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「違和感を最初に覚えたのは、一昨日の早朝。朝の挨拶に来てくれた子供妖精達が全員、賢い子だったの。翔はどう?」「うっかりな子と賢い子のペアは、朝の挨拶組に混ざっていたよ。美雪は違ったとか?」「うん、違った。うっかりな子と賢い子のペアを初めて見かけたのは、夕方だったの。しかもうっかりな子は、練習したとおりの会話を私とした印象が強かったのよ」「改めて振り返ると、それに近い記憶が幾つかある。美雪、他には?」「女の子の妖精は、近づく私に気づかず夢中でお喋りしていることが多いのに、この三日間それを一度も見ていない。こんなの、あり得ないわ」「確かにおかしいな。他の違和感もしくは美雪の予想は?」「違和感や不自然さを上げたらきりがないから、予想を言うね。子供妖精達は、ある願いを口走ってしまうことを必死になって避けている。その避けている願いは『自分達もアベマリアを聴きたい』で、ほぼ間違いないでしょうね」「ドワッ、全てつながった感が半端ないな!」


 土地神巡りは今年の春、めでたく終了した。子供妖精達は無邪気に二周目を望んでいたが、複数の理由により俺はそれを承諾しなかった。その内の一つは、子供妖精達に我慢を学んでもらうため。自分がどれほど強く望んでいようと、相手の選択権を決して奪ってはならない。これを身をもって学ぶ良い機会と、俺は判断したんだね。

 話を戻そう。

 美雪のお陰で子供妖精達の不自然さにやっと気づけた俺は美雪に協力を求め、筆頭土地神との会談のシミュレーションを続いて始めた。けれどもこれは、筆頭土地神および妖精族への敬意の一環として形式的に行っていることだった。自分達のトップが軽々しく扱われたら嫌な気分になるのは、妖精も人も変わらないからね。とは言うものの当の筆頭土地神は「振袖娘として軽く扱われていた頃が懐かしい」と、みえみえの嘘泣きをことある毎にしているんだけどさ。肩を落としていたら和菓子の量が少し増えるからって、毎度毎度ショボンとするのはどうかと思いますよ振袖娘さん。

 まあそれは置き、輝力製の八畳の座敷を訓練場の脇に造り、テレパシーで筆頭土地神に呼びかけそこにお越しいただいた。2メートルの振袖がまるで友禅流しのように風になびいているのは今日も絶好調だが、それ以外は様相が春以降と大きく異なっていた。見え見えのショボンをしておらず、謝罪の気持ちを所作の全てで現していたんだね。こうなることを予見して七カ月間ずっと肩を落としてきたのなら、大狸どころか妖怪狸だなこりゃ。との本音をおくびにも出さず朗らかに挨拶し、とりとめない世間話を暫ししたのち、子供妖精達の不自然さを俺は切り出した。それを受け筆頭土地神は座布団を降り後ろへ下がり、腰を深々と折る。そして子供妖精達の現在の状況を教えてくれた。

 それによると、美雪の予想は100%正しかった。自分達もアベマリアを聴きたいという願いを口走ってしまうことを、子供妖精達は必死になって避けていたのである。直情径行の見本として創造主が創ったが如きあの子たちにとって、それが尋常ならざることなのは想像に難くない。途轍もない努力により、あの子たちはこの状態を維持しているのだ。そうそれは努力の賜物であり、ではなぜ不自然さとして美雪の目に映ったかというと、それは演技力が不足しているから。そしてそれを、俺はむしろ好ましく思っていた。地球には大勢いたからね、大人をコロッと騙す演技力を既に習得している幼稚園児達が。

 寒気が走ったので話を戻そう。

 子供妖精達の現在の状況を説明し終えた筆頭土地神は「あの子たちをどうか許してあげて下さい」と、額を畳に付けて俺と美雪に請うた。まったくこの振袖娘は俺を悪者にしたいのだろうかとの本音を呑み込み、現在の最高圧縮である1000圧を発動して振袖娘の左隣へ移動した。美雪も阿吽の呼吸で右隣へ移動し、俺と美雪で両側から促して振袖娘に顔を上げてもらう。と同時に俺はかなり焦って、畳の外に落ちようとしている振袖の先端を輝力で持ち上げた。なんと振袖娘は謝罪のさい、振袖をたなびかせるのを止めていたのだ。そりゃたなびかせたままだったら誠意のない証拠と捉えられても文句は言えず、おそらく俺もそう捉えたと思うが、さすが筆頭土地神。計算だったのか否かは判らねど、畳の上はまだしも土の上に落ちようとしている振袖に、俺は白旗を上げた。俎板の上の鯉にもお釈迦様の掌の孫悟空にもなることを、ある種の爽快感とともに俺は決めたのである。

 言うまでもなく、筆頭土地神は俺を鯉にも孫悟空にもしなかった。されずとも俺が率先して俎板やお釈迦様の掌に登り、妖精族の望む形で事態を収拾させたんだね。具体的には、


『子供妖精達の懸命の頑張りを非常に好ましく感じた俺と美雪は頑張りに報いるべく、美雪の歌付きの土地神巡りを来年中に再開することにした』


 と、正式に発表したということ。そして長~~くなったが、その発表は好ましかった最終到着地でもある。美雪の歌付きの土地神巡りは、俺にとって嬉しさしかないからね。その嬉しさは子供妖精達の必死の頑張りによってもたらされ、必死の頑張りにはお喋り者が妖精界追放寸前までいったことが大いに関係し、追放寸前で止まったのは俺がお喋り者を許したからで、そしてその許しが、必死に頑張る子供妖精達を好ましく感じたという発表に信憑性を与えた。子供妖精は自分達の頑張りが報われたと素直に喜び、それを経て頑張る尊さを子供達は学ぶことが出来た。まこと、良いこと尽くしである。妖精の掟に白銀王の名が明記されたのは暗澹たる気持ちになっても、二つの好ましい出来事を前後に配置することで封印したっぽい状況になったのだから、蒸し返さないでおこう。そんなことより美雪の歌をなるべく早く決めて、伴奏をじっくり練習しないとな! 

 とまあこんな感じに、今回の件は落ち着いたのだった。

 そう思っていたのだけど、この件にはまだ続きがあった。それはこの、舞ちゃんが掛けてきた一本の3D電話から始まった。


「翔君」「どうしたの舞ちゃん、改まった表情をして」「単刀直入に訊くわ。翔君はバイオリンをとても巧く弾くのに、なぜ私に黙っていたの? 返答次第では許さないからね!」「ヒエエッ ゴメンナサイ―――ッッ!!」


 俺と舞ちゃんの友情を壊しかねない最大の危機が、こうして始まったのである。

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