表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

4.5話

※小西視点



亘理が帰った後、リビングに戻るとあの子がニコニコと笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。


ああ、あいつの事は癪だけど、紹介してよかった。こんなに喜んでくれるならもっと早く話を聞いてあげればよかった。


「佐紀ちゃんよかったねぇ。」


そう話しかけると、きょとんと俺の事を見上げる。


「え?ああ!!違いますよ。勿論、今日これを何とかしてもらったのも嬉しいですけど今嬉しかったのは違うんです。」


微笑みながらあの子は言った。


「俺が嬉しかったのは、お二人が優しい関係だからです。」

「ちょっ!?佐紀ちゃん何言ってるの?」


俺とあいつの関係は、ただこの糸が繋がっている。ただそれだけだ。

玄関に向かって伸びる糸を目で追いながら思う。


「え?あれ、違うんですか?」


こてんと首を傾けた姿も可愛い。


「だって、大地先輩ずっと彼の事ばかり見ていたし。」


途中で慌てて佐紀は言葉を切った。

それはまるで、俺があいつの事が気になってるみたいじゃないか。


「そんな事ないよ。だって、俺の好きなのは佐紀、君だよ。」


本当は今言うつもりはなかった。

だけど想い人に勘違いされている事だけは嫌だった。


「でも、頭の中の大部分を占めているのは彼なんですよね。」


曖昧に笑いながら言った佐紀の瞳は全てを見透かす様で、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「だって、あいつは可愛気無いし、厭味ったらしいし、こっちが言ったことにしか答えないし、そもそも顔だって全然俺の好みじゃないんだよ!?」


俺が半ば叫ぶように言うと、佐紀は苦笑交じりでクスクスと笑った。


「大地先輩は俺が可愛げがあって、素直で、話題を振って、好みの顔だから告白してくださったんですか?」


聡い子だというのは知っていたし、そういうところが好ましいと思っていた。

だけど、こうやって返されてしまうとぐうの音も出ない。


「そもそも、頭の中を占めているのかって聞いたんですから、占めてるか占めてないっていう返事でいいんですよ。」


それを、自分に言い訳するみたいな言葉で返した俺がおかしかったのだろう、佐紀はニコニコと笑っている。


「だって、佐紀が俺の事分かってくれて、すごく嬉しくて。」

「俺も、大地先輩が何かに憑りつかれた様に迫ってこなくてすごく嬉しかったです。」


でも先輩、一呼吸おいて佐紀は続けた。


「分かり合えるという事は、恋愛においてのみ成立するんじゃないんですよ。」


佐紀は真っ直ぐに俺を見つめた。


「俺と視線が合って、ドキドキしますか?」


ふんわりと笑った笑顔は相変わらず可愛かった。


「ごめん。」


だけど、俺の心臓はそれで早鐘を打つことは無かった。


「今まで通り、友達でいてくださいますか?」

「勿論。」


俺と佐紀は笑いあった。



落ち着いたところでデリバリー用メニューを佐紀に渡す。

手早く決めて、注文をした。生徒会特権であるデリバリーはとても便利で重宝している。

料理が届くまでのしばらくの時間、佐紀と話をした。


「佐紀の言う、オーラ。俺とあいつには糸として見えてるんだよ。」


手を掲げながら俺が言うと、佐紀は「赤い糸みたいな?」と返した。


「うん、色は違うけどそんな感じ。」

「俺の糸は?」

「伸びてるよ。だけどその先で色々な糸を巻き込んでごちゃごちゃになってる。」

「それを亘理君は元に戻してくれてるんですね。」

「うん、そーみたい。」

「先輩の糸は?」


佐紀に聞かれたが答えられなかった。

佐紀はそれ以上は聞かなかった。


「もし、嫌いな奴と糸が繋がっていて、自分が糸を切れるとしたら、佐紀だったらどうする?」

「うーん、悩みますね。」

「じゃあ、その相手に切るかって尋ねたとして、切って欲しいって言われたら切る?」

「そもそも、前提がおかしいですよ。」

「ああ、相手には見えないって事?」


「違います。嫌いな相手が切ってって言ったから切ってもいいってことは、自分も切りたいって思ってるんですよ。それならとっくに切ってますよその糸。

嫌いな人と繋がっていても切るべきじゃないって思ってたら、そもそも嫌いな相手にお伺いは立てないですよ。」


仮定の話なのでおかしいかもしれませんが。佐紀は、でもそもそもその糸って、なんで繋がってるんですか?と聞いた。

俺は「分からないんだ。」と酷い笑みを浮かべることしかできなかった。


頭の中は、何故あいつが、糸を切ることを持ちかけてきたかで一杯だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ