第11話 黄昏
「今日のお昼はどうしようかしら……」
ソフィアは町をブラブラ歩いていた。
いつもなら節約の為に自分でサンドイッチやスコーン等のお昼を持参し、公園のベンチに座って食べていた。
けれど今朝はアダムのことで頭が一杯で昼食の準備どころでは無かったのだ。
「結局アダムさんはお店に来てくれなかったし……」
ため息をつきながら、手ごろな店が無いか探していた時……。
「あ! あの人は……!」
数軒先の花屋の前で、アダムが大きなオレンジ色の花束を女性店員から受け取る姿が目に飛び込んできた。
何故か良くないものを目撃した気持ちになったソフィアは、咄嗟に建物の陰に隠れてしまった。
(アダムさんが花束を持っていた……もしかしてあれはバラの花束? 一体誰に……?)
アダムに恋するソフィアは、一瞬自分あてのプレゼントかと思い胸を高鳴らせた。
そっと建物の陰から顔を覗かせると、『スミス商店』がある店とは反対方向に向かって歩き去っていくアダムの後姿。
「あの花束……私あてでは無かったのね」
ポツリと呟き、ハッと気づいた。
(やだ! 私ったら……! 昨日から今迄ずっとアダムさんが私に結婚を申し出てくれていたとばかり思っていたなんて……!)
遠ざかっていくアダムの後姿を見つめ、自分がとんでもなく思い上がっていたことに気付いた。
「もう……食欲も無いわ……カフェで飲み物でも飲んで仕事に戻りましょう」
ソフィアは深いため息をつくと、重い足取りで元来た道を引き返して行った――
****
――17時半
棚の整理をしていたソフィアに店の奥から出てきたドナが声をかけた。
「ソフィア、時間になったから上がっていいわよ」
「はい、ドナさん」
ソフィアは返事をすると、エプロンを外す。
「それにしてもアダムさん、珍しいわね」
アダムという名前に、ソフィアの肩がピクリと跳ねた。
「ソフィアがこの店で働くようになってからは、毎日訪れていたのに……何か心当たりはある?」
ドナはソフィアがアダムに好意をよせていることに何となく気付いていたのだ。
「さ、さぁ……私にも分かりません」
「あ、ごめんなさい。何だか変なことを聞いてしまったわね」
自分が余計な口を滑らせてしまったことにドナはすぐに謝罪した。
「いえ、大丈夫です。お気になさらないで下さい。それではお先に失礼しますね」
「ええ。引き止めてごめんなさいね」
ドナに会釈すると、ソフィアは店を後にした。
「……ふぅ」
店を出ると、ソフィアは空を見上げた。
オレンジ色に染まる夕暮れが、とても美しかった。空の色を眺めていると、アダムが手にしていた花束を思い出してしまう。
(アダムさんは、今日店に姿を現さなかった……それにオレンジ色の花束を買っていたわ……。やっぱり、私に縁談を申し込んできたのはアダムさんでは無かったのかもしれないわ……)
「帰りましょう…‥」
落ち込んだ気持ちで、ソフィアはトボトボと歩き始めた――