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「前言撤回します。私は、どうしようもないバカ息子を持ってしまったようです」


 母さんはその後、眉間を指で抑えつつこんなことをブツブツ呟いていた。「恋愛関連に限ったバカ息子だから、まだ救いがあるのかしら。いいえ今生の環境が特殊なだけで、普通なら女心に疎すぎ、刺し殺されていたかもしれないわね。かといって手を差し伸べたらバカを促すかもしれないし、でもこれほど酷いとなると教育を一からし直す必要が・・・」 一方俺はどうしていたかと言うと、ほんの数秒前まで己のバカっぷりに心底呆れていたのが功を奏し、落ち込むより母さんの呟きの意味を解明しようと躍起になっていた。そうは言っても筆頭大聖者にバカ息子認定された俺に解明できたのは、たった一つしかなかったんだけどね。しかし予想に反し、母さんはそれを口にするよう命じる。俺は伝わり易さを最優先し、解明したことを説明するのではなく、今後の計画を述べることにした。


「母さんを見送ったら、意識を二つに分けて三次元に帰ります。一つは肉体に戻しますがもう一つは体育館の生活スペースに出現させ、輝力体を纏わせ、美雪に贈る3D指輪を輝力圧縮最大で創ります。そうすれば、俺が指輪を初めて贈った人は美雪になるからです。それでも二番目に贈った女性と三番目に贈った女性が現れたら、美雪を悲しませてしまうでしょう。よって母さんが二つの指輪を創ったことと、エインティータさん用の指輪は俺の能力を超えていたことと、バカな俺の失敗を埋めるために母さんはそれをしてくれたことの三つを、美雪にしっかり説明します。美雪が納得してくれたら二分割した意識を一つに戻し、バカな俺の失敗等々をエインティータさんに明かした上で、『母さんが手ずから創った指輪』を渡します。これが俺の、今後の計画です」


 母さんは美雪を悲しませないために指輪を二つ創造したのに、その気遣いをバカ息子が微塵も理解していなかったことがあの呟きの真相と思ったけど、当たっていたかな? とオドオドしていたのは、杞憂だったらしい。バカ息子に向ける憂いの眼差しを困った息子に向ける苦笑の眼差しに母さんは変え、「賛成します。落ち着いて成し遂げるのですよ」と励ましてくれたのである。安堵の息をついた俺に、質問の有無を母さんは問う。その声が内包する名残惜しさをいつも以上に感じた俺は、今日の授業とは無関係だが訊けるのは母さんしかいない質問をする許可を請うた。機嫌よく頷いてくれたので、尋ねた。


「先日準四次元で、翼さんを前世の俺の出身大学に招待したら、予想以上に喜んでいました。俺が知らないだけでヨーロッパには、出身大学に関する特別な風習があるのですか?」「風習とまではいかないけど、恋人以上の関係になることを意識し始めたことを相手にそれとなく伝える手段として、出身大学に招待することを選ぶ人はいるわね」「・・・あの件で俺は翼さんを傷つけてしまったでしょうか?」「翼の傷心を何より憂えた心に報い、答えます。翼はあの件に罪悪感を覚えていますから、触れぬが得策です」「罪悪感ですか?」「あの講堂に連れていかれたらハープを自然に演奏して翔のバイオリンとセッションすることを、あの子は幾度もイメージトレーニングしていました。それが創造力となり翔の選択を歪めてしまったのではないかと、あの子は苦しんでいるのです。そんなことは無いと私が伝えておきますから、翔は掘り返さないようにね」「重ね重ね、ありがとうございます」「ふふふ、いいのよ」


 恋人以上の関係になることを意識し始めたことを相手にそれとなく伝える手段に悩んでいた大学時代の友人は、大勢いた。住宅展示場に連れて行ったら成功した等々の惚気話を、酒の席で俺は散々聞いていたのである。己のダメっぷりに、肩を落とさずにはいられなかった。

 そんな俺を励ますためなのかは判らないが、母さんは素っ頓狂なことを俺に問いただした。「それはそうと、出会った頃の6歳の自分になる練習をしましたか?」 チューリップ畑バカンスで酔っぱらった母さんにウザ絡みされた件を記憶の奥深くに封印していたことが仇となり「へ?」と首を傾げてしまった俺は、ホント救いようがないのである。


「酷い、練習していないのね。信じてたのに」「いやちょっと待って。アレって酔っぱらいのウザ絡みじゃなかったの?」「酔っぱらいのウザ絡み、酔っぱらいのウザ絡み・・・ビエ~~ン!」「ドワッ、ごめんなさいごめんなさい、すぐなります!!」


 ビエ~~ンと泣かれることにめっぽう弱い俺は渾身の早変わりで6歳の自分になった。と同時に「聴覚以外全遮断!」と裂帛の気合で命じられたためそのとおりにしたところ、左耳が母さんの心臓の鼓動を捉えた。慌てるより、得も言われぬ安堵に心身を満たされたことに危機感を抱くも、その後母さんが語った内容は、この状況以外では聴けなかったと納得したのも事実だった。母さんはだいたい、こんなことを語った。


『俺が創造した弓は、人類軍が闇族との戦争に負けたとき、母さんが武器として使う弓だった。母さんなら放った弓でも、闇王を倒せるからだ。またこの弓には唯一の特徴があり、それは「この弓で参戦する限り母さんはこの星を去らなくて良い」という因果をもたらすことだった。理由は、戦死した息子の代わりに母親が闇族を葬るのは妥当と、創造主が認めたことにある。それもありこの弓を保管庫から降ろして創造できるのは、宇宙に俺しかいなかった。技術的に可能な人は多数いても、息子は俺しかいなかったからだ』


 そう言われても、俺は闇王に敗北しない。万難どころか億難兆難を排し、必ず勝ってみせるのである。そう決意表明したら母さんの鼓動が早まり、かつ鼓動の音源が右へ左へ明らかに揺れた。おおかた喜ぶあまり、俺の頭をギュウギュウしているのだろう。親孝行と思えなくもないが、そろそろ逃げねばと焦り始めたのが本音。前世を思い出した昇はたった3歳にも拘わらず鈴姉さんの抱擁から逃げまくっていたのに、中身が45歳の俺がこのままでいたら、大切な何かを失ってしまう気がしたのだ。よってきっかけとなる言葉を必死で探しやっと見つけるも、時すでに遅し。母さんに先手を取られてしまった。


「翔のことだから弓をきっと降ろしてくれるって信じてたけど、まさかエインティータの弓のオ! マ! ! ケ! ! ! で降ろされちゃうとはね」「ま、まことに申し訳ございません」「いいのよ、こうして私にプレゼントしてくれたんだからね。そうそう、翔は何か言いたげにしていたけど、どうかした?」「いえ、特にございませんでございます」


 そりゃ事実だけど、ショックだったのも分かるけど、オマケをそこまで強調されたら何も言えないではありませんか! との叫びを心の中でしかできない、ヘタレな俺だった。

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