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 それでも申し訳ない気持ちを拭えず、せめてもの償いとしてその一族の訪問回数を一回増やしたところ、次の長期休暇前に「「「「師匠、来てください」」」」が天風家以外の全家から届くようになってしまったんだね。ま、子供達は可愛いし全然いいんだけどさ。

 いや違う、良いこと尽くしではなかった。長期休暇の冒頭三日の恒例行事だった美雪とのキャンプが、できなくなってしまったのだ。美雪は笑って許してくれたけど、将来有望な子供達を訓練することへ、人類軍の秘書AⅠが不平をいえる訳がない。笑顔の下に涙を隠していたと、考えるべきなのである。振り返ってみれば、子竜達への訪問を美雪がああも喜ぶ理由の一つは、風光明媚な散山脈諸島がキャンプの代わりになってくれているのかもしれない。俺は散山脈諸島の方角へ体を向け、真摯に手を合わせた。

 話を戻そう。

 名家巡りは今年も順調だった。子供達は可愛いし皆やる気に満ちているし、初回のように嫌な思いをすることも皆無だったからだ。皆無の理由は、クーデターを起こさせたことで間違いない。二回目以降、ダメな気配を漂わせる老人達があからさまに俺を避けるようになったからね。それは手放しで嬉しいのだけど二回目以降、


「師匠、私の運命の人を見てください!」「「「「私もお願いします!!」」」」


 も恒例になったのは、苦笑するしかなかった。ははは・・・

 ちなみにその頼みを叶えるのは、結果的に女子のみになっている。恋愛に関する男女の情熱の温度差により、自然とそうなったのだ。男子は「運命の人に出会った時の感動が薄れるかもしれないぞ」と仄めかすだけであっさり引き下がるが、女子は違う。最初こそ不安げな表情で「薄まるでしょうか?」と尋ねてくるものの会話を重ねるうち、


「私は例外的に薄まらないみたいです。師匠、どうかお願いします!」


 のように、覚悟を決めた眼差しと声で必ず食い下がって来るんだよね。これは、男子では一度も見られないこと。あの眼差しと声の男子がいたら覚悟に免じて願いを叶えることに、俺は決めていた。ま、今のところ一人もいないんだけどさ。と思っていたのだけど、


「師匠、どうかお願いします!」


 舞ちゃんの実家の天草家に、その男子がいたのだった。


 俺にとって天草家は、名家20家の中で三番目に気になる一族だ。一番はやはり天風一族、二番目は付き合いの長い三条一族、そして三番目が天草一族だね。舞ちゃんの実家なら二番目が順当なのだろうが、舞ちゃんにとって実家の人々は長らく他人に等しかったのが現実だった。話したことのある一族は当主一人しかおらず、しかも「君が舞か?」「はいそうです」の一度きりなのだから、他人の処遇を受けても仕方ないのだろう。

 しかしたとえそうだとしても、舞ちゃんの実家という要素は俺にとって非常に重いと言える。先方もそれを察しているらしく、初回訪問で嫌な思いをしなかった11家は天草一族のみだった。嫌な思いをしなかったことには、冴子ちゃんのオリジナルの冴子さんも関係していると考えられる。冴子さんの卵子の使用許可を得るべく、語り尽くせないほどの努力と苦労を当主はしたはずだからさ。

 舞ちゃんと冴子さんが孫と祖母の関係にあることを知っているのは当主のみとしても、天草一族における舞ちゃんの特異性および俺と舞ちゃんの間柄を知らぬ者は、一族に一人もいないのだろう。天草一族は初回訪問で嫌な思いをしなかった唯一の11家であると共に、初回訪問で子供達がカチンコチンだった唯一の名家でもあった。体のみならず心もカチンコチンで、それを通り越し恐怖にビクビクしている子もいたため、訓練を諦め最初は鬼ごっこをしたほどだったのである。狙いは当たり鬼ごっこをしている内に自然な笑顔を子供達は浮かべるようになり、機を見て故意に追い詰められ、絶体絶命のピンチにあえてなった。「ウギャア絶体絶命だ!」系の演技を大げさにして子供達の笑顔を最高潮にしたところで、俺は涼しい顔をして空へフワリとジャンプする。そして、


 タンタンタタ―――ン♪


 と軽快に宙を駆けてピンチを脱して見せたところ、ヤベエことになった。子供のみならず大人達までもが、ドッと押し寄せてきたのである。まあ俺は空にいたから、ヤベエことになったというのは誇張なんだけどさ。

 それはさて置き狙いは当たり、それ以降の指導は順調に進んだ。子供と大人の区別なく、みんな目の色を変えて訓練に臨んでくれたんだね。名家巡りの訓練初日に三次元駆動を披露したのは、何気に天草一族のみ。それを恩に感じたのか、天草一族は三条一族と並ぶ最も熱心に訓練を受ける一族になっている。

 そしてそれが、舞ちゃんの心をほぐしたのかもしれない。二年かかったがなんと舞ちゃんも、天草一族の一員として訓練に参加するようになったのである。言うまでもなく愛妻家の勇に俺は暑苦しいほど感謝され、感謝の熱量なら勇が文句なしの一位だったけど、感謝の深さなら勇は二位に転落した。感謝の深さの一位は、天草一族の当主だったのだ。本家最上の客間に招かれ上座に座らされ、滝涙の当主が深々と上体を折りその額が床に付いた時は、ぶっちゃけ逃げ出したかったけどさ。

 でもその後、当主が背負う様々な苦悩を打ち明けられたこともあり、悪い気はしなかった。オーラを見ても嘘や計算が一切なかったのも、非常に好印象だったと言えよう。そんな俺の脳裏を「この人は重すぎる荷を背負っているせいで、自分の人生を歩こうにも歩けなかったのかもしれない」との思いが駆けた。俺は心を二分割し、一方を当主さんのアカシックレコードへ飛ばす。当主さんは案の定、己より一族を常に優先してきたようだ。当主さんへの好印象が、ますます高まってゆく。それを胸に会話を続けたところ、それなりに楽しい時間を過ごすことが出来た。俺達、かなり打ち解け合えたんじゃないかな?

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