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0日目 ※



 アキラが目を覚ますと、そこはファンタジーRPGの世界だった。剣と魔法の世界だと直感的に感じたが、なぜそう思うのかはわからない。


 彼は青緑の目を持ち、短い金髪にスリムな体型をしている。軽装の冒険者風の革製の服を着て、ツールベルトを締めリュックを背負っていた。


 新品のブーツが、彼が冒険者になりたてであることを示していたが、その歩き方には元気が溢れていた。


「やったね。とりあえず、お城でも目指そうか」


 そう言って歩き出そうとしたが、目の前には一面の野原が広がっていた。草原の中で、アキラはふとスライムのようなものが目の前にいるのに気づいた。


 興味本位で近づいてみると、スライムは「ぼよん、ぼよん」とバウンドしながら勢いよくアキラにぶつかり、彼は尻もちをついた。


「なんだよ、痛いじゃん!」


 アキラは大声を上げ、立ち上がりながら怒りを露わにした。何度目かの回し蹴りでようやくスライムに当たり!


 スライムは水風船のように歪み、炸裂して弾け飛んだ。


 その瞬間、「経験値 1p 獲得しました」「金 5 ゴールド獲得しました」という文字がアキラの視界に浮かび上がった。続いて、突然頭の中で女性の声が響いた。


「おめでとうございます!」


「まあね」アキラは内心の興奮を隠しつつ、余裕を装って答えた。本当はたまたま当たっただけなのだが。


 アキラは頭の中の声に話しかけた。


「君は?神様か?」


「違います。私はこのゲームのナビゲーターです」どこかで聞いたことがあるような、懐かしい声が響いた。


「じゃあ、神様は?」


「そのうち会えるといいですね」


「いつ?」


「……」


「どこで?」


「……」


「秘密なんてずるくない? 神様の手違いで死んだんだから、チート能力をもらわないといけないんだけど。クズスキルに見えて、実はものすごい能力とか」


「それは勝手な設定ですね」彼女は笑いながら答えた。


「こちらにも情報開示の決まりがあるので、答えられないこともあります。ごめんなさい」


「じゃあ、質問を変えるよ。ここは異世界?それともゲームの世界?」


「それは微妙ですね。定義が曖昧ですから」


「ということは、誰かを助けようとトラックに飛び出して轢かれたとか?」アキラは興奮気味に言った。


「ちょっと違いますね」彼女はやんわりと否定した。


「実は陰陽師の生まれ変わりで」


「未練を残した勇者が生まれ変わって」


「違います」「違います」「どんどん答えから遠ざかっていますよ」


「じゃあ、蜘蛛になったり、剣になったり、豚になったりするのかな」


「手を見てください。どう見ても人間でしょう。いろんな物語のトレースですね。落ち着いてください」


「いやいや、十分冷静だよ。冗談だからね」アキラは肩をすくめながら答えた。


 ナビゲーターは苦笑しながら言った。


「すいません。それでは、そろそろ始めてもいいですか? 後でゆっくりお話ししますので」


 

 その瞬間、目の前が暗くなり、ファンタジー映画のようなオープニング映像が展開された。


 アキラは「まあ面白そうじゃないか」と思い、左下に「Now Loading 100%」と表示された瞬間、「アルカディアクロニクル -理想郷の冒険-β版 five color」というタイトルロゴが輝いているのを見て、少し興奮した。


「どうでしたか? なかなかのものだったでしょう?」彼女の自慢げな声が響いた。


「うん、よくできてる。でも、どこかで見たことがある感じがするなぁ」アキラは答えた。


 映像が特別に美しいとか、迫力のある動画というわけではない。短い映像が繰り返されたが、なぜか心に残った。


「良かったです」と彼女は心底嬉しそうな声で言った。


「ゲームは実際にやってみないとわからない!」アキラは信念をもって答えた。


「そうですね。では、早速スタートボタンを押してください!」


「ちょっと待ってよ。実は記憶が朧げなんだ。思い出せないことが多くて」アキラは焦った本音を漏らした。


「特に自分についての記憶だけが抜け落ちてる感じがして、不安で……」


「そうですか。教えてあげたいところですが、これも情報開示不可です。私はゲームのナビゲーターに過ぎないので」と彼女は答えた。


 その答えを聞いてアキラは少しガッカリしたが、予測していたものだった。


「でも、あなたの性格なら分析結果をお話しできると思います」


「それって意味ある?」


「どんな人生を歩んできたか、運の部分を除けば何となくわかるのではないですか?」


「そうかもね」


「アキラさんは、悩んでいても元気で、創造的な思考を持ち、人との協力を大切にし、柔軟な対応ができ、効率的な方法を模索する人です。本当に優しくて、困っている人を助ける人です。好きですよ」


「もう一度、ゆっくり言って!」アキラはいたずらな微笑みを浮かべながら頼んだ。


「二度とは言いません!」とナビゲーターは強い拒否を示した。


「いい加減だし、他人を巻き込むし、無理な要求するし、納期には厳しいし……」


 彼女は恥ずかしさのあまり、思わず本心ではない悪口を小声でつぶやいてしまったが、アキラにはしっかりと聞こえたようだ。


「そうか、そうだよね……」アキラは少し寂しげな表情を浮かべ、スタートボタンを押した。きっと、ろくでもない人生だったのだろう。


※※※


「ねえ、山吹。同人ゲームの都市伝説って知ってる?」


「知らない。興味ない」友人がこんな話を持ちかけてくることに、山吹は少しうんざりした。大学の帰り道にする話題じゃない。


 赤い電車が遮断機の向こうを高速で通り過ぎていく。風圧で髪が揺れ、無表情な乗客たちが外を眺めているのが妙に印象に残った。誰かと目が合った気がした。


「そのゲームをするとね、失踪したり、蒸発するんだって」


「ただの偶然でしょ。で、何て名前のゲーム?」質問した自分を、山吹はすぐに後悔した。これじゃ終わらない。


「アルカディア・クロニクル、それを作ったのが、うちのゼミの先輩らしいよ。写真見たけど、あの人、かっこいいけど、ちょっと影があるよね」


「影なんて無いでしょ。あの人、面倒くさいだけ」


「でもさ、仲がいいんでしょ? そのゲーム出来ないかな? 確かめてみたく無い?」


 そんな必要はない。


 だって、知っているから。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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