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 歩を進めるほど廊下の波長は高くなり、それに伴い開いているドアが少しずつ減っていった。波長の高い工芸品ほど降ろしにくく、またきちんと降ろされた物のドアだけが開放される、といったところだろう。ならばこの弓のように、二段階で降ろされた物のドアはどのように開いたのか? いやそれ以前に、閉じたドアの向こう側はどうなっているのかな? 興味を覚え分割した意識で考察しているうち、先頭の母さんが廊下の突き当りの区画に足を踏み入れた。と同時に、その足がピタリと止まる。この区画は波長がとりわけ高く、開いているドアは二枚しかない。ということは、どちらかがあの弓の保管部屋だったということ。なのになぜ、その手前で母さんは立ち止まったのか。可能性の一つが脳裏を駆け、邪魔せぬよう話しかけなかったのは正解だったらしい。母さんの正面に、時間を巻き戻した映像が映し出されたのである。向かって右側のドアが閉じているその映像は、三次元時間に換算するとコンマ数秒前のもの。そのドアがゆっくり開き始め、九割がた開いたところで一旦止まるも再度動き出し、完全に開き切ったところで映像は終わった。振り向いた母さんの表情が、とても温かい。こそばゆさを覚えつつ、推測を述べた。


「廊下の途中に、九割がた開いたドアが一枚だけありました。台座に乗せられた工芸品を一瞥した限り完成しているように見えましたが、配色等の差異があったため完全開放に至らなかった。ということでしょうか」

「正解。この星とは異なる星の、科学技術関連のドアを1千倍速で見てみましょう」


 投影された映像に、俺は瞠目した。途中まで開くも再び閉じてしまうドアが、予想以上に多かったのだ。その中の一つにカメラが近づき、四割ほどしか開いていないドアを潜り抜け内部に入っていく。部屋の中央の台座には、エンジンもしくは発電機の気配を纏う工業製品が乗せられていた。が、作動しないのは一目瞭然だった。部品や配線のチグハグさが半端なかったのである。それでも形だけは保っていたけど、ふと輪郭がぼやけ始める。と同時にカメラは工業製品から離れていき、ドアが閉じる寸前の最後の映像には、形を保てなくなった工業製品が霧散する様子が映し出されていた。


「あの工業製品は、疑似永久発電機。あの発電機があれば惑星全土が一変したのに、惜しいことをしたわね」


 脳裏を「その惑星は地球だ!」との確信が駆けるも、口にできなかった。映像の途中から、母さんの柔和な表情が悲しみのそれに変わっていたからである。

 重度の中二病だった前世の俺は、「石油依存社会を終焉させる数々の発明をロックフェラ〇財団が握りつぶしている」系の都市伝説を幾度も目にした。でもそれは今思うと、実否半々だったのかもしれない。事実が半分あると判っただけで前世の俺は「ロックフェラ〇財団め~」と、怒りを露わにしたはずだけどさ。

 母さんによると工業製品を降ろすには、相応の科学理解力が必須らしい。さっきの疑似永久発電機の3D設計図はほぼ完全な形で某学者の心に降りるも、理解力不足ゆえにぼやけていき、不完全な造形になってしまったそうだ。

 話を戻そう。

 おそらく地球の映像が終わったのを機に、母さんは歩みを再開した。そして開け放たれた右側のドアを潜ったところ、あの弓を台座に乗せた光景が目に飛び込んできた。俺は弓と、意識の中でハイタッチを交わす。息がピッタリの俺達に母さんもニコニコしているし、良かった良かった。

 と安堵したのは、油断だったのだろうか? 準四次元に戻るや弓の材料にしたナノマシン搭載オリハルコンについて、母さんが玄人はだしの質問を突如してきたのだ。いや、違うか。マザーコンピュータを依り代にしている筆頭大聖者の母さん以上に科学技術に詳しい人は、この星にいなかったのである。母さんにとったら旧石器時代晩期に出現した新石器ほどでしかないだろうが、翼さんのハープに使われていた「木材代替オリハルコン分子」から着想を得た俺独自の分子構造を、脳味噌を振り絞って説明していった。

 のだけど、説明をどうにかこうにか終えたとき母さんが浮かべていたのは、呆れ顔だったんだよね。半ば予想していたお陰でショックは少なかったけど、少ないだけだったなハハハ・・・と心の中でこっそり俯いていたら、頭をペシンと叩かれた。ツッコミの達人の如きその絶妙な力加減に、希望が芽生える。弓も「やったねウエ~イ!」とか言ってるし、気分は益々高まっていった。そんな俺に「この子ほど胸中を素直に出す子は私でも見たことないわ」などと素っ頓狂なことを宣いつつもどこか誇らしげに、母さんはオリハルコン弓の分子構造について説明した。

 それによると俺が閃いた分子構造は、古代アトランティスの最盛期に理論上存在していただけで実体化されることなく忘れ去られた分子構造とのことだった。理由は当時の技術をもってしても、準四次元の性質である想像即創造を純粋な機械技術で再現するのは量子レベルが上限だったため、試みるのは数億番目というほど後回しにされたかららしい。言われてみれば確かにそうで俺が三次元に具現化できるのは、輝力製楽器と同じく輝力弓が精一杯だったのである。一応ケースも創ったから出し入れ自由・・・・ヤバ!!


「フフフ、翔はやっと気づいたようね」「母さん俺、今ほど自分のバカっぷりに呆れたことは無いかもしれません」「そんなこと無い、私が保証します。でもそれとは別に、己の至らなさを素直に受け止める翔で、これからもいてね」「了解です母さん!」


 尻尾をプロペラ化した俺に笑み崩れた母さんは、左右の掌を胸元あたりで上に向けて目を閉じた。その2秒後、輝力製の二つの指輪が左右の掌の上に一つずつ出現した。右の指輪には翼の模様があるから翼さん用、左の指輪には三日月の模様があるからエインティータさん用と考えて間違いないだろう。それにしても母さんの優しさには頭がさがる。エインティータさんでは準四次元から弓を取り出せないことを失念していた俺の代わりに、弓を出し入れできる指輪を創ってくれたんだからね。エインティータさんだけでは不公平になるから翼さんの分も用意してくれたなんて、母さんはマジ女神様だな!

 と心の中で称賛しまくっていた俺に、母さんは「前言撤回します」と溜息をついた。


「前言撤回します。私は、どうしようもないバカ息子を持ってしまったようです」

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