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 それも何でもの内というセリフにたどり着けば同性の友人は大抵丸く収まるのに、異性の友人は難しい。「そんなふうに優しくされると、言えないことが更に増えるではありませんか」と、非難顔をされてしまったのである。ハーレム俺も溜息を付くばかりで、助けてくれないしどうしよう。と頭を抱える寸前、閃いた。


「どわっ、ごめん。じゃあ順番抜かしで悪いけど、エインティータさんに訊きたいことがあるんだよね。質問していい?」「いきなりですが良いですよ、何でもどうぞ」「では遠慮なく、月子」「グハッ!」「美月、優月、月乃、月白、葉月、奈月、瑞月」「ドヒャ~~!」「とりあえずこの八つの中に、気に入った愛称はあったかな?」「お、落ち着くまで少し時間をください」「ごゆっくり」


 今回の「ドヒャ~!」も横倒れしそうになっていたけど、なぜこうも動揺するのだろうか? との疑問を顔に出してはならないことなら、いかな俺でも解る。したがって静かにしていたところ、エインティータさんは落ち着きを取り戻したようだ。続いてエインティータさんに請われるまま、愛称の候補を輝力で空中に描いていく。土地神は全員、振字を読めるんだね。読めるので蛇足かもしれないが、漢字の月子や美月も振字とセットで描いてみた。参考になる気が、いや決定打になる気が、なんとなくしたのである。

 それが、どうやら当たったらしい。エインティータさんはある漢字に目を見開き、胸に添える手を片手から両手に変えたのだ。最初の月子は右手を添えるだけだったが、その漢字を描くや左手も添えたんだね。呼吸も不規則になったが横倒れの気配はなかったこともあり、最後の瑞月まで描き終えた。エインティータさんは瑞月を2秒ほど見つめたのち、例の漢字に視線を固定しそのまま動かなくなった。我を忘れているらしく、凝視以外の一切の行動をしていない。その時間を利用し、凝視の訳を俺は考察した。そうはいっても、簡単だったけどさ。そして約十秒後、我に返ったエインティータさんが慌てて謝罪しようとしたのでそれを制し、


「葉月が気になるんだね」


 そう確認してみる。落ち着きを取り戻したはずなのに両手を再び胸に添え、黙って首肯したエインティータさんに心配が募ってゆく。う~ん、精神汚染になってたりする?


「翔さん」「はい、何でしょう」「精神汚染ではありません。妖精族に今訪れている変化の波を、さほど怖く感じなくなったことに驚いただけです」


 話題がやっと、最初に戻ったようだ。この話し合いは「妖精族に今訪れている変化の波を、怖く感じるように私はなってしまったのです」と打ち明けられたことがきっかけだったからね。最初に戻ったため振り返ったところ、エインティータという本名を教えてもらったり、弓を創ったり、真四次元で最も波長の高い世界に連れて行ってもらえたり、葉月という愛称の候補からエインティータさんがどの妖精なのかを推測できたりと、副産物がてんこ盛りの話し合いだったと改めて思い知らされた。美雪に指輪を贈ったことだけは隔離分割で考えたがそれは置き、「さほど怖く感じなくなったことに驚いただけです」に肯定的な首肯をするに留め発言を控えたことは、正解だったようだ。にっこり頷き返したエインティータさんは、葉月から始まる比較的長い話をした。

 それによると予想どおりエインティータさんは、植物全般を担当する妖精だった。植物には菌類も含まれ、そして菌類に葉はないが、「葉という漢字にどうしようもなく魅せられたため許してもらおうと思っています」とエインティータさんは苦笑していた。

 俺との話し合いにより、妖精族に訪れている変化の波へ、エインティータさんは新しい見解を二つ得たという。一つは、「ほぼ知らなかった人族を知るようになったのだから妖精族が変化して当然」ということ。もう一つは、「妖精族に訪れている変化は成長と言い換えられる」ということらしい。妖精族は、誕生時は無知だが日が経つにつれ様々なことを知り、成長していく。その成長も変化なのに、人族と関わることで訪れた変化を自分は恐れてしまった。恐れにより思考停止していたが冷静に考えると、恐れる必要はないと理解できたそうだ。もっとも理解できたことを、驚いたそうだけどさ。

 俺と翼さんの出会いに、なぜああも衝撃を受けたのか。当初エインティータさんはそれへ如何なる推測もできなかったが、翼さんと会話したらすぐ判り、またそれを介して翼さんと意気投合することができた。容姿を変えたら二人はいっそう仲良くなり、エインティータさんのテレポーテーション能力は二人の絆を益々深めていった。翼さんの真似をして振袖を着ても、翼さんの真似をして月の柄を帯にあしらっても、翼さんは喜ぶだけでマイナスの感情を欠片も抱かなかった。それが嬉しくてならず、翼さんの涙ぐましい努力を過小評価していると俺に八つ当たりしたが、八つ当たりによって貴重な学びと素敵な愛称を得ることが出来た。それ自体も非常に貴重な学びであり、その学びを活かすためにも、激しい感情を今後も俺にぶつけていきたい。「許してもらえますか?」とウルウルの眼差しで問われたら、許さない訳ないではありませんか。ウルウルでなくとも、許容一択なんだしさ。と胸を叩いたところエインティータさんは「ではさっそく」と、解るような解らないような、裏があるような無いような、当然のような騙されたようなお願いをした。


「翔さんは私を、普通の女の子にしました」「う、うん。そうなんだ」「女の子には、沢山の秘密があるものです。どうでしょう?」「そりゃそうだ、完全同意だよ」「ありがとうございます。だからお願いなんですけど」「おお、任せて」「私が秘密にしたいと願ったことは、秘密にしたままでいいですか?」「もちろん良いさ、じゃんじゃん秘密にしてね」「うわあ、ありがとう! ついでにお願いをもう一ついい?」「おう、任せろや!」「私のことを、葉月って呼び捨てにして」「あ、それは却下」「どうしてよ!」


 それから俺と葉月さんは、喧々囂々の言い争いを延々した。言い争いをするだけで、それ以外の話題は一切上らなかったな。多分これも「秘密にしたまま」の一つなのだろう。

 でも知りたいことは全部知れたし、今は夏季休暇中だし、何より新しい妹ができたみたいで嬉しかったから、その時間を俺はただただ楽しんだのだった。

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