表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/670

四章 7歳4月のテスト、1

 翌、4月1日。

 当初の予定より二十分早い、午前8時。

 4年間お世話になった俺専用の訓練場の隅に並んだ俺と美雪と虎鉄は、


「今までありがとう~」

「ありがとう~」

「にゃにゃにゃ~~~」


 並んだ順に訓練場へ別れを告げた。次いで俺は虎鉄に顔を向け、自分の右肩をポンと叩いてみせる。俺達はこれから、壁に架けられた梯子(はしご)を登り、訓練場を去る。よって肩に乗るよう虎鉄に意思表示したのだ。「ニャッ!」と軽快な声が返って来たので、肩に乗ることを喜んでくれたらしい。と思っていたのに、


「ニャハハ~~!」


 虎鉄が身を落ち着かせたのは、なんと俺の頭だった。うなじに後ろ足を乗せ頭頂に前足を置き、後頭部側から覆いかぶさるように乗っかったのである。呆気にとられポカンとしていたら、「梯子を早く登るニャ!」とばかりに前足の肉球で頭頂をペシペシ叩かれてしまった。肉球のプニプニ感が心地よく、これはご褒美なのではないかとおバカなことを考えているのがバレたら、肉球ペシペシを二度としてもらえないかもしれない。俺は壁に架けられた梯子に急いで近づき、スルスル登っていった。といっても壁の高さは3メートルしかないので、頭に乗っている虎鉄の目線は、4秒かからず壁の上部を越えたのだろう。虎鉄はターンと跳躍し、先に行ってしまった。置き去りにされた俺は仏頂面で、梯子を引き続き登っていく。だがそれも束の間、


「うわ! 広――― い!!」


 梯子を登りきるや、俺は感嘆の声を上げた。真っ平な土地が、見渡す限り続いていたからだ。その広さはまさしく想像を絶し、360度グルリと見渡しても、たった一つの山すら認められない。しかもどの方角へ目をやっても、地平線は中央がほんの少し盛り上がる僅かな曲線を描いていた。そうそれは、この星が球形をしている証拠だったのである。壁の上部に立ち、周囲を今一度見渡した俺は、二度目の感嘆を上げずにはいられなかった。

 そうこうするうち、美雪も壁上部に現れた。俺達が今いるのは、体育館に隣接する壁の上。ホント言うと体育館と壁上部を繋ぐ橋が架けられているので、それを渡れば梯子を登らなくて済んだのだけど、壁の上から眺める景色をまるっきり忘れていたこともあり、橋を使いたくなかったのである。ほら梯子って、なぜかワクワクするからさ!

 そうそう、「ホント言うと」との言葉を使ったので、この言葉をもう一度使う必要があることを白状しよう。ホント言うと周囲の景色は、真っ平ではない。林の木々や体育館が100メートルごとに出っ張っているし、また訓練場の部分は凹んでいるからね。けどそれはいいとして、


「さあ出発だ」

「そうね、行きましょう」

「ニャッ!」


 先頭を虎鉄、次に俺、殿(しんがり)が美雪の一列縦隊で、俺達三人は孤児院までの二キロの道をサクサク歩いて行ったのだった。


 訓練場を囲む壁は高さ3メートル、厚さも3メートルある。その厚さがそのまま幅3メートルの道になっており柵もないため、気を抜きすぎるのは厳禁と言えよう。しかしこれでも4年間鍛えた身なので、うっかり落下するなど決してない自信があった。その自信が油断だよと指摘されたら、それまでなんだけどさ。けどまあ、それは再度いいとして。


「姉ちゃん。隣接する孤児院の訓練場は、間隔が67メートルで統一されているとか?」


 美雪にそう尋ねてみた。この星の孤児院には、孤児院ごとに1キロ四方の訓練場が設けられている。それを100等分して一人一人の専用訓練場にしていると教わっていたが、壁の厚みが3メートルなのだから、正確には1033メートル四方と推測される。その上でお隣の孤児院の訓練場へ目をやったところ、70メートルに少し足りない隔たりがあった。仮に隔たりを67メートルにしたらピッタリ1100メートル四方になるので、推測の正誤を知るべく尋ねてみたのである。すると、


「ええそうね、67メートルよ。ちなみに3歳から20歳までの全ての訓練場を合わせたら、どれくらいの面積になるかしら。概算でいいよ」


 と問われてしまった。そんな暗算無理だよと天を仰ぐも、やってみたら自分でも驚くほど計算が捗り、五秒かからず概算を出せた。


「一辺1000キロの正方形で少し足りないくらいだね・・・・って、1000キロ?!」


 だが悲しいかな、脳は高性能化しても心が残念なままの俺は、自分の暗算を信用しきれなかったのである。けど、それも仕方ないと思う。この星には土地勘がないため前世の日本を用いると、種子島の中央部から東京までの直線距離が1000キロ、というのがイメージしやすい。そしてそれを正方形とする面積は、日本の面積の約2.64倍になる。そんな途方もない広さが暗算で出たのだから、信用できなくても仕方なかったのだ。因みに日本の面積は「皆、泣くな」が覚えやすい。「みな、なくな」で37万7970平方キロだね。2.64倍を「風呂よ」にして、7970の最後の0を「お」にすると、「みな泣くな、お風呂よ」とセットで覚えられることを孤児院の弟や妹たちに教えたら、喜ばれたな・・・・と、それは後でゆっくり思い出すことにして。


「姉ちゃん。暗算に自信をもてないんだ、計算機を使っていい?」


 ヘタレな俺は、計算機の使用許可を求めた。美雪が苦笑して頷くや2D計算機を出し、87.5×1.21=105.875との解を得てもまだ自信を持てなかった俺は、前世の自分に戻り声を出しつつ検算してみた。


「3歳から7歳までは全員が訓練場を持っているので4000万人、7歳から13歳は半分になるので3000万人、13歳から20歳は半分の半分で1750万人、合計8750万人だ。100人につき1.21平方キロだと計算が面倒だから1平方キロにして、それを後で1.21倍しよう。すると87万5000平方キロになり、それを1.21倍すると、105万8750平方キロ。これを正方形にするには平方根すればよくて、平方根は約1029キロか。最初の暗算、やっぱ合ってたんだな」

「翔、落ち込んだみたいね。でも、それが正解よ」

「え? 落ち込むのが正解なの?」

「正確には、今の気持ちを忘れないのが正解ね。翔が暮らす次の孤児院に、今の暗算を5秒未満でする子は、ほぼ間違いなくいない。戦士になるのを早々に諦めて理系の勉強をしてきた子にはいても、戦士を第一目標に頑張ってきた子には、いないと思うの。だから翔が脳の性能を遺憾なく発揮したら、11歳という精神年齢を考慮すると、反発をくらう可能性をどうしても消せない。今の翔のように落ち込んだことを悟られたくないという気持ちが、翔への反発になっても11歳では仕方ないのよ。だから皆と仲良くなって強固な信頼を築くまでは、『能ある鷹は爪隠す』を心がけた方が良いと私は思うよ」


 合点がいき同意を示したのち、ようやく気づいた。


「あれ? 反重力エンジンの下準備は、どこですればいいのかな?」

「ふふふ、やっぱり翔は覚えていないのね。孤児院には、学習用の個室が一人一室あるわ。下準備は、そこでしましょう」

「じゃあ姉ちゃんとまた二人で勉強できるんだね、やった~~!!」

自民党は憲法に、国家緊急権を導入しようとしています。そのためには国会議員の3分の2に賛成されたうえで、国民投票で過半数の賛成を得ねばなりません。


その布石として前回の後書きに書いた「まんまと騙された人」を、影響力のある人と接触させ、自分達の支持者にするということを自民党はしています。


名前は伏せますが某団体のトップにいる人が、その接触によって自民党を支持するようになった経緯を、ユーチューブに上げていますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ