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 美雪と相談し、お茶会の準備をしていく。冴子ちゃんが好むお茶とケーキを俺は把握しているつもりだったが、美雪と意見交換したところ、つもりでしかなかったことが発覚した。お茶会を頻繁に開いていたころの冴子ちゃんは機嫌が極めて良く、そしてそういう時は、どのケーキを食べどのお茶を飲んでも普段以上に美味しく感じるもの。美雪によるとケーキとお茶は全て美味しかったが好みの順位はやはり歴然とあり、しかしあの頃の冴子ちゃんはその差を打ち消すほどお茶会を楽しんでいたため、好みの差を俺が見極めるのは難しかったはずと述べたのである。美雪の言葉ゆえ俺はそれを100%信じたが試してみようということになり、俺の考える「冴子ちゃんが好きなベスト5ケーキとお茶」を、美雪に見えぬよう輝力で書いた。美雪が呼びかけたところ母さんも参加することになり、二人も冴子ちゃんが好きなベスト5をそれぞれ書き、三人で一斉に見せ合った。すると美雪と母さんは寸分違わなかったが俺は二つのケーキのみが二人と符合し、また符合しても順位はかすりもしなかったのである。にもかかわらず好みを把握していると考えていたなんて、友人失格だ。冴子ちゃんに許してもらえたら今度こそ真の友人になってみせると、俺は誓った。

 美雪の提案と要望をすべて叶え、母さんもAⅠ用の酒果を携えやって来てくれた。酒果にほんの少し手を加えたアレも、上出来といえるだろう。上出来ゆえ摂取量が増し寝てしまったとしても、仕事に支障のないよう取り計らっている。俺は最後にもう一度テーブルを見渡し、美雪と母さんに目を向け、それぞれと頷き合った。よし、準備完了だ。俺は2Dキーボードと2D画面を出し、冴子ちゃんにメールを送った。

 突然のお茶会の誘いを、冴子ちゃんは穏やかに承諾した。錐で突かれたかのような痛みが胸に走った。ここ十数年間でお茶会を開いたのは数年前の一度きりなのに小言を一つも零さないなんて、やはりいつもの冴子ちゃんではない。文句を垂れるも決して本心ではなく、口とは裏腹に表情は明るく、場を巧みに盛り上げてくれるのが、四十年以上の付き合いのある冴子ちゃんなのだ。俺は予定を変更し音声電話に切り替え、冴子ちゃんに語り掛けた。


「冴子ちゃん、少し話せる?」「いいよ」「冴子ちゃんをお茶会に長らく誘わなくて、ごめんなさい」「うん、ちょっぴり寂しかった」「ホントごめんなさい。今日は全力でおもてなしします」「楽しみにしてるね」


 音声電話を切り、俺は1秒だけ俯いた。続いて顔を両手でゴシゴシこすり、同時に顔の筋肉を盛んに動かして、笑顔になる準備をする。次いで心を陽気にし、笑顔を自然に浮かべられた丁度そのとき、テーブルの正面に冴子ちゃんが現れた。十数年前まで頻繁に開いていたお茶会では俺の隣に美雪が座り、美雪の正面に冴子ちゃんが座り、その隣に母さんが俺の正面になるよう座っていたけど、今日は変更した。今日の主役は冴子ちゃんなのだから上座中央を冴子ちゃんの席にし、右隣は母さん、左隣は美雪という席順にしたのだ。計画どおり母さんが巧くやってくれて、冴子ちゃんはテーブルに現れるまで両隣に美雪と母さんが座っていることを知らなかったらしい。顔を右へ左へ向けて挨拶しているうち、出現したさい微かに纏っていた寂しげな気配が少しずつ消えていった。頃合いを計り俺は立ち上がり、冴子ちゃんのグラスに飲み物を注ぐ。「翔、ありがとう」「冴子ちゃんの好みに合えば良いのだけど」「そういえばこの琥珀色の炭酸水、初めて見る。楽しみだわ」 こちらも母さんが巧くやってくれて、独特の香りが鼻孔に届かぬよう工夫してくれている。まったくもって母さん様々なのだけど、母さんにとっては逆だったらしい。十分ほど前、お茶会の準備をしていた冴子ちゃんを気遣う俺に、母さんは粛々とお礼を述べたのである。母さんは冴子ちゃんの母親でもあるのだと、痛いほど理解した瞬間だった。

 全員のグラスに琥珀色の炭酸水を注ぎ終え、乾杯の音頭をとる。四人の「「「「かんぱ~い」」」」の中に冴子ちゃんの明るい声を確かに聞き、胸に迫るものがあったがグッと堪え、冴子ちゃんをさりげなく見守る。グラスに口をつけ液体が唇に付くまでは表情に変化はなかったが、液体を口に含むや冴子ちゃんは目を見開いた。その目が、嚥下で更に広がる。グラスから口を離し、驚きの表情で琥珀色の炭酸水を見つめる冴子ちゃんに、俺が種明かしをした。「それは、梅酒のソーダ割りという名前の、お酒なんだ」と。

 話は十数分前にさかのぼる。

 冴子ちゃんを招待しお茶会を開く計画を美雪と立てている最中、「冴子にも酒果を食べさせてあげられないかな」と美雪が閃いた。それイイネということになり、仮に冴子ちゃんが酔いつぶれても仕事に支障の出ない体制を作り上げてから、母さんにテレパシーで事情を伝えた。母さんは万全の支援体制を作った美雪を褒め、その上で酒果の件を快諾してくれた。母さんを始めとする大聖者たちは、人事を尽くして天命を待つの「天命」だと覚えていて、マジ良かったな。

 そう胸をなでおろしていたところ、今度は俺が閃いた。それが、梅酒。酒果の果は果物を指し、そして梅は果物だから、酒果の応用で梅酒も造れるのではないかと閃いたのである。さっそく母さんにそれを伝え梅酒の作り方を説明したところ、1千分の1秒も掛からず試作品が完成した。言い出しっぺは俺だししかも試作品とくれば俺が試飲すべきなのだけど、AⅠ用のデジタルお酒なのでそれは無理。母さんと美雪が試飲することになりハラハラしつつ見守ったところ、「「美味しい!」」とピッタリ揃った声を聞くことができた。それは嬉しかったが、好みに合いすぎたのか美雪がグラスを一気に傾けそうになったため慌てて止めた。口を尖らせる美雪を宥め、母さんに頼み炭酸水を出してもらい、ソーダで薄めたソーダ割りを二人の手元に置く。二人はそれを梅酒以上に気に入ったらしくグラスを一瞬で空にし、当然の如く二杯目をあおろうとしたため、それを阻止する俺とそこそこ熾烈な攻防が勃発したものだった。

 話を戻そう。

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