第12話 盛り上がる2人
いつも来店するアダムが来なかった。
しかも、どう見ても女性向けに購入したしか思えないオレンジ色の花束。
その事がソフィアの頭から離れない。
気付けば家の扉の前に立っていた。
カーテンがつけられた窓からはオレンジ色の光が揺れているのが目に留まり、我に返った。
「や、やだ。私ったら、いつの間に帰ってきていたのかしら。駄目ね。こんな落ち込んだ顔していたら、お母様に心配かけさせてしまうわ」
自分の両頬を軽くパチンと叩くと、無理に笑顔を作って扉を開けた。
「お母様、ただいま戻りました」
明るい声を出すとアメリが台所から顔を覗かせ。慌ただしく駆けつけてきた。
「お帰りなさい、ソフィア。ずっとあなたの帰りを待っていたのよ?」
「え? 私の帰りをですか? でもいつもと同じ時間に帰宅したはずですけど……?」
「いいから、早く来てちょうだい」
「え? あ、あの」
アメリはソフィアの袖を掴むと、焦れた様子でリビングへ連れて行く。一体何のことか分からないままリビングに連れて来られたソフィア部屋に入るなり、目を見張った。
何故ならテーブルの上には色鮮やかなオレンジ色の花々が花瓶に差してあったからだ。
(もしかして、この花は……!)
咄嗟にソフィアの脳裏に、アダムが花屋から大きなオレンジ色の花束を受け取る姿が思い浮かぶ。
「お母様、このお花は一体どうしたのですか!?」
興奮気味にソフィアは尋ねた。
「14時頃だったかしら? 庭で花壇の手入れをしていると仕立ての良いスーツを着た若い男性がこの花を持って現れたのよ。そして『初めまして。私はこの度ソフィアさんに求婚させていただいたアダム・ジョンソンと申します』って挨拶してきたの。『今日は用事があるので、とりあえず私にだけ御挨拶しに伺いました』って言ったのよ」
アメリもソフィアに負けず、興奮のあまり早口で説明する。
「やっぱり……アダムさんだったのだわ……! あの方が私に縁談を申し込んでくれたのね!」
先程迄の暗い気持ちが嘘のように晴れていく。
(どうしよう……嬉しくてたまらないわ。片想いだと思っていたのは私だけだったのかしら? アダムさんも私のことを意識してくれていたのかしら……でもいつから私を好いてくれていたのかしら……?)
頬を赤く染めて喜んでいるソフィアの姿を黙って見ていられるアメリではない。
「ソフィア、一体どういうことのなの? 説明してちょうだい。あの素敵な青年のこと、あなたは知っていたの?」
「落ち着いて下さい、お母様。一から順を追って話をしますから」
「分かったわ。お父様が帰宅する前に、女同士でお話をしましょう。夕食の支度をしている場合では無いわね。今、お茶とクッキーを用意してくるわ」
「はい、お母様」
庶民の生活をしてはいるものの、所詮2人は貴族の出身。
一般庶民とは少しズレた感覚を持ち合わせている。
2人は夕食の支度もそっちのけで、お茶とお菓子をいただきながら、アダムの話で盛り上がるのだった――