カルワルナにて
はてさて、何度目だろうか。
港町カルワルナ。人の賑わうカルワルナ。
貿易都市、学園都市、迷宮都市。様々な名を持つこの町であるが、長寿な者達からはこうも揶揄されていることを知っているだろうか。
災い多きカルワルナ、と。
カルワルナ。それは長い、長い歴史の上で何度も滅んだ都市である。寂れて終わる最後はなく、いつも突然の終わりによって跡形もなく消滅してきた。
ある時は闇に堕とされて。ある時は竜の咆哮によって。ある時は津波に飲まれて。ある時は宙より飛来した岩石によって。そして、今回は魔族の策略によって。
「迷宮は放置しろ。手を出して痛い目見るからな」
人の溢れるカルワルナの見る影なく、魔族たちがそこを闊歩していた。
カサム・オメガバーンもその一人である。彼は上官の代理として現場で指示を取りながら、人の生きた証を徹底的に破壊し、魔族の基地を築いていた。
カルワルナ侵攻作戦。それは大きく二段階に分かれた作戦であった。一段階目は侵入。エリエスの邪龍を用いた侵攻を行い、魔骸の手によって呪いを残す。同時に魔族を人間に変身させカルワルナやその周辺にばら撒く。二段階目は外部からの侵攻と共に内部に侵入した魔族が暴れるだけ。
魔族を人間に偽装する際に作戦に参加している魔族の記憶も同時に改竄することで人間にもバレずに人間として潜入することができたというわけだ。カサム・オメガバーンもその一人。ゼノンと出会い、自然と冒険者としてカルワルナに馴染んでいた。
今回の作戦、恐らく平時では決して成功することはなかったであろう。遺跡調査のために学長およびその直属の魔術師たちの多くが遺跡探索に行っていたこと。同じく白獣兄妹の不在。そして、古の魔王復活によりたかが一都市に構っている暇がなかったことなど。複合的な偶然が重なったことでこの作戦は成功した。
「ヤッホー、カサム指揮官代理。元気かい?」
カサムに声を掛けたのは腰から下が虎の胴をした中性的な見た目の魔族であった。
「はい。コホウ将軍もお元気そうで何よりです」
コホウ。魔王の軍勢において魔王を頂点とするならばその一つ下、四天王が一角、それが虎奉という魔族である。カルワルナ侵攻においては立ちはだかった冒険者や兵士、学生を真正面から叩き潰し、喰い荒らした。
「おう。いや~、良い祭りだった。フーマだったけ。あの程度の身体機能の割にはなかなかの動きで且つ美味だったよ。他にもアークリフトという男の腕も良かったな~。逃がしてしまったのが悔しいよ。お前もうまそうな奴は見つけたか?」
恐らく、このカルワルナ侵攻において最も多くの人間を殺害したのは彼であろう。
「人を食べたことがないので何とも言えませんが、強そうな相手ならいくつか。しかし、遺跡探索に行ってしまっていたので戦うことはできておりません」
魔族として潜入していた者は勿論だが人間と偽装して潜入していたときの記憶を有している。カサムはゼノンの流星を特に警戒している。
「あれか~。たしかに、学長のケルを味わえなかったのが残念だよ。いや、全滅してたかなこっちが」
「それほどまでに恐ろしい相手だったのですか?」
「らしい。直属の配下も精鋭だったと聞く。奪還しにこないかな~。」
コホウは嘆く。どうやら魔族にはケルが死亡したという情報は伝わっていないようで、未だにカサムはケルを警戒しているのだとか。
基地が完成するのは3月末と言ったところだろうか。それまでに人類は間に合うのか。それとも要塞を建設され、ユーラ大陸を魔族よって侵攻されていくのか。
さて人類よ。早くに手を打たないとそうそうに王手を打たれるぞ。




