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その日の夜、準四次元で翼さんに会い、弓と指輪を贈った。翼さんがことのほか喜んだのは言うまでもないが、指輪は予想の二倍喜び、弓は予想の四倍喜んだことには様々な考察をせずにはいられなかった。その様々な考察は筒抜けにならぬよう心を隔離分割して行い、翼さんの様子を見るにそれは効果を上げているようだった。とはいえ翼さんは、俺の予想を超えた回数が断トツ1位の人。よって油断せず、さりとて大根役者にもならず対応していたつもりだったが、翼さんは断トツ1位の実力を今夜も遺憾なく発揮した。
「翔さん」「はい、何でしょう」「翔さんが嫌がるなら筒抜けスキルを決して発動しないのは事実ですが」「うん、承知しているけどそれは置いて事実ですが?」「別の言い方をしますと」「べ、別の言い方をすると??」「筒抜けになって翔さんが喜ぶ時のみスキルを発動することにしていますから安心してください」「わかった安心するよ・・・って、俺が喜ぶ!?」「翔さん、私」「ヒッ、翼さん近いです。でも深刻な顔をして、どうしましたか?」「良い匂いと思ってもらえると、天にも昇るほど嬉しいんです」「あれ、そうだったんだ。ああよかった、女性はやっぱ恥ずかしいんだろうなって、心配してたんだ」「ほら、喜んだでしょ」「ははは、確かに」「でも」「でも?」「天にも昇るほど嬉しいは翔さんだけですし、またあからさまにされると恥ずかしさが上回りますから」「上回りますから?」「これからもムッツリ助平の匂いフェチでいてくださいね」「ヒエエッ、ごめんなさい~~!!」
土下座した俺の前に正座しコロコロ笑って翼さんが明かしたところによると、俺が行った心の隔離分割は筒抜け防止力を有していても、完璧ではないとも感じるという。ただ隔離分割をした時点で翼さんはスキルを断固封印するから、それは信じてほしいとのことだった。もちろん信じるので上体を起こしそれを伝えようとしたら、三つ指を付いた翼さんが目に入った。翼さんは俺に、葉月さんとの交流を伏せていたことを詫びる。いやいや人には秘密があって当然だし、それに母さんが俺達に悪いことをするはず無いから全然気にしていない、お願いだから顔を上げてと俺は頼んだ。幸いすぐ顔を上げてくれたが、上体を起こす動作に伴い良い香りが一段と増し、俺はムッツリ助平の匂いフェチの惑星代表になってしまった。でもさっきの告白のとおりそれが嬉しいのか、翼さんはまこと上機嫌に、指輪は二倍弓は四倍の仕組を教えてくれた。
指輪を俺の予想の二倍喜んだ理由は、非常に単純らしい。「私が母上様を慕う気持ちは、翔さんが予想している二倍なのです」とのことだったのだ。改めて振り返ったところ、翼さんは母さんをこれくらい慕っているのだろうという予想を、俺は過去に幾度もしてきた。それが筒抜けになっても俺は不快ではないから筒抜けが完了していて、つまり翼さんは俺の予想と己の胸中を比較でき、その結果二倍と判断したということだったのである。二倍慕っているなら、俺には嬉しさしかない。然るにニコニコしていたら翼さんも負けぬほどニコニコし、そして四倍へ話題を移した。
弓を俺の予想の四倍喜んだ理由には、俺と翼さんの両方が関わるらしい。「まず翔さんの方は」と翼さんに明かされたところによると、大切なことなので繰り返すが「明かされた」ところによると、
「私が翔さんを慕う気持ちを、翔さんは半分に見積もっているのです」
とのことだったのだ。改めて振り返ったら・・・以下同文だし、恥ずかしいやら申し訳ないやらで一杯一杯なので割愛するとして、それでも申し訳なさが勝り項垂れていたら、その頭を翼さんに撫でられてしまった。贖罪も兼ねどうにでもなれ、と半ばやけっぱちで「撫でられて嬉しい」と素直に思っていたところ、思いがけずの大正解だったようだ。翼さんは全身でニコニコし、自分の方の理由に移った。それは一見、
「翔さんに弓をもらえたことは、予想していた二倍嬉しかったのです」
というように、二倍の二倍で四倍なのだと容易に計算できて一件落着しそうなことだったが、落ち着いて考えたら己のバカっぷりに呆れることになった。翼さんは「予想していた」と述べ、俺は当初それを「葉月さんに予め聞いていたから予想できた、という事なのだろう」と安易に推測したが、考えなしが過ぎた。翼さんはほぼ間違いなく「葉月さんに予め聞いていたけど、実際は予想の二倍嬉しかった」と述べたのであり、予想を二倍するに至った理由はまだ説明されていないのだから、一件落着にはほど遠かったのである。よって再び項垂れたらその頭を・・・から大正解の箇所まで以下同文なので割愛するとして、翼さんは予想の二倍になった理由を、なんと教えてくれなかった。しかも、
「秘密を秘密のままにしたいという葉月の願いは叶えたのに、私が同じことを願ったら、叶えてくれないのですか?」
とウルウルお目々で問うのだからたまったものではない。更にその上、右手の人差し指に光る指輪をうっとり見つめる翼さんと、
「こうして指輪をくれたのを機に、私を翼って呼び捨てにして」「却下」「どうしてよ!」
という会話までさせられたとくれば、背中に冷や汗が流れまくるではありませんか。得てして友情は深まれば深まるほど秘密を共有し合うものであり、ということは翼さんと葉月さんは、いったいどれレベルの赤裸々話をしているのか? 俺に冷や汗を流させることを目的とし、凄まじい赤裸々話をしていると考えるべきだろう。二人が仲良しなのは嬉しくとも、二人で結託して俺をイジルのは勘弁願いたい・・・・あれ? ひょっとして俺、この状況を喜んでいたりする??
との疑問だけは渾身の隔離分割で筒抜けを阻止した、俺なのだった。




