五百四十五日目
太陽暦935年 10月31日(金) ?
ブッフ・ルーザ 歳か。在位年数ならわかるが、いつ生まれたかは憶えとらんな。
ふむ。
かなりの状況となっとるようだな。
異邦の者よ。少し筆を借りるぞ。まあ、許可を取る相手は現在眠っているがな。
このような現状を作り出してしまった元凶であることは理解しておるが、この短期間でここまでの事態になるとは少し想定外ではあった。
現王にしてこの魔物の国を治めていた者、ブッフ・ルーザだ。
現在、我が子とその他の王位を狙うこの現状、この混乱についてだが、多少魔王の思惑も絡んでいるものだと思われる。正直私も正気を保つのがやっとでな。
そうだ。お主ら異邦の者達に伝えておかなければならないことがある。多少真相に近づいている者達もいるようだが、私がここに断言しておこう。私の言う魔王とは今現世に存在する魔王ではない。遥かな昔、それこそ数万、もしかしたら数十万年も前に存在した魔王だ。
それは人を率いる神の軍勢によって討ち取られ、歴史に名を残せなかった敗者。魔獣を生み出す呪いを残した者であり、我々の祖先である洞窟の境界を越えたごく少数の魔族を残して、文字通り全滅した魔族の王。それが我々の言う魔王である。
本来ならば、その魔王は千年前に現世に再び降臨するはずであった。だが、生まれてきたのは恐らく出来損ない、もしくは魔王の器とは別の存在だったのだろう。何者かの策略によるものか、それとも虎の尾を踏んだが故の自爆かは私にはわからない。
重要なのは再誕できなかったという点だ。
お主ら異邦の者、現世の者にとっては幸運だったのだろう。だが、我々にとってそれは不幸以外の何物でもなかった。
呪いは我々に牙を剥いた。
真っ先に影響を受けたのは王であった。魔王の記憶や滅びの際の怨嗟が脳裏にこびり付き、日々精神を破壊していった。王を狂王へと変貌させ国を滅ぼそうとする厄災。そして、私の代にきてその呪いはさらに強大になっていた。いつの間にか、その呪いは王以外の民にも少しずつ影響を与え始め、欲を増強させ争いを起こす土壌を作り上げた。
呪いの狙い?
最後の一であろう。少数であるが、その歴史は長い。魔物の最後の一であれば魔王の器には十分事足りるであろう。
そして、疑問に思うのは、私の狙いか。
久方ぶりに正気を取り戻した者に狙いも何もないに決まっておるだろう。
対策をしなかったわけではない。だが、あまりにも無力だったな。
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