第10話 いつもと違う朝
――翌日
ソフィアは緊張の面持ちで出勤してきた。
「おはようございます」
扉を開けて店内に入ると、カウンターでドナが伝票整理をしている。
「あら、おはよう。ソフィア……って、どうしちゃったの?」
ドナはじっとソフィアを見つめる。
「え? どうしちゃったって……何のことでしょう?」
「何だか今日のソフィアはいつも以上に綺麗に見えるから。あ、もしかしてお化粧のせいかしら?」
「え、えぇと……そ、そうですけど……分かります?」
いつものソフィアなら薄化粧しかしていないが、今朝はいつもよりも念入りに化粧をしてきた。もっとも、出来るだけ自然に近い形で化粧してきたつもりではあった。
「ええ、勿論分かるわよ。珍しいわね。普段はそんなに化粧をしていないのに……でもいつも以上に綺麗よ、良く似合ってるわ」
「あ、ありがとうございます」
ソフィアの顔が赤く染まる。
「それで一体今日はどうしちゃったのかしら? お化粧なんかしちゃったりして。ひょっとしてデートかしら?」
「いえ、そんなではありません。第一、デートするお相手もいませんから。た、ただ何となくお化粧して見ただけです」
「あら? そうだったの? でもそういう日もあるものね」
「そうです。私、掃き掃除をしてきます!」
ソフィアは立てかけてあった箒を手に掃き掃除を始めた。
ドナにはうまくごまかしたものの、ソフィアが化粧をしてきたのには、れっきとした理由があった。
それはアダムである。
まだ彼がソフィアに縁談を申し込んできたアダムかどうか定かでは無かったが、万一のことを考え、少しでも見栄えがするように化粧をしてきたのだ。
(アダムさんが来店してきたら……私に何て告げてくれるのかしら……)
ドキドキしながら、ソフィアは店内の掃除を続けた――
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ボーン
ボーン
ボーン
店内の振り子時計が12時を告げる鐘を鳴らした。
「ソフィア、お昼だから食事に行ってきていいわよ」
カウンターに入り、お金の計算をしていたソフィアにドナが声をかけた。
「はい、では午前中の売り上げの計算が終わったらお昼に行かせていただきます」
「あら、いいわよ。それ位私がやっておくから」
「え? ですが……」
「大丈夫だってば。お昼休憩に行ってらっしゃい」
「……はい。ではお言葉に甘えて」
「そう言えば、今日はアダムさん来なかったわね」
ドナの言葉にソフィアの肩がピクリと跳ねる。
「え、ええ。いつもなら毎朝同じ時間に来店されますのに」
そう、実は今日この日に限ってアダムは姿を見せなかったのだ。
「一体どうしてしまったのかしらねぇ?」
「そう……ですね」
ソフィアの顔が曇る。
「あら、ごめんなさい。引き止めてしまったわね。ソフィア、お昼休憩に行ってきていいわよ?」
「はい、では行ってきます」
ソフィアはエプロンを外すと、ショルダーバッグを持って店を出た。
アダムが姿を見せなかったことに不安な気持ちを抱きながら――




