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 話を戻そう。

 桜子さんの研究発表のお陰で・・・そうそう「お陰で」を「何々のせいで」という意味で誤用していた子供が凄まじく多かったのも、あまりにも酷かった。俺が子供の頃は、ありがた迷惑の場合のみ「お陰」を使い誤用を避けていたのに、俺が地球を去ったころの子供達は、その区別を付けられなくなっていたのである。本来の意味のお陰を日常的に意識していれば、こんな誤用は避けられたはず。自己評価があり得ぬほど高く慢心していることと「本来の意味のお陰を日常的に意識していない」ことは、ピッタリ符合するとしか思えなかった前世の俺だった。

 今度こそ話を戻そう。

 桜子さんの研究発表のお陰で、講師を辞すことを俺は思い留まった。勇と舞ちゃんと翼さんが講義に加わったのはその後のことだし、桜子さんには感謝してもしきれない。桜子さんと友人の方々が、次の星で幸せに暮らしていますように。

 そうそう、桜子さんの研究発表への感謝はもう一つあったんだった。翼さんの努力に報いる方法っぽいものを、思い付くことが出来たのである。ただそれは少し複雑なため、考えをまとめるには整理が必要だろう。

 桜子さんは「極めて優秀な能力が仇となり、体を清潔に保とうとする男性の努力を過小評価したり、男性の悪臭への嫌悪を過度に唱えたりする女性が稀に出る」と説いた。それが逆も真なりとして、エインティータさんに作用していると俺は感じたのだ。つまり、


『努力せずとも悪臭にならない妖精は、悪臭を排除する努力を過大評価しがちになる』


 ということ。桜子さんの説のとおり、清潔さを貴ぶ気持ちは女性の方が強いと俺も思う。ただ、好意を寄せている人にクサイと思われぬよう努力することに、男女の差は少ないとも俺は思う。よって繰り返しになるが「女性の方がニオイ対策を懸命にする」ことに異論はなくとも、それを「涙ぐましい努力」とまでは男は思わない。なぜなら一生懸命さに差はあれど、同種の努力を男もするからだ。アラフィフで亡くなった前世の俺も加齢臭で周囲の人達を不快にせぬよう、それはそれは努力していたしね。

 とはいえ、これをド直球でエインティータさんに伝えるのは難がある。よって保留とし、翼さんにどう伝えれば良いかを考察しよう。これにも桜子さんの発表が役立ち、それは最後の「それでも声高に語られたら配慮不足による低評価を免れませんが、密かに思うことまでは禁じませんし、配慮不足による低評価もしません」の箇所だ。ぶちまけると俺は、出会った女性の中で翼さんだけが纏っている、甘く涼しげな香りが超好きだ。大好きを越える超好きだと、俺は胸を張って言える。その胸を張っている俺を、まこと羞恥の極みだが、翼さんは知っている。というか、すべて筒抜け状態だ。筒抜けを恥ずかしく感じても嫌ではなく、そして嫌でないなら筒抜けなことを俺は認めているから、マジもんの筒抜けなのである。然るに、


「翼さんが涙ぐましい努力をする理由の一つは、筒抜けによって知った俺の本音が、嬉しいからではないか」


 とも俺は思うんだよね。輝力ハープを創るさい、衣装部屋を兼ねる第二私室に翼さんが罠を仕掛けていたのも、俺の説の正しさを後押しする気がする。といっても筒抜けスキル未収得の俺に、真相は分からず仕舞いなんだけどさ。という訳で翼さんへの対応はだいたい決まったので先ほどの保留を解除し、


「さあこれら大量のアレコレを、エインティータさんにどう伝えれば良いのだろう」


 俺は心の中でそう独りごちた。隔離分割した心を準四次元に飛ばして高速思考しているから待たせてはいないけど、返答をそろそろせねばならないのも事実。三白眼のエインティータさんにこれ以上睨まれたら、泣いちゃいそうだしね。さあどうしよう?

 と悩んだけど、結局俺はテレパシーで全部伝えることにした。かなりの量の情報になることを予め謝ったのち、アレコレを一気に送る。するとエインティータさんは、イラッとした表情と反省の表情の混ぜこぜ顔になった。イラッは「悪臭を排除する努力を妖精は過大評価しがち」で、反省は「前世の俺も加齢臭で周囲の人達を不快にせぬよう努力していた」かな? との予想は当たり、前世の俺の努力も涙ぐましく感じたことをエインティータさんは正直に明かした。俺は不意打ちで、テレパシーをもう一つ送る。それは地球で出会った、自分の非をどうしても認められない人達の様子だった。エインティータさんは二度目の混ぜこぜ顔になり、それは侮蔑と同情によって形成されていた。同情と言ってもその人達を労わったのではなく「地球ではさぞ苦労されたのでしょう」という、前世の俺への労わりだった。テレパシーなどないと信じ込んでいる地球人は、自分の非を認められない人が汚物のような感情を周囲にまき散らしていることを、知らないんだよね。けどまあそれは6万光年離れた星の出来事なので放置し、俺は話を進めるべく行動した。


「テレパシーで見てもらったように、俺は胸中が翼さんに筒抜けでね。恥ずかしいけどそれが翼さんの努力の報いになっているなら、筒抜けのままでいいって考えているんだ。ということで、収めてもらえないでしょうか」「もちろん収めます。人族のことを知らな過ぎ、ごめんなさい」「いいっていいって、俺も妖精族のことを知らないしさ。それに元地球人の俺は、人族に関わると妖精が汚染されてしまうことに心底同意できる。関わらなかったお陰で汚染を免れ、その結果人族を知らないなら、俺にとってそれは喜ばしいことなんだよ。この星の人々とも関わらないほうが良いと妖精族が判断したなら、俺はそれを支持する。エインティータさんと交流できなくなることは、寂しいけどさ」「翔さん」「うん、何でも言って」「いえ、何でもは言えません」「ははは、それも何でもの内だよ」

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