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勇者日記  作者: かざむき
魔物の国編
590/633

ヴォナパルト外伝1 ヴォナパルトは屑である

 ヴォナパルト・アスタリスク。

 当時、冒険者ギルドでその名を口に出すと職員はみんな嫌な顔をしたという。

 ランク9という冒険者の最高位の称号を得る人間はみな、どこか頭のネジが飛んだ変人ばかりである。この男もその例に漏れない。

 冒険者という名を言葉通りに解釈したとき、彼ほどにその名が似合う人間もそういないだろう。未知を暴こうとする飽くなき探究心に加え、自ら生死の境を反復横跳びするほどのスリル中毒者。まさに変態である。


 そんな男であるが、単身独走しているのかというと、実はそうでもない。

 目立つヴォナパルトの傍らにはいつも隣にはあきれ顔の少女がいたのだという。


「ヴォナパルト。自重しろといつも言っているだろ」

「あと一回! あと一回だけ! 次は勝てる! 俺の直感がそう言ってるんだ!」


 町の明かりで星の見えずらい空の下、賭け事の結果、身ぐるみをはがされて無一文なヴォナパルトはその少女に土下座で頼み事をしていた。人通りは多い。誰も彼がランク9の冒険者とは思うまい。


「勝ち負けの話じゃない。賭けをやめろと言ってるんだ」


 ヴォナパルトは無類のギャンブル好きでもあった。冒険ほどではないが、賽子一つで全てが吹っ飛ぶかもしれないというスリルを彼が好まないはずがなかった。


「これは性なんだ! 生きがいなんだ! 頼む、お前の服とか財産を俺にくれ!」

「やめろ! 私も巻き込むな!」

「ちっ、言葉じゃダメか。」


 さっきまで、頼み倒していたヴォナパルトの様子は変わる。

 穏便な手立てで交渉する時間は終わり。要求が通らない時、人間は古来からこの方法を好んでいる。つまり力づくだ。


「なっ、ヴォ、ヴォナパルト?」


 ヴォナパルトは少女の前に悠然と立ち、じっと少女を観察する。

 数秒の沈黙。緊迫したその雰囲気は自然と人の視線を集めた。

 そして、少女が少し気圧され腰を引く動作と共に、自然と予備動作なくヴォナパルトの手が少女に伸びて――


「はぇっ?」

「しゃっ、軍資金ゲット。」


 一瞬の早業。少女は自身が何をされたか認識できていない。


「「うおっ!」」


 数瞬遅れて、周囲の男が思わず声を漏らす。


「え? あ、あ、あ・・////」


 男共の声で少女は自身の状態を理解した。

 成長途上の少女の肢体、そして白い素肌が露わになる。辛うじて下着は残っているが、それでも公共の場でしていい姿ではないのは確かだ。

 ヴォナパルトの手には少女の服と一緒に奪ったカバンがあった。そしてそのまま急ぎ足で賭場へと向かう。


「この腐れ外道が!!」


 一瞬羞恥、しかし次の瞬間にはその感情が怒りとなった。

 しかし悲しきことに羞恥も忘れた少女の怒号は届かず、ヴォナパルトの思考は次の賭けしかない。

 ヴォナパルトは真性の屑なのだ。


 ちなみに、賭けは最終的に勝つことができ、荷物も全て取り返すことができた。ただ、次の朝、全裸の変質者の男女が出没していたという情報が出回っており、少女は頭を抱えていた。


◇ ◇ ◇


 ある日、ヴォナパルトと少女は冒険者ギルドを訪れていた。

 目的は金稼ぎ。冒険好きのヴォナパルトであるが、常日頃から各地を飛び回っているというわけではない。

 冒険やスリルは飛び込むものであって、自ら作り出すものではない。それは彼の持論の一つである。故に万全の準備を整え、しっかりと休養する。ギャンブルで全てを水の泡にすることもあるが、それはそれ。

 現在はユーラ大陸から南西に位置するアリフ大陸を探索するための準備を進めている段階であった。今回の依頼探しもそのための資金を集めるためのものだ。


「よう。ヴォナパルトだ。調子はどうだ?」

「お久しぶりですヴォナパルトさん。」


 ヴォナパルトが話しかけたのはここのギルドの受付の職員、ではなく冒険者であるウォレンという男であった。ランクは4。ランク3がボリュームゾーンである以上、特別強いという訳ではない。しかし、このギルドにおける情報通であるため多くの冒険者が彼を頼りにしているのだ。勿論であるが、先日の全裸の件も彼の耳には入っている。


「なんか良い依頼はねえか?」

「そうですね。ヴォナパルトさんが満足するという依頼はないですね。賭け事で大儲けしたらどうですか?」

「流石に連れの堪忍袋が切れてこっぴどくやられたからな。しばらくは自重してんだ」


 ランク9とはいえヴォナパルトも人間だ。突ける弱点は幾らでもある。それがパートナーであればなおさらだ。


「それは良かったです。賭場側も怯えているので」

「武力行使はしねえっつうの。」

「それを行えるポテンシャルを恐れてるんですよ。それに、あなたはうますぎるんです。」


 賭場側がヴォナパルトを恐れる理由の一つ。それは一手一手の正確さだ。常に搦め手も含めた最善手を指す彼は運の偏りを極限まで小さくする。ようは儲からないのだ。イカサマも容易に見破る観察眼を持つため、下手なことをすれば命に関わる。誰がこんな客の相手をしたいのだろうか。


「やるなら全力。当たり前だろ。」

「遊びでも容赦がないタイプですからね。」


 ウォレンの口からはため息一つ。ヴォナパルトの動きは予想しやすいが、それはトラブルが起こる未来ばかり。それを未然に防ぐ、もしくは最小化させようとする人々も少なくない。情報通であるウォレンはそういう人々との付き合いも多く、ヴォナパルトの存在が胃痛の種となっていた。


「それはそうと依頼の話でしたね。満足するものはないと思いますが、比較的これはよさげだと思いますよ。」


 ウォレンは用意していたかのように一枚の紙を取り出した。


「適正ランク7。ギルドからの討伐依頼です。」


 適性ランク7。それは一般的に地方の小都市や村においての冒険者での攻略が不可能と断じられるレベルの難易度であった。

 ランク3以降の冒険者の数はランクが上がるごとに急激に減少していく。地方の小都市程度であれば良くてランク5が十数名程度、ランク6が数名いるかどうか。栄えた大都市などであればランク7の人材もそこそこの数を見かけるが、それでもランク8は数名程度。そして最高位のランク9は各地を放浪する自由人が多いため所在不明がほとんどだ。

 だからこそ、ランク9を2名、ランク8と7を合わせて50人以上で挑んだ「エリエスの邪龍討伐作戦」が失敗に終わり1人を除いて全滅した一件が世界的にも有名になるのは必然であった。


「ランク7ね。難易度は良いけど、流石ギルド。ケチだね。」


 冒険者ギルドとしてはこの案件が舞い降りて来てから近隣の地方から冒険者を集める予定であったが、丁度運よくヴォナパルトがここを訪れたという訳だ。ランク9の彼にとってランク7の依頼はできて当然の難易度であった。


「他の依頼にしますか?」

「いや、これでいい。どうせ他のはこれより安いんだろ? それにギルドにしては値を張ってる。俺達用なんだろ?」

「もちろんです。」


 ヴォナパルトはその紙を受け取ると、ギルドで手続きをして早速準備を始めた。


「もう少し値を引き上げることもできたのではないか?」


 ギルドを後にしたあと、少女はヴォナパルトにそう尋ねた。


「交渉ごとは苦手でね。代わりにやってくれたら楽なんだけど」

「契約内容には含まれてないからな。」

「たしかに。」


 依頼の内容は魔竜の討伐。竜とあるが、おそらく竜種ではない。その正体は竜の因子を取り込んだことで竜種の姿に近づいた強い魔獣だ。ただの魔獣であっても適正ランクは最低でも4。魔竜となるとランク6以上となる。

 今回の依頼情報において、魔竜は周囲の魔獣と群れている訳でもなく、場所が悪いわけでもない。恐らく魔竜そのものの危険度のみでランク7と設定されているのだろう。また、ランク7とあるが、意味合い的にはランク7以上という意味だろう。ランク6の冒険者数名の人材が失われた


「魔竜の討伐についてだが、何か必要なものはあるか?」

「いつもの装備で大丈夫だろう。保存食が少なくなってるからその分の買い出しを頼む。俺はその間に道具の手入れをしておく。」

「わかった」


 準備に一日。出発は翌日となった。

 翌日の朝。日が昇り始めると同時にヴォナパルトと少女は魔竜の住む谷に向かって歩き始めた。


「流石に昨夜は賭場には行かなかったよな?」

「どうして行く選択肢が生まれる?」


 普段のギャンブル狂からは想像できない言葉である。


「いつものようにギャンブルに行っている人間だ。もしかしたらと思うのも当然だろう」

「旅の前は十分な睡眠。鉄則だ」

「まあ、そうなんだが」


 屑ではあるが、冒険者としては一流。こういった切り替えも彼がそう言われる所以なのだろう。

 歩くこと一日。森を抜けて山を越えた先にその谷はあった。

 只人が見ればただの自然豊かな森に囲まれた大きな谷である。しかし、すこし魔力を感じられるものにとっては嵐の様であろう。吹き荒れる魔力風は魔術の行使を妨害し、ときに超常となって周囲を破壊する。濃密な魔力のたまり場には魔獣が湧き出しており、数日後の景色に豊かな自然が残っていることはまずありえないだろう。


「これはさっさと倒した方がよさそうだな。」


 ヴォナパルトは腰に差していた短刀を抜き、手のひらを軽く切った。


「起きろ仇追(きゅうつい)


 短刀は血を喰らう。


「主よ。何用で?」


 刀が喋る。それは付喪神に成り果てた刀の妖怪。仇追(きゅうつい)と言う名は前の主人が殺されたとき、刀が一人でに動いて仇を追い殺したことに由来する。


「魔竜を狩る。大太刀で」

「仰せのままに」


 怪異として、極東の都で暴れていたところをヴォナパルトに調伏され、現在ではヴォナパルトの主武器として用いられている。仇追の特性はその形状変化。主の血を喰らうことでその大きさ長さを望み通りに変化させる。


「魔獣の数は近いとこから10、4、9、3、15、2、22。そして今なお増え続けている。しかし魔竜周辺は極端に魔力濃度が高いため魔獣はいない。」


 少女は魔力風などなかったかのように魔力を読んで魔獣の位置を正確に言い当てる。


「俺の読みとも一致した。本丸を落とした方がいいな」


 一息吐く。

 脱力する。

 そして、目標を見定める。


「ヴォナパルト・アスタリスク、参る!」


 魔獣の森に風が通り過ぎる。

 二つの影が谷へと落ちて、風が薙ぐ。

 魔力風が落ち着きを見せ始めるとともに、魔獣は瞬く間に刈り取られていった。


「さて、戦利品を漁りますか。」


◇ ◇ ◇


 ヴォナパルト達が帰還したのは翌日の朝であった。

 ギルド内では魔竜が討伐されたとあってお祭り騒ぎ。

 ヴォナパルトがあのランク9であるということも知れ渡り、多くの冒険者が恐れ慄くと同時にランク9の冒険者であっても人なのだと多少の親近感を覚えた。


「それで? 調子に乗って賭け事して報酬をゼロにしたと。」


 少女の声は酷く冷めきっていた。


「いや~、でも前みたいに服とか元から持ってた分にはまだ手をつけてないから」


 盛り上がった結果、ヴォナパルトは卓を囲んでトランプゲームに興じた。結果は言葉の通りである。


「でさ、次のゲームなんだけど、俺らの全財産使ったら勝率が六割を超えて且つ目標金額まで到達する。」

「それで?」

「やるっきゃな――、あっ」


 ヴォナパルトは屑である。

 その日、ギルド前には人型の陥没ができていた。

ちなみにランク9の認定基準の一例としてはざっくりですが、本気のハクラスを相手にして一時的にでも互角に戦える程度の力があることです。

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