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 ビクビク震える体で土下座しヒエエッゴメンナサイッッと謝ったことは、許してもらえる返答に指先がどうにかこうにか触れたらしい。「翔君の申し開きの場を今夜0時、準四次元に設けるわ」との譲歩を引き出すことに、俺は成功したのだ。即座に二度目の土下座をして、舞ちゃんに謝意を伝える。舞ちゃんは怒りに身を震わせつつも謝意を受け入れ、3D電話を切り消えていった。舞ちゃんの体の震えが怒りに由来するのは一目で判ったのに、自分の体の震えが何に由来するのかを、俺はなぜ判らないのだろう? との疑問の解明は後回しにしていい気がしたのでわななく指を懸命に動かし、勇に3D電話をかける。勇は俺の映像を見るや非常に驚き、まあ分かっていたけど驚く様子から、バイオリンを弾けることを舞ちゃんに洩らしたのは勇ではないと考えて良いみたいだ。洩らしたとしても勇なら、複数の理由により全然いいんだけどさ。

 それはさて置き、ついさっき舞ちゃんと交わしたやり取りの一部始終を俺は勇に伝えた。勇は深い思案の顔になり、しばし押し黙る。そんな勇を見ていたら、本日二度目となる解明できないことが起こった。体の震えが、ピタリと止まったんだね。こっちは一度目の不可解より高難度な気がして、望むところだと内心ワクワクしていたら、


「おい翔、心の中で何をワクワクしているんだ?」


 いつの間にか考察を終えていた勇に見透かされてしまった。でもまあ、勇になら見透かされても全然かまわない。それを含む一切合切を伝えたところ「ならば次は俺が一切合切を話そう」と、勇は深みのある漢の表情になった。


「言い訳でも釈明でも嘘でもなく、俺は舞にバイオリンの件をバラしていない」「うん、そうだろうって思ってたよ」「最近の昇に変化は見られず、よって昇もバラしてないだろう」「再度同意」「バラすといえば前科持ちの妖精を思い浮かべるが、俺は翔や舞ほど妖精と交流しておらず判断材料に乏しいのが実情だ。ただ、翔がここの妖精達にバイオリンの件を秘密にするよう頼む様子を見ていた身として、感じるところはある。『少なくともここの妖精達はバイオリンの件を、舞はもちろん誰にもバラしていない』って、俺は感じるな」「うん、三度目の同意だ」「舞の耳に入った経路は他にも予想されるが、今話した三つ以外は可能性が極端に低いと俺は思っていた。でもさっきの考察中に脳裏を駆けた光景が、それを覆した」「どわ! そんな言い方されたら俺、気になって仕方なくなっちゃったよ!」「あはは、では話そう。脳裏を駆けたのは、起床時の舞の瞳。意識が覚醒して瞼を開けた直後の、舞の瞳だ。その瞳は、とても戸惑っていた。この3D電話の前にあの瞳が脳裏を駆けていたら、俺は即座に意識投射して舞の安否を確認しただろう。しかしこの3D電話で知ったことが、舞の安否確認は不要と俺に訴えている。説明が回りくどいな、俺の直感を述べよう。『就寝前の舞は、翔がバイオリンを弾けることを知らなかった。だが目覚めたら、バイオリンの件を舞は知っていた。起床時に戸惑っていたことから察するに、それは舞にとっても不可解な出来事だったのではないか』 これが、俺の直感だ」


 俺と勇はその後、不可解な出来事について話し合った。幸運だったのは、俺達には組織の知識があること。それらを駆使することで辿り着いたのは、「俺がバイオリンを弾く様子を舞ちゃんは本体経由で、夢として見た」という仮説。舞ちゃんの本体は、俺がバイオリンを弾けることを知っている。舞ちゃんの本体は俺の本体と何らかのやり取りをして、件の様子を夢として舞ちゃんに見せた。との仮説が、今のところ最もしっくりくる仮説だったんだね。ただ悲しいかな仮説を立てた時点で就寝時刻を30分超えていたため、話し合いはそれでお開きになってしまった。勇と知恵を出し合い問題解決を図るのはやはり問答無用で楽しく、その名残惜しさもあり電話を切る直前、


「深夜0時に準四次元でする舞ちゃんへの謝罪の場に、勇もいてくれるんだよな?」


 と、まるで既成事実のように持ち掛けてみた。が、それは空振りに終わる。それどころか「このド阿呆」のように、怒られちゃったんだよね。「うわっ、マジごめん」「いいってことよ。舞にヨロシク言っといてくれ」「了解」 数年前までの、新婚時代を永遠に続けているかのような二人だったら勇は間違いなく来てくれたのに、ベテラン夫婦の風格漂う今は来てくれなかったのである。それにしても勇と舞ちゃんは信頼し合っているよな、来世は俺もあんな夫婦になりたいなあ。

 などと妄想していたら、自分でも不思議なほど快眠できた俺だった。


 午後11時50分。

 明潜在意識に起こしてもらい、トイレに向かう。準四次元の会合に出席するときは明潜在意識に10分早く起こしてもらいトイレに行くことを、かれこれ四十年近く続けているからだろう。準四次元会合が開かれる日の夜、就寝中の俺の体は午前0時直前の放尿を見越して新陳代謝を行うのが恒例になっていた。睡眠中に尿意を覚えて無理やり起こされることが普段はまったく無いのに、会合に出席すべく10分早く起きたときは「小便漏れそう~」という状態に、ほぼ毎回なっているのだ。効率的なのか現金なのかそれとも野郎仲間のようなのか、判断つかないところも含めて「漏れそう~」と訴える体が、俺は大好きだった。

 スッキリし、寝袋に再び横たわる。その0.7秒後、俺は体から抜け出ていた。1秒かからず意識投射できるようになり、もう何年経つのだろう。さっきのトイレも今夜は雨が降っていたのに、屋外トイレとテントを繋ぐ輝力の屋根を造りかつ宙を飛んで行ったから、不都合は欠片もなかった。どうも今生の俺は、前世の俺が夢中で書いていたファンタジー小説の主人公の如くになっているらしい。そんな今の自分に、思わず笑ってしまった。

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