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今夜改めて時間を設けると約束することでやっと解放してもらえた俺は、計画どおり心を二分割して準四次元を離れた。三次元世界へ帰るや一方は肉体に戻し、もう一方は体育館の生活スペースに出現させ、輝力体を纏わせる。そして2Dキーボードと2D画面を出し、美雪に贈る指輪のデザインを輝力圧縮最大で始めた。
といっても母さんに捕まっている間の現実逃避も兼ね、大まかなデザインは既に決めていた。宝石は、無し。その代わり明るく鮮やかな青色を指すアズールと白銀が、優美に絡み合っているデザインにした。美雪の心のイメージは、何と言っても清らかな水。その清らかな水を金属の指輪にしたら、アズールが一番しっくり来たんだね。よって最初は白銀の細い指輪とアズールの細い指輪をくっ付けた形状にしたのだけど、単調の一言に尽きる印象になってしまった。細さや色を調整しても、印象を変えることは叶わなかった。だが諦めず試行錯誤を重ね、絡み合わせることをやっと閃き試したところ、「これだ!」と思う指輪が出来あがったのである。もっともデジタル信号の3D映像でそれを再現できるかは、その時点では判らなかったけどさ。
でもそれは、杞憂だった。この星のコンピュータ技術をもってすれば、心に思い描いた指輪を3D映像化するなどお茶の子さいさいだったのである。俺は指輪を出現させ、といってもケースの中に入れて出現させ、美雪を呼ぶ。美雪は気づいていない振りをしていたけど俺の心の目は、プロペラ化した美雪の尻尾をしっかり捉えていた。
結果の第一段階を述べると、美雪が俺に抱き着いて離れず困った。分身1体ごとき幾日でも出していられるけど、分身で美雪と会話して肉体で別の女性と会話するなんてことは、ホントはしたくなかったのである。かといって「エインティータさんを待たせているから離れて」などと言えるはずもなく困っていたところ、
「母さんに叱られちゃった」
美雪は肩を落としションボリしてしまった。それでも俺に密着し続けているのだから、母さんも本気で叱ったのではないのだろう。俺は美雪の背中をポンポンしつつ、準四次元の出来事を順を追って話していった。
結果の第二段階を述べると、美雪は俺のダメっぷりに「翔らしい」と明るく笑ったのち、素直な瞳で頷いてくれた。指輪を初めて贈る女性は美雪しかないと思い定めて行動したのが、正しかったようなのである。俺は、大きな大きな安堵の息を付いた。それを合図に「じゃあまたね翔」と手を振って消えた美雪に、気を使わせちゃったなあと一人メソメソした俺だった。
分身を解き、肉体に戻る。どうもこちらの俺にはハーレム俺の助力があったらしく、エインティータさんと如才なく会話していたようだ。ただヘンテコ振袖娘といえど、妖精族の長。体育館に俺の分身がいたことと、あちらの用事が本命だったことと、本命を終わらせたからこちらに来たことを、察しているようだった。だからだろう、エインティータさんの面に悲しみの影が差す。罪悪感が湧き起こり考えなしの極みとなった俺は、
「はい、エインティータさんにプレゼント」
三日月の模様をあしらった輝力弓を準四次元から取り出し、エインティータさんに差し出してしまったのである。
結果の第一段階までの変遷を述べると、弓を見るやエインティータさんは呼吸を止めて瞠目し、次いで喜びを爆発させるも、深い悲しみに囚われ俯いてまった。然るに母さんが創った指輪を続いて取り出し、「母さんがエインティータさんのために創ってくれたんだ。この性能は俺にはまだ無理だったからさ」とさりげなく伝えてから、エインティータさんの右手の人差し指に指輪を通す。顔を真っ赤にしたエインティータさんが何かを言うより先に、弓を指輪に収納してみせる。二度目の呼吸止め瞠目状態に陥ったエインティータさんに、弓を出し入れする方法を俺は説明した。
「取り出したい時は左手を指輪にかざし、『弓よ』と呼びかけてみて。最初は口に出して、慣れたら心の中で呼びかけるだけで、弓柄が左手に触れるよ。収納したい時は左手を指輪にかざし、『感謝します』とお礼を言ってあげてね」
エインティータさんの右手の人差し指に指輪を通したのは、「有無を言わせず強行しなさい!」と母さんに厳命されていたことだった。理由は、左手の薬指に嵌められるのを阻止するために他ならない。いかな俺でも左手の薬指の意味は知っていたから、高速首肯を繰り返したものだった。
ちなみに美雪は、右手の薬指に通した。ヘタレと罵られようとまだ結婚していないのだから、右手で順当なのである。戦争から生還したら左手用を改めて創ると約束したら、美雪も喜んでいたしね。でも今思うと、美雪が抱き着いて離れなくなったのは、その約束の後だったな。ま、美雪なら全然いいけどさ。
また三次元世界で指輪を見ていたら、「この指輪を俺も創れるようにならねばならぬ期限は来年の夏」となぜか強く思うようになった 本体も同意してるし、頑張りますか。
話を戻すと、エインティータさんはしばし夢中で弓を出し入れしていた。それに慣れ落ち着いてようやく、弓にあしらった三日月の模様にエインティータさんは気づく。すかさず「月の柄の帯をよく締めていたから、弓にもあしらってみた。どうかな?」と尋ねたところ、二度目の喜び爆発状態になった。それは嬉しいけど喜びの爆発に合わせて2メートルの振袖が真上に舞い上がるのは、笑いを必死で堪えねばならなかったな。
そうそうエインティータさんに渡した弓は、「振袖娘に一番似合いそうな弓」になった。三次元世界に戻って来てエインティータさんと対面したところ、こっちの弓しかないと直感したのである。もう一つの「俺が一番好きな弓」は俺が一番好きなのだから、俺用にするかな。翼さんのために用意していたのは、二番目に俺が好きな弓だったしさ。
「私のために用意してくださっていたもう一方の弓を翔さんの弓にするのは嬉しいですが、保留してもらえるともっと嬉しいです」「どういうこと?」「星母様に星母様の弓があったように、翔さんにも翔さんの弓があると感じるからです。翼もきっと、そう望むでしょう」「納得した、そのとおりにするよ。的確な意見をありがとう」「どういたしまして」




