィアは口論を止めようとするも、熱くなっている2人の耳には入らない。
そもそもの発端は、テーブルに飾られた花が原因だった。
仕事で帰宅したムーアは、まず最初にテーブルの花が目にとまった。
そこで「この花はどうしたのか」と尋ねると、アメリが「本日アダム氏が花を持って挨拶に来たので、そのことについてソフィアと話をしていた」と説明したのが始まりだったのだ。
「大体私は成金の平民男は絶対に認めないと、あの男に言ったのだ! それなのに性懲りもなく、我が家を訪ねてくるとは! しかもこんな花など持ってきおって!」
ビシッとムーアは花を指さした。その話に青くなるソフィアとアメリ。
「え!? お父様、アダムさんにそんなことを話したのですか!?」
「あなた! ソフィアの未来の夫になる方に何てことを言うのですか!?」
「な、何!? ソフィア! お前はあの男を知っていたのか!? それにアメリ! 将来の夫とはどういうことだ!? 大体、食事の用意はどうした? 私はお腹がすいているのだぞ?」
「「食事の用意など知りません!!」」
ソフィアとアメリは同時に声を揃える。
「な、何だと……? お前たちは一家の大黒柱に何と言う口を利くのだ?」
「何が大黒柱ですか? そもそも貴方が虫の良すぎる話に騙されたのが悪いのではありませんか? 私たちに何の相談も無く、怪しげな事業に手を出した結果がこれですよ? あげくに屋敷を取られて借金もでき、ソフィアを変態男に嫁がせようとしていましたね!?」
「へ、変態……もしやゲイル・マッキンリー伯爵のことを言っているのか!?」
「ええ、そうですよ。私たちよりも10歳も年上のくせに、まだ19歳のソフィアを娶ろうなど……変態以外の何者でもありません!」
興奮するアメリの言葉に、ソフィアは心の中で応援していた。
(お母様、素敵……頑張ってください)
「お、お前という女は……そ、そんな性格だったのか? もっと慎ましい女だったろう?」
「確かにそうでした。ですが、この家に越してから私は生まれ変わったのです。慎ましいだけでは暮らしていけませんから。ソフィア、私はアダムさんとの婚姻に賛成です。あんな人の言うことなど、聞く必要ありませんからね?」
「本当ですか? お母様!」
「ええ、もちろんです」
ガシッと手を握り合う母娘。
「こら! 勝手に話を進めるな! 私は絶対に認めないからな!」
「あなた! いい加減になさって!」
喚くムーアにアメリは一喝した。
「今後一切、ソフィアの結婚問題に口を出さないでいただけますか? さもなくば……」
「さ、さもなくば……?」
ごくりと息を飲むムーア。
「一生、あなたの為に食事を作ることを拒否いたします!」
「な、何だとーっ!?」
家にムーアの声が響き渡る。
結局、アメリの言葉が決定打となり……ムーアはソフィアの結婚に反対する権利を失ってしまったのだった――